第二章 サイレントナイト 十四話

 12月24日(土)

 

 今日の起床は十二時。

 佐和からも佐和の家からも、連絡はなし。

 ベーコン、パン、ミルクのチョコ。親も音信不通。の割に、相変わらず垣木からの連絡が絶えない。


 今日からもうネットは辞めよ。

 宣言が大切だよね、やっぱり。


 佐和を探すために『歯車』に入ることも考えたけど、けど、なんとなく、引っかかる。昨日のネットの感じだと、もう割とみんな『歯車』に入ろうとしてるみたい。

 そんな中で、佐和に辿り着ける気がしない……。


 そういえば、昨日の夜はずいぶん静かだったな……。


 

 12月25日(日)

 

 今日の起床も十二時。

 佐和と佐和の家からの連絡は今日もなし。

 カップラーメン、いちごのチョコ。


 銃がどんどんぱちぱち。花火みたいな音もした。楽しいな……。はあ。おかしいな、誓ったはずなのに、外に出る気が少しも湧かない。というか、だらけちゃう。


 佐和の家に一回行ってみようかな……。合鍵の場所は知ってるし。

 


 12月27日(火)

 

 今日の起床は十一時。

 佐和からの連絡は今日もなし。カップラーメン、ビターとビターなチョコ。


 

 12月29日(木)

 

 今日の起床は10時半。佐和からの連絡は今日もなし。

 カップそば、スイートなチョコ。そろそろ、目に見えて貯蔵がやばい。


 今日はなんでかふと思い立って、テレビをつけた。憶えてる分だけ、書いとこう。


   *

 

 デモ隊だろう。歯車の書かれたプラカードを掲げて、国会だか官邸だかの前を行進してる。銃を空に向けて。凄い数だ。


 そのひとりに、マイクを向けるレポーター。


「いつから、ご参加を?」


「三日前くらいですかね」


「どうしてこの運動にご参加なさってるんですか?」


「僕はねえ、これでも一級の公務員やってたんですよ。トップの中高大って出てね、物心ついた頃にはもう受験競争……いや戦争に巻き込まれてたんですね、ええ。んで、今じゃ、それなりの職位にもついて、つまりはエスカレーターですよ……昇りじゃないです、降りです、降りのエスカレーターを全力で駆け登ってきたわけです、一切振り返らずに。


 もちろん、きっかけは、あの運命の日なわけですけど、でもそれは最終的な後押しでしかなかったと思うんです。


 つまりね、嘘っぽさがあったわけですよ、ずっと、この人生全部に。


 きっと、それなりには生きていけたんでしょうね、地位も歴も収入も、社会的にはトップなわけだし……けど、どっか、まあ、死ぬ前とか、わかりませんけど、おそらくどっかで、後悔するんだろうなって、漠然と思ってたんです……退屈な人生だったなって。

 無意味な人生だったなって。


 実際、多いと思います、僕みたいなの。もちろん、社会的に疎外されてきた人っていうのも、一定数いますよ、虐待を受けてきた、とか、学校で壮絶ないじめにあってきたとか、あってるとか、売春やってたとか、家がないとか。


 所謂いわゆる、メディアが好きそうな……あんたもそういうの求めてたんでしょうけど、『らしい』理由があって、スポットが当たるのに格好なお膳立てをされてる人たちも、一定数はね。

 まあ、世間が、そういうらしさを手前勝手に求めるってのも、あるんでしょうが。


 でも、実際、僕らみたいなのの方が、圧倒的に多数ですよ、圧倒的に。僕らみたいな、漠然といたたまれなくなって、参加してるっていう人たちが」


 男は周りの声に合わせて掛け声を上げた。


「アダムとイブの話、あれ、嘘だと思うんですよ。あそこがね、ほんとに楽園なら、わざわざ林檎を食べる必要なんか、なかったろうと思うんです。ほんとに楽園なら」


「NHKからでした」


   * 


 そしてその翌日、とうとう、小春の身にものっぴきならない事態が降りかかってきたのである。


 すなわち、食料が尽きた。

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