第二章 サイレントナイト 十一話

 翌日、小春は日記をつけようと思い立った。


 12月13日(金)

 

 今日の起床は十一時。

 佐和からの連絡なし。


 朝昼兼用でカップラーメンとビターなチョコ。チョコは大好きだけど、流石にちょっとビター過ぎるんじゃない?


 暇過ぎて頭がおかしくなりそうだから(でも受験とか勉強は糞。っていうか受験のせいでこうなった)、なんか、読もっかな。中上健次とか……。



 そこまで書いて、鉛筆を置き、大きく伸びをする。

 さて、預言通り本でも読もうかと思って立ち上がり、階段まで行くともう既にくたびれてしまって、小春は柔らかい巣の中(ソファー)に舞い戻った。


   *


「もう事件から4日。政府も警察もなんの動きもない。銃の謎もなんもわからん」


「ちょっとさ、真面目に考えてみようぜ、この銃がどうやって出てきたかって」


「誰か起きてたやついないのかよほんとに。みんな寝てたって? それがほんとなら人間業とは思えん。つまり話すだけ無駄」


「でも紋ネリ(紋切り型のマンネリ)だとしても、大企業の(あるいは大企業連合の)陰謀説は一考の余地があるんじゃない?」


「それして何になんだよ」


「軍事産業は儲かるぜ」


「ぶっちゃけ、金があればなんでもできる」


「どうしてもこの国に軍隊を持たせた過ぎて、強引過ぎる手段に出ちゃった、とか」


「産業形態の遷移せんいに伴って近年日本での業界規模縮小傾向にある鉄鋼業大手各社のIR見ると、ここ一、二年、急上昇してる領域がある。マジでびっくりするくらい急上昇」


「邪魔な労働力の廃棄だと考えたんじゃないか? もちろん、自分の手を汚したくはないだろうし……」


「国も関与してたりして……」


「人口のカットだな!」


「あんだけ子を産め子を産め言っといてそれはない」


「完全AI導入の目途が立ったとか……」


「むしろその試算をAIが出しちゃったんじゃないか……? 人口を減らさなきゃ日本は不味いって」


「税収減るのにそれはない」


「とりあえず、計算してみた。


 今手元にあるグロック17は約7万、ただし原価はもっと安いはず、現在の想定を企業間の直売かあるいは製造会社からの直接配給と考えるべき。だから仮に50%とし、そしたら3万5千。とりあえず日本全体と考えて、赤ん坊まで行き渡ってるって話だから1億2600万。そしたら銃だけで4兆4千億。配給に必要な人数は最低、世帯数の5300万、まあ近隣地区は同時に行ったらいいだろうから、大目に見積もって10で割って530万としよう。海外から専用の低賃金労働者(コートジボワールとかガーナとか、カカオの採取で使われてる感じ)を大量に連れてくることを想定して、格安の航空往復で3万5千。つまり、渡航費で1855億、これに530万人分の人件費と滞在費(人件費×労働時間+食費+宿泊費)がかかるわけだけども、仮に国兼大企業連合の合同策略なら航空会社もさらに安く提供してることを加味して、もろもろで2000億でいいだろう。それに配送費トラック代+ガソリン代(1万+1万)で、約100億。総計で4兆6100億円。まあ日本の主要企業が出し合えば余裕の金。

 世界各国だと考えると、77億、つまり約70倍。322兆7000億。まあ、これも世界規模でみれば余裕だろうな」


「でもその想定には穴がありまくり。まずバレないようにするには日本各地の監視カメラを切らなきゃ。あと出回ってる合鍵を全部用意する必要があるな。それからそれだけの労働者を管理する仲介役が相当数必要だろうな。日本人も必要だろうから、その人件費は結構な額だろうね。あと、睡眠ガスにガスマスク、それも大量に。それに飛行機じゃなくて船だろうぜ、大人数を長距離運ぶなら。

 しかもそれだと、最低でも、航空か海運、不動産かホテル事業、重工業に、鉄鋼、監視カメラ会社、鍵会社、それから食品会社、製薬会社、化学製造業、運送会社は一枚噛んでることになるだろうな。省庁は軒並み入ってると見た方がいい。そんな数の関係者が極秘にしておけるもんか」


「でも事件の後、凄い数の飛行機が飛んで、結局、墜落したのも事実なんだよな……」


「あの深夜、みんな揃ってすやすやだったってことも、説明はつくな、一応。だいぶぶっ飛んでるけど」


「鉄鋼会社の不自然な売り上げ上昇も」


「なにより、大企業のトップがこの事態で軒並み沈黙、政府も省庁もろくに動かずチンプンカンプンと口先ばっかり、それがいい証拠じゃないの!」


「でもやっぱり無理がある」


「正直、おれの脳みそだけが突然チューブに繋がれて、どういう思考と行動するか観察してやろうってのが、一番現実味がある」


「まあ、普通の状態でその話聞くとお前の頭はアンポンタンだって烙印らくいんは免れないだろうけどな」


「ハッカーだな! これは全部大規模なハッカー攻撃によるものだ!」


「列車をずっと走らしたり、情報の規制をかけたりってのはできるだろうし、実際、それやった可能性は高いけど、実行は無理……まさか、実行部隊が全員AIかロボットだとか言うんじゃないだろうな」


「あとは集団催眠か、集団無意識で見る夢か……社会学と心理学が本腰入れた実証研究とか」


「集団催眠は大企業連合とあんま変わらない道筋辿るだろう……結局、眠らせないといけないわけだし」


「でもじゃあ、なんで大企業のお偉方はのうのうとしてるわけよ? 普通もっと騒いで事態の収束に当たるもんじゃないか?」


「いや、今でもやってるだろう……空回りしてるだけで」


「あるいは、起こったのは別の要因だけど、この事態が使えると考えて、静観の態度を取ってるとか……」


「でもそういや、この事件で大株主が破産したって話聞かないな」


「それは情報統制のせいか、情報が氾濫してるせいでしょう。つーか銀行は軒並み破産したはず。みんなが引き出し過ぎて。つーかむしろ引き出せなくて」


「他のスレとツイは凄い荒れ様だよ。銀行から金下せない! って。今この現代でATM打ち壊しが起こるんだから、やっぱ日本沈没だな」


「じゃあ、革命軍に入ろうぜ!」


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