リーエとの出会い

「リーエはこの畑でもう少し収穫をするって言ってたんですけど……、いませんね……」


 ハグミに案内されたのはモーケル商会って組織の土地らしいんだけど、もう収穫を終えたらしい畑が辺りに広がっているだけで誰もいない。


「もう収穫終わったんじゃない?」


「いえ、そんなはずは……。今の収穫量だと奉納用の野菜が不足してるからもう少し作るってリーエも言っていたので」


「ちょっとで足りたとかでもなくて?」


「はい。どれくらいの量が奉納で必要か、運営がモーケル商会に変わったのもあって把握できてないとのことだったので、例年の収量やこれまでの仕来りなど、いろいろ引継ぎをするのと、ついででお手伝いすることになってるんです」


「なら、もうちょっと待ってみよっか」


「では、畑の横に休憩スペースの小屋があるので、そちらを借りて待ちましょうか」


 そんなやり取りをして数十分、約束をしているはずのリーエさんは全然来ない。


「何かあったのでしょうか? 」


「約束忘れてるとか」


「違う。外のニンゲンは約束も守れないってだけ」


「メギ、言い過ぎだって。どんだけ外の人達嫌いなのさ……」


「大っ嫌い」


「外の人達に良い印象を持っていないのは私も同じですけど。そんなこと言わないでください。私、ちょっと心配なのでリーエを探してきま──」


「──ごめんハグミ! めっちゃ待たせたか……も?」


 小屋のドアを乱暴に開けて、部屋に女の子が入って来た。焦った表情で息を切らしている。走ってここまで来たのかな? 息が苦しそうだ。


 目が合った。入って来た女の子は、私とメギに視線を向けて『え、誰?』って表情を浮かべている。


「えっと、ここってあたしの商会の建物なんだけど……、あなた達ハグミの知り合いでいいのかな? それとも商会へのお客さん? ちょっと今日は立て込んでるからお客さんならまた後日でもいい?」

 

「リーエ、落ち着きないですけどどうしたんです?」


「どーしたもこーしたもないよ! うちのアホな父親、引退したくせに祭りの運営に出しゃばってきて、奉納はしないとか言い始めたんだから」


「え、それは困ります……、ただでさえ世界樹が弱ってるのにそんなことしたら本当に枯れてしまいますよ?」


「ハグミに教わったこと全部説明してるのに、『古い習慣に囚われすぎてる』とか『収穫した野菜は他の町に売って、その金で町を豊かにする方が賢い』とか言ってるの。あー、ほんとにどうしよう……。こんなこと勝手に好き放題してたら、昔からいる住民の人達と争いになるよね……?」


「どうにかしたいですけど、私には先代様のような発言力もないですし、私が何か言ったところでダメかもしれません」


「もう、諦めるしかないのかな……」


「ですが、もしかすると何とかなるかもしれませんよ?」


「どういうこと?」


「それがそこのお二人。実は本人たち曰く──世界樹に宿る女神様らしいんですよ」


「えっと…………、どういうこと???」


「私もまだ二人が女神様だって信じ切れていないので、信じるために神様しか使えない神術魔法を見せてほしいってお願いしてて、見せてもえることになったんです」


「うん?」


「その神術魔法を私の前でだけお披露目するんじゃなくて、リーエやそれこそお祭りの会場でそれを見せれば、女神の存在を信じた人たちが、これまで通りのホーシ商会のやり方を支持をしてくれるかなって」


「でもどうやって?」


「そこで、祭りの催しを利用するんですよ。リーエ、祭りの催しで誰か出てくれる人を探してたじゃないですか」


「あ、ごめん。それは別の町からゲスト呼んで解決しちゃった……」


「なら、そのゲストの枠に被せて、私たちが目立つなんてどうでしょう?」


「怒られるって……」


「私は、奉納しないって聞いて怒ってますよ」


 私とメギをほったらかしにして、話が進んでいく。


 私を置いて話を進めるのは待ってほしいんだけど、リーエさんは私たちが女神ってことを聞いても話を聞くことに徹してて何も質問してこないから話がサクサクと進んでいく。話に混ざりたいって考えたのはメギも同じだったようで──


「私も怒ってる。外のニンゲンは女神の信仰軽視しすぎ、そんなことするなら、もうこの町で魔法使わせないから」


「え!? 狐が喋ってる!?」


「もう、いいって! 狐だって喋れるんだってば! みんなしつこい!!」


「あのね、メギ。普通はね、狐ってしゃべらないんだよ?」


「…………喋れる。今度にでも他の狐捕まえて喋らせてみればいい」


「狐が喋る喋らないなんてどっちでもいいよ。そっちのお二人名前教えてくれない? 狐ちゃんと誰ちゃんなの?」


「私はメギ。元世界樹の女神。ニンゲンが嫌い。リーエ、あなたは魔法を特に使いすぎてるから特に嫌い。商会とかお父さんとかどうでもいいから、奉納はなんとかして」


「初めましてなのに、なんかめちゃくちゃ嫌われてる……。あたし何かしたかな? まぁ、いいや。そっちの子は?」



「私、サクナ。さっき女神になったばかりだから、女神っぽくないかも、ごめん。あと、メギが好きかって言っててごめん」


「サクナ、勝手に謝るな、バカ」


「だって、リーエさんに失礼だよ」


「いや、いいよ。魔法の使い過ぎとはハグミからも言われてるし、他の昔からいる人たちにも散々言われてるから。女神様が言うならそうなんだろうね。あたしが悪いよ。でもね、私も悪意があって魔法使ってるわけじゃないのは理解してほしいな。ちょっと面と向かって言われると辛い」


「いくら元女神様だからって、リーエを不快にさせるなら私も怒りますよ。リーエは他の外の人達とは全然違います。悪いイメージを持たれていても仕方無いですけど、理解しようとせずに嫌いって言うのはおかしいと思います」


 リーエとハグミの反応にメギが、しゅんとしょぼくれた表情を浮かべる。何かいいたげだったけど、飲み込んだようだ。どことなく言いたいことを我慢したように見えたし、後にでもタイミングを見つけて、なんでそんなに邪見にリーエを見てるのか聞いみようかな……。


「ねぇ、その収穫祭でこれまでしてた奉納の大事さが、どれくらい大事かまだ女神になったばかりでわかんないけどさ、何か手伝えることとかあるなら、私、頑張るから。なにかできることは無い?」


 せっかく女神になって、世界樹を元気にしてきたのに。大事な風習が終わって世界樹が枯れるなんて、いくら何でもあっけない。


 そんなのは嫌だし、その神術魔法って言うのを見せるだけで何かがいいように変わるなら何人に見られようが全然かまわないって、私は思った。


 私の決意に、二人が顔を見合わせる。二人も何もできないよりはマシって思ってくれたのか、これに掛けるぞ! って感じの表情を浮かべてくれた。


「女神様も手伝ってくれるって言うなら心強い、どうせなら、収穫祭じゃなくて、女神降臨祭って感じで、主役奪っちゃおっか」


「ですね。メギさんの機嫌を損ねて魔法が使えなくなったら困りますし」


 二人も乗ってくれるみたいで一安心。4人でどんな感じに祭りを荒らすかって議題で、おっかない談合が始まった。

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