第一章 フラッシュモブ 十二話

 一軒家の前にたどり着くと、玄関に鍵がかかったままだということを確認してから、抜き足差し足で庭を一周した。


 灯りはない。窓ガラスが割られた様子もない。裏口の鍵もかかったままである。音を立てないように鍵を回し、そっと扉を開け、耳を澄ます……その間、小春の指が銃のグリップから離れていない瞬間はなかった。


 五分、十分、十五分……小春はとうとう我慢できなくなった。

 さっ、と家の中に入り、後ろ手で鍵をしめる。靴を放るように脱ぐと、雄叫びを上げなかったのが奇跡だと思える勢いで部屋から部屋へと突撃していった。トイレから洗面所から、納戸までも、片っ端から扉を開け、動くものがないか、それだけを確認しながら、二階と一階を何度も何度も往復した。


 とうとう、動くものが何もないとわかって、小春はやっと胸を撫で下ろした……その安堵あんどは、一瞬で砕け散った。それまで部屋の細部まで詳細に確認する余裕がなかったのが、今やっと一息ついて、初めて気づいたのだ。普段は使われないリビングの引き出しと、両親の寝室の棚や小箱の引き出しが開け放たれていた。


 あるいは、両親が帰ってきて開けたのかもしれない。しかし、それでは何故、閉めずに出ていったのかわからない。小春の顔は青ざめた。


 小春はすぐに家中の鍵を確かめると、二階の自室に入り、鍵をかけた。


 それからスマートフォンと銃を取り出した。その二つだけ抱えて、さっとベッドに飛び乗り、布団を頭からすっぽりと被った。凄まじい件数の通知が来ていた。そのすべてがクラスの全体LINEで、他には何の連絡もなかった。


 小春は佐和のトーク画面を開いた。しばらく、画面と睨み合いをし、とうとう一文だけ送った。ついでメールも送り、着信も入れておいた。それから銃を握りしめて、固く目を瞑った。


 小春は両腕で耳を塞いで、寝ることだけに神経を集中しようとした。それでも、外から時おり聞こえる悲鳴と銃声の音に、小春はなかなか寝付くことができなかった。


 その一晩中、サイレンが止むことはなかった。

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