第四章 誰が為に 七話

 しばらくして、真也は冷静でなかったと、小春に詫びた。


「それから、例の医者、若干気になるところがあった……わりと最近開業したってことだけど、まあ当然、もともとの融資元は銀行で、でも銀行は軒並み倒産したろう。それで結局、その引き継ぎをしたのが、おそらく、やつらの傘下らしいんだよ……」


 しかし、小春はスマートフォンを睨んでいて、真也の言葉を聞いている様子はなかった。


「佐倉さん、聞いてる……?」

「……医者の前に、どうしても寄らせてほしいところができた」


 ようやく小春は顔を上げると、スマホを真也に渡してきた。

 それは、佐和とのLINEのトーク画面だった。



「久しぶり。


 ごめん。連絡できてなくて。でも、連絡するわけにはいかなかったの。

 これは、ちゃんと佐和だから。

 小春の背中の黒子は二つ。

 

 セレモニーに来てたんだね、『英雄』さん?

 少し、会って話したいんだ。

 あの公園で。今日の、十時。

 ひとりで来てくれるって信じてる」

 

 そのメッセージとともに、会場内で男に突き飛ばされる、小春の写真が添付されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る