ハグミとの出会い

 ハグミと紹介された子は私たちを見て不審な視線を向けてくる。


 まぁ、この場所は女神様のための場所って言ってたし、知らない人と喋る狐がいたら驚くよね…。


「初めましてって言ってるど、メギの知り合いじゃないの?」


「会ったことはないけど、ハグミは私のこと忘れないでいてくれたし、沢山お世話してもらってるから一方的に私が知ってるだけ」


「……? それってどういうことですか?」


「今はただの狐になったけど、私はこの世界樹に宿ってた元女神。今はメギって名乗ってる。それで、こっちのサクナがこれからは世界樹を管理することになった。だから仲良くしてほしいの」


「そ、そう言われましても……」


 怪訝な目を私に向けられる、メギだけが私とハグミさんのことも知ってる譲許だから、ハグミさんとの今の心の距離感かなり気まずい。


「なら、これ……、今回の奉納で持ってきたジャガイモです」


 ハグミさんは半身のまま、足元に置いてあったらしい麻布袋を部屋の入り口のあたりに置いた。もしかして、くれるのかな?


「もらってもいいの?」


 苦笑いでハグミさんが「女神様への奉納のために育てたジャガイモですので……、女神様なのでしたら受け取っていただけると……」と言ってくれた。でも、そんな反応をされると、受け取っていいのか判断に困る。


「ってことは、私たちのこと信じてくれて──?」


「いえ、本心からは信じてはいません! ……ですが、この部屋がこんなことになってるのは初めてです喋る狐なんて普通じゃないので、もしかすると本当に女神様かもって思っただけです」


 こんなこと? って思ったけど、ハグミさんの視線の先を辿ると光るキノコや漂う光る胞子を見ているようだ。綺麗で幻想的になんて思ってたけど、普通だとこんなことになってないのかと驚く。ってことは女神がこの世界に来たから起きた変化って感じ……?


 でも、女神の存在が忘れられつつある世界で信仰してくれてるだけでもありがたい。奉納のためにって持ってきてくれたんなら、ありがたく受け取るとしよう。 


「ありがと。でも……、私はそのジャガイモをどう扱えばいいの? 食べればいいのかな?」


「全然違う。私たちは自分で奉納できないからニンゲンに手伝ってもらわないとダメ。ハグミ、いつもやってくれてるように奉納してくれる?」


「わかり……ました……」


 怪訝そうに部屋の入り口に置いたジャガイモの麻布袋をもって、ハグミさんが部屋の中央にある土の入った台座の前に移動する。台座の前に来ると麻布袋いっぱいに入ったジャガイモを土の上にぶちまけた。


 全体的に小ぶりなジャガイモ。中には芽が出てるし、青くなってるジャガイモもが結構目立っている。奉納してもらう立場でこんなこと思うのは失礼かもしれないけど──奉納する野菜があんな食べれない状態の野菜で大丈夫……?


「では、始めます」


 ハグミが目を閉じて、お祈りするように手を組んだ。すると、部屋に漂っていた光るキノコの胞子が台座に集まって、ジャガイモの周りがうっすらと輝き始めた。


「えっ……!?」


「どうしたの?」


 ハグミが何かに驚いたような反応を見せたけど、今はそんなことより、と祈りを再開する。


 しばらくすると、ジャガイモが朽ちて溶けるように地面へと台座の土にしみ込んでいく。ハグミが祈りを終える頃には跡形もなくなっていた。


「ジャガイモ消えちゃったけど、いいのかな……」


「私にもわかりません……。いつもは奉納して1週間ぐらいするとなくなっていましたが、今日のように光ったり、目の前で朽ちたりというのは初めてだったので……」


「あれで大丈夫。サクナ、メニュー画面出せる?」


「出せるけど……」


ーーーーー

『世界樹 ①』

『魔法』

「地図』

『施設』

『人物』

ーーーーー


「変化に気づいた?」


「この世界樹の項目の通知マークみたいなやつ?」


「そう、それを押してみて」


 指示されたとおりに、世界樹の項目を指でタップする。


すると、開いていた画面に──


【奉納が行われました 回復を行いますか? 『はい』『いいえ』】


 ──と表示された。


「これ、回復しますかって出てるけど、『はい』でいいのかな」


「うん」


 なら、と『はい』をタップすると、体力のゲージが拡大されて表示され、ほんの少しだけだけど回復した。でも……、 継続的に減っている地力の方が多すぎて、回復した地力は一瞬で消費されてしまう。


「これ、回復間に合わない……」


「これだけの奉納では足りませんよね、すみません。もっと上手に野菜を育てられたらいいんですけど、どうもうまく育てれなくて」


「あ、こらサクナ。ハグミを悲しませないで。怒るよ?」


「そんなつもりじゃ、ハグミさんごめんね……」


「い、いえ。奉納量が足りないのもなんとなく分かってるんです。ですが、私を含めた数人だけで町の皆さんの分の奉納をするのは厳しくて。もう少し魔法の使用を自重してもらえるといいんですけどね。先代の商会長と違って私には人望も実績も野菜を育てる技術もありませんから、発言力が弱い私の実力不足です……」


「そんなことない。町の外から来たよそ者のニンゲン達が悪い。あのニンゲン達がいるせいで世界樹も地力も回復しない。全部、金のことしか考えてないニンゲン達のせい。だからハグミは悪くない」


 落ち込むハグミさんをメギが慰める。けど、今の話しを聞いて一つ単純なアイデアが思いついた。


「──その人達にも奉納手伝ってもらうとかどう? 世界樹に影響与えれるほどの人数がいるなら、消費だけじゃなくて、回復のための野菜とか作ってもらえば、かなり改善できるんじゃない?」


「あー……、それはちょっと……」


「ハグミ、濁さなくていい。サクナ、世界樹のふもとにある町には、畑がそこまで多くもないし、畑の広さとかも大きくもないからそれは難しい」


「なら、畑広げるとかどう?」


「世界樹は今の体力と減少ペースだと次の夏迎えれないくらいには弱ってる。もう時間が無いから現実的じゃない」


「そうかな?」


「なんでかわからない? ちょっと考えてみて」


 メギに言われて少し考える。えっと、つまりは──


「──畑を広げて種が撒けたとしても、野菜が育つには時間が必要ですから、間に合うか怪しいってことですか……?」


「そういうこと、ハグミは賢い」


 考えて答えを出す前にハグミさんが答えにたどり着いた。


「それに畑や土地があったとしても無理。間に合うタイミングで種を撒いたとしてもダメ。あの金のことしか考えてないニンゲン達は直接金にならないことはしない。奉納する野菜は金にはならないから手伝わない。言い方は悪いけど、外のニンゲン達に期待するだけ無駄」


「それは言いすぎだと思いますけど……、否定しきれないのが実態ですね……」


 聞けば聞くほど頭を抱えたくなる話が出てきて頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 話の整理をすると、魔法の使い過ぎで世界樹の体力が減りすぎてて、回復しようにも奉納量が足りてない。奉納量を増やそうにも、消費を賄うための土地ものなければ、協力してくれる労働力もない。それって──


「──今かなりピンチなんじゃ? メギ、もしも世界樹の体力が尽きたらどうなるの?」 


「尽きたことがないから知らないって答えになる。死かも知れないし力がなくなるだけかもしれない。ただ、世界樹が地力の回復を担ってるからこの一帯では魔法が使えなくなるのは間違いない」


「そ、そうなんですか? であれば、何とかして世界樹を元気にしないとですね……」


「奉納以外に世界樹の回復できないの?」


「あるにはある。でもそれをすると他の町に迷惑がかかる」


「どういうこと?」


「世界樹は植物だから、根や葉から回復ができるの。たとえば、根っこは直接地面から地中の地力を吸い上げて、体力に変換する。葉の場合は葉で生成した地力を再吸収して回復する感じ。でも、根っことか枝葉を伸ばすのは今まで干渉してなかった部分の地力を奪うことになるからその分土地が弱るの。そうなると、他の場所に生えてる世界樹の女神を信仰してる鉱山の町とか海辺の町に影響でるからまずい」


「え、別の世界樹もあるの? それに、信仰してる世界樹と同じような気がピンチなら人助けで許容してくれないかな?」


「無理、争いの元。それぞれの世界樹に女神がいるし、一人の女神を信仰してるのが普通だから勝手な事したら何されるかわからない。」


「交渉して何とかならない?」


「少なくとも、私は他の女神と仲悪いから交渉とか無理。そのまま枯れろって言われると思う。よその町の住民もそう思うはず」


「じゃあ、もう何やっても無理じゃん」


「だから困ってて、サクナを頼った」


「話の内容的には頼るって言うか、道連れとか、共倒れって言うんだよ?」


 思わず口からこぼれた言葉に、メギがハッとした表情をして「ごめん」と悲しそうな表情を浮かべる。


 私たちの会話を聞いて、ハグミさんもどこか表情が暗い。


 笑顔になってほしいからって思ってこの世界に来たのに、来て早々私は二人の表情を暗くしてしまったと、私までもやもやした気持ちが湧いてくる。


 こんなにも、あれこれといろんな要素で詰んでるのに、この世界で私には何ができるんだろう……。


「まぁ、いざとなれば魔法の使用制限とか、地力の制限とかすることも考えるよ、世界樹おかげで魔法が使えてるなら、世界樹が枯れちゃう方がみんな困ると思うし」


「それはそうなんだけど、ハグミとか昔から私のこと信仰してくれてた人達が困るのは気が乗らない。今いる金の事しか考えてない奴らがどこかに行ってくれればかなりマシになるのに……」


「元女神様、一ついいでしょうか?」


「うん。メギでいい。なに?」


「メギさんは話す狐ですし、私のことをいろいろ知っていたりで女神として信じることはできるんです。ですが、サクナさんは知らないことが多いみたいですし、まだ女神として、信じることができなくて……。女神だと証明できることはありませんか? 例えば……、言い伝えにある神様だけが扱える神術魔法を見せていただくとか」


「できるにはできる。でも、世界樹にかなり負担がかかるかもしれないけど、必要ならする。でも、場所を変えたい。枯れた土地とか空いてる畑がある場所、ハグミ知らない?」


「でしたら、私の知人に声をかけましょう。休耕地や収穫したばかりの畑が開いているはずなので」


「あのリーエってニンゲンの畑のこと? 私はあのニンゲン魔法使いすぎて嫌い」


「まぁ、リーエは確かに魔法は使いすぎなとこがありますけど、悪い人ではないですよ。もしかすると今日はお祭りの準備で忙しいかもしれませんが、畑を借りるくらいであれば許してくれるはずです」


「なら決まり。移動しようか」


「なら、私が案内をするのでついてきてくださいね」


 部屋でて、目的の場所に移動するまでハグミさんとあれこれと会話をしながらこの世界のことをいろいろ聞いた。話題にでたリーエって人も別の商会を切り盛りしてる人らしく、ハグミさんの幼馴染らしい。


 会話の中でハグミさんに『さん』はいりませんって言われたのもあって、これからはハグミって呼ぶことになった。メギの計らいもあって、あれこれと協力してくれるみたいだから、困ったことがあればしばらく頼らせてもらおうと思う。

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