第四章 誰が為に 十話

「三日後だ。三日後、『歯車』は警察と自衛隊に正面切っての戦闘をしかけるそうだよ。

 政府も、テロリストは非国民だという法案を無理矢理通して、自衛隊を出動させるつもりだ。今回は形だけでも『歯車』に協力することになると思う。でも、僕らはもう、あれこれ君に言うのは控える。隊長にも、そう進言しとくよ。ただ、どうするかだけ教えてほしい。僕らは、君にしてやれる支援はするつもりだから」


 真也はそれだけ言い残して、小春を部屋まで連れていった。


 小春は何も言わず、部屋の鍵を閉めた。


 部屋に入ると、シャワーを浴びた。洗っても、洗っても、皮膚にこびり付いた血の臭いは取れなかった。


   *


(また、やってしまった……)


 真也は深く項垂うなだれて、手元の銃を眺めた。


 目の前で、潤が死んだ……両親が死んだ……恵津子が死んだ。小春もまた、一歩間違えれば、死んでいたかもしれない……それを送り出した一端は、確かに真也にもあった。


 真也は、銃のグリップを固く握りしめた。

(これ以上、目の前で理不尽なことを起こさせるもんか……絶対に……)


   *


 小春はひとり、ベッドの上で、膝を抱えてうずくまる。


 あの日からというもの、何もせずに過ぎる日々が多くなった。


 受験と勉強に追われた忙しなく、余裕のない日々と、今の日々と、どちらが良かったろう。

 そんなことを考えていると、小春の思いは自然と、昔の、まだ勉強も大したかせではなく、毎日のように佐和と遊んでいた日々の方へと向けられた。


 ふと、佐和があの言葉で何が言いたかったのか、唐突にわかった気がした。

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