第一章 フラッシュモブ 九話

 

 既に黄昏時たそがれどきだった。

 空が眩く光っていた。小春たちは丸一日、電車の中で過ごしたことになる。


 それまでとても気にする余裕などなかったけれど、通り過ぎる駅を見ると、ぱらぱらと黒い警官の姿があった。

 といっても、数は多くなかった。この覆面が山手線だけなのか、他の路線にもいるのか、定かではない……(少なくとも、こうして回り続けている以上、他の列車にも同様にいると考える方が自然ではある)。が、一路線でもこういった事態に陥っていれば、どの駅にも警官が出向くことになるだろう。東京の駅は七百を越えるというから、何十人も配備しようとすれば、とても都の警官だけでは足りなくなってしまうだろう……。


 小春がぼんやりとそんなことを思っている間に、電車は何の前触れもなく駅に停車した。

 

 渋谷駅だった。ホームには警官の姿もちらほらあったものの、電車を待つ乗客がひしめき合っていた。そのことは小春を内心、驚かせたのだが、駅に着くと、乗客が一斉に走り出し、それどころではなくなった。時おり、銃声が聞こえ、すぐに修羅場へ様変わり、小春たちもその波に乗って駆け出した。


 小春は佐和から離れないように懸命に気を配った。けれど結果的にはその必要は全くなかった。溢れかえったホームの人々の中に、満員電車の半分の人間が突っ込んでいくのだ。流れは大河のように巨大で、小春たちは否応もなく、一丸となって濁流のなかに押し流されていった。


 辛うじて首を回すと、覆面の姿はもうひとりもなかった。

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