第三章 ユエと結え 八話

 翌日から、小春はユエとシナと共に、集団間の交渉役のひとりとして務めることになった。


 裏でリナの口添えもあったのだろう、小春はメンバーの間で、「例の電車ジャックで、機転と勇気を発揮し、三人の友達を救った英雄」として認識されていた。

 小春は誇張だと否定したけれど、謙遜だろうと、小春の言葉に耳を傾ける者はいなかった。


「まあ、『歯車』に近づきたいんなら、気をつけな。あの日以来、どこもかしこも集団ができちゃあ、抗争で潰れ、『歯車』と敵対したり、『歯車』にび売ったり、面倒な力学が空回りしてんの。しかも厄介なことに、『歯車』は最大のグループだってんで、警察も自衛隊も目をつけててねえ。なんせ、電力、水道、ガス、インターネットのインフラをことごとく掌握してるし、メシアンなんていう莫大な影響力増幅装置を持ってんだから、まあ、しゃーないわね。警察だって、ネットで言われてるほど馬鹿じゃないよ。このかんずっと、あの事件の生き残りを調べ上げて、ほんとの加害者と被害者との区別に奔走してるって話だし、どこもかしこもスパイだらけ。だから、『歯車』と警察、それから自衛隊は、お互い腹の探り合いなんだよ。それにね、『歯車』はもうでかくなり過ぎて、正直、ぐちゃぐちゃよ。まあ、だから、気をつけな」

 リナは最後にそう締めた。


 週に一度あるという、全体への報告会で、小春は正式に紹介された。

「新しいメンバーを紹介しよう! 『英雄』さ! というのも……」


 最低限の見張りを除いた百人以上が体育館で整列し、真剣な眼差しで登壇者を見つめているのは、なかなかに圧巻だった。ユエの人徳もあるのだろうが、よく二週間ちょっとでこれほど集めたものだ。小春は素直に感心した。こうなるともう、ちょっとした部隊である。


 小春はその報告会で、大きな拍手で迎えられた。小春は複雑な気持ちで、その拍手を受け取った。

「ええ、ですから、私、殺さないといけなかったんです……いえ、救ったなんて、とんでもない……」


 そう淡々と話す小春の言葉は、かえって真実味が沸くらしい。

 他の集団との交渉の場で、小春の語りと経歴は相手の同情を引き出した。


 最寄りの駅周辺の区画だけでも、大小合わせて、十数の集団があるらしい。中には元暴力団のような集団もあって、決して穏便な交渉ばかりではないらしいけれど、小春の存在に感化されて、小さな集団の幾つもがユエの集団に帰化し、そうでなくとも支援の意味を込めて、条件の良い交渉が進められることが多々あった。この采配を決めたユエの見立ては、流石だった。


 最初の交渉の後、シナは小春に飛びついてきた。

「サラ! サラのおかげだよ! こんな上手くいったことない!」


 シナが満面の笑みを浮かべてくれるのが、小春は素直に嬉しかった。

 そんな小春が居なくてはならない存在へと昇華するのに、時間はかからなかった。

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