強すぎるスキルを持っているので縛りプレイをしながら楽しいことを見つけたいと思います～大富豪の息子は五人のメイドに囲まれながら超余裕な人生を嗜む～

第62話「三傑」

「ってえ～」

　吹き飛ばされたのはロイだった。

　想定していた魔力量よりもアンカーの魔力量は遥かに上回っていたのだ。

　両指が自由に動かない、おそらくいくつかの指は骨折している。

「はあ、はあ」

　ロイを吹き飛ばし、形成有利なアンカー。

　だが、彼の顔には疲れの色が見えていた。

　体を犠牲に魔力を手に入れた代償ともいえるその光景。

「アンカー、お前怒りの矛先間違えてるぞ」

　アンカーから返答はない。

　言葉を返す体力もないことだろうか。

　だがロイは言葉を続ける。

「選挙でお前の好きな第二が荒されている」

　第二の問題は、第二の生徒が解決するべきだ。

　本当はロイが関わるべきものではない。

「お前も第二なら知ってんだろ、でもなぜか参加していない」

「会長になんざ、興味、ねえよ」

　未だに放出し続けるアンカーの魔力。

　これからの戦いに対して抑える場面、だがアンカーは口が開いた。

　思う事でもあるのだろうか、続けてロイはアンカーを煽る。

「会長にならなくたってできることはあるだろ、お前はびびっているだけだ」

　きっとアンカーが動くにはあと一押し。

「逃げてんじゃねえよ、雑魚。　ぬるま湯につかってんじゃねよ、雑魚。　自分の居場所ぐらい、自分で守れる強さを持て」

「説教垂れてんじゃ——」

　アンカーはなけなしの魔力を放出し、ロイに向かって走り出す。

　怒りの矛先をロイへと集中するように、自分の弱さを押し付けるように。

「ねえええぞおおおおおおお！」

　既にアンカーの顔は、頭から熱湯を被ったときのように爛れている。

　アンカーの魔力の振り絞り方を見れば、最後の一撃というのは誰が見ても明白。

　この魔力量はロイの経験でも数少ない。

　命を懸けた魔力を発動できる人間は限られる。

「本当にお前は俺の想像の上を行くな、アンカー！」

　『退屈』が消えていくのがわかる。

　これを求め続けていた、これを渇望していた。

　探していた、見つけたかった、出会いたかった。

　人生を懸けてでも欲しいものが今まさにそこにある。

「破型、闇入り！　『暴烈機関銃（クレイジー・ガトリング）』！」

「『炎上天下（サマー・プライド）』オオオオオオオオ！」

　命を削ったアンカーの攻撃。

　対してロイは眼前の空間へ向かって両手で円を描き、生み出された魔力壁のようなものが空中に浮いた。

　止まらないアンカー。

　目の前の敵を倒すため、完膚なきまで叩きのめすため。

　だが辿り着く前、ロイの眼前に作られた円から無数の魔力弾が放たれた。

　普通の銃弾より、速度も威力も上昇した魔力の弾。

「う、あ、らああああああ！」

　魔力弾の雨が降り注いでも、アンカーは突き進んだ。

　己の力を誇示するために、自身の自尊心を保つため。

　そして、自分の住処を守るため。

「う、あ、がっ……」

　いつしか、アンカーから魔力が消えていた。

　ロイの魔力弾により全身に傷を負い、顔中に焦げた痕も見える。

「選挙で待ってるぜアンカー。　お前は参加するべきだ、この学園を守りたいなら、俺に勝ちたいならな」

　ロイが一言を残した瞬間、全身の力が抜けたようにばたりと地面に倒れた。

　これをもって魔力演武は第一王立学園の勝利で幕を閉じる。

「アートさん、審判ありがと」

「うん。　それにしても君、強いね」

「ふっ。　まあ、これはこれで大変だよ。　アートさんもこの気持ちは少しはわかる？」

　アートは首を傾げただけでロイの質門に答えた。

　ロイの推測だが、アートという女性は天才型。

　知らずのうちに強くなり、知らないうちにアンに目標に設定されている。

　アンと家族との因縁は、この女性の存在が間違いなく大きいのだろう。

　家族に関わる話はロイが踏み込むべき話ではない。

　だが、仲間になろうとすることにその壁が立ち塞がるのならば壊さなければならない。

「アートさん、また会おう。　きっと近いうちに、俺から会いにいくよ」

「うん、わかった」

　アートに言葉を残して、闘技場の出入り口に歩いて行く。

　ふと上空を見上げたロイ。

　これから起こりうる未来に想像し、この場に残ろうとも考えた。

　だが今はナナ・スカイを仲間にすることが最優先。

　楽しみをお預けする形で闘技場を去った。

＊　＊　＊

「どうあの子、俺の推し」

　第一王立学園の担任であるフウガ・ニノマイはニヤニヤしながら隣にいる男子生徒に話しかける。

　二人は観客席の一番後ろ。

　できるだけ人の目を避けてこのように後ろに座っている。

「彼なら、早めに会うことができることになるかもしれないですね」

　フウガの隣に座る男子生徒はタロウ・スズキ。

　第一王立学園、王立学園の中でも実力者として数えられる実力を兼ね備えた通称『普通な最強（アブノーマル・キング）』。

「どうだい君の目から見て」

「最後のアンカー君との試合でも全力を出しきっていないように見えました。　ですから、まだどれぐらい実力があるかわかりません」

「第二のアンカー君でも本気が出ないか。　うちの学園の七星なら本気を出してくれるのかな」

　ニタニタと笑うフウガ。

　まるで隣にいるタロウを煽るかのように発した言葉に、タロウは全く動じていなかった。

「それは間違いないでしょう。　僕が言うのもなんですが、うちの七星はそんなに甘くない。　それに第一には七星に名前を連ねなくとも、強い人はたくさんいますよ」

　タロウは口角を上げて、ロイを見た。

　いつか来る相手に思いを馳せているのだろうか。

「楽しみかい？」

　フウガはまるでタロウを試すように尋ねた。

　タロウの実力は十分にわかっているはずのフウガ、だが彼の目に映るロイ・アルフレッドという人物は、第一の一番の実力者と呼ばれるタロウに届き得る存在。

　タロウも自分と戦う相手に悩む。

　彼と対等に戦える人物は七星であってもそうはいない。

　フラッグ・ゲームという縛りがあるから、彼は苦労をしているだけ。

　単純な一対一の戦闘であれば、彼と対等に戦えるものは王立学園を探してもそうはいないことだろう。

「そうですね。　フウガ先生の期待通りの人物なら」

「ははは！　やっぱり君は普通じゃないよ」

＊　＊　＊

　魔力演武を終えたロイはコロッセオのとあるゲートに来ていた。

　観客席に戻るためには通らないとならない道である。

　一日目の締めが行われるからか、ここの通り道には人気(ひとけ)がなかった。

「ん？　あれは確か」

　ロイが見つめた先にいたのは男女のペア。

　制服は第二のものであるのは遠目から見てもよくわかった。

「こんなところで何してんのお二人さん、もしかして俺邪魔だったりする？」

　ロイの見ている二人。

　女性はロイとも会話したことのある、マイカ・カスタード。

　彼女がセイラ陣営のリーダーであるセイラの上に立つ存在である。

　一方大柄で筋肉質な男、第二王立学園生徒会長サーガ・ビックバンだ。

　セイラ陣営の敵対勢力、ラーク陣営のリーダーであるラークの上の存在。

　そんな選挙戦の重要人物がこうして二人で話し合っているのを、ロイが見逃すはずがなかった。

「んで何の話し合い？」

　遠慮という言葉を知らないロイは直接的に自分の思っていることを告げる。

　先ほどは自分の存在を邪魔と形容していたはずなのに、もうすっかり忘れているかのように振る舞う。

「何でこんなところにガキんちょがいるんだよ」

　不思議な顔でロイを見下ろしているのは、サーガ・ビックバン。

　目の前に立つだけでも圧倒される風格と風貌。

　予備動作なしに殴られそうな危険性も感じるこの男に対して、ロイはへらへらとしていた。

「さあね」

　金色の髪色、ロングヘア―でロールを二つ作って可愛らしい印象を与えている。

　小悪魔的な笑みを浮かべる小さな口。

　サーガの魔力が剛なら、こちらは柔。

　可愛らしい見た目に反して持っている魔力量は凄まじいものだった。

　この二人こそ、今争いが繰り広げられている選挙戦の黒幕と言ったところだろうか。

「あんたらが選挙に関わってくるなら、俺も本気を出せたんだけどな」

「ガハハハッ。　いいなあ俺はこういうやつ好きだぜえ」

「やめてくれよ、俺は男に発情するタイプじゃない」

　ロイは嫌そうにサーガの言葉を聞き流した。

「じゃあ私にだったら発情してくれる？」

「う～ん」

「あら私結構モテるんだけど」

「その性格がちょっと……」

　これはあくまでロイの印象に過ぎない。

　第二王立学園でのマイカの立ち位置などロイが知るわけもない。

　だがマイカの奥に潜む、どす黒いなにか。

　直観的にそれを感じ取り、ロイは彼女に対して一歩引いた目で見てしまうのも事実。

「ガハハハッ！　振られたなマイカ、何だったら俺が」

「それだけはほんとに無理。　絶対無理だし、あんたが死んでも無理」

　この会話を見れば、仲良しそうな二人にも見える。

　だがサーガとマイカは選挙で血を流す戦いを眺めている仲。

　決して仲が良いということはないはずなのに、二人はどこか別のところで分かり合っているような気もする。

　ロイは相手にされていないことを悟り、自ら話を切り出す。

「魔力演武は互角ってところかな、勝負は二日目に持ち越し。　でもローズがちょっかい出したから、明日以降は標的に入るのかな？」

　ロイの言葉に二人は黙った。

　その表情を察して、ロイも言葉を続ける。

「やっぱりセイラ陣営が不利だね、ラークはやっぱり選挙に関わっている奴らの中で実力は頭一つ抜けてる。　対してセイラ陣営はどうしても力というところで勝負できていない」

　正直、選挙の戦いはロイにとっては関係のない話。

　サラを守れれば、セイラ陣営が負けようがなんとも思わないのも事実であった。

「でも俺が一番疑問に思ってることは、あんたらが選挙活動に消極的だってことだ。　生徒会長の人気を使えばすぐにでも票は集まるだろうし、マイカ先輩みたいな男女誰かれも人気があればそれだけで票が集まる」

「ふん。　第一の分際であんまり探り入れるなよ」

「あら、私ってそんなに人気だったっけ」

　サーガとマイカはどちらもはぐらかした態度。

　この質問に関して、ロイは答えを得られるとは思っていない。

　だが、二人の反応はロイにとっても収穫。

「まあいいや。　二人とはWFG（ワールド・フラッグ・ゲーム）で会って、そんときに本気の戦いをする」

「どこかのパーティに入っているのか？　お前ほどの実力なら、七星と同じパーティに入っててもおかしくねえだろ」

　サーガは楽しそうに笑っていた。

「いや、パーティは自分で作った。　パーティメンバーは今探している最中だよ」

「ガハハハッ。　そういうやつだと思ったよ」

　サーガはロイの肩をバンっと叩いた。

　痛って！と言いながらロイは数歩動かされる。

　触れただけでわかってしまうサーガの力。

　魔力ではない、単純な体の質も学園生の枠組みから外れている。

「ロイ君、セイラをよろしくね」

　ロイが選挙に参加していることは、セイラには伝えていない。

　あくまで表立って活動するのはローズであり、ロイではない。

　どこでそれを知ったのか、ローズと姉弟ということだけでその可能性を話したのか。

「俺はサラを守るだけだよ？」

「それでいいよ。　それが結果的にセイラの力になる」

　ドゴオオオオオオン！

「なんだ？」

　廊下にいた三人の目線はすぐにコロッセオに向けられた。

　終わったはずの一日目魔力演武。

　コロッセオから起こるはずのない爆音が廊下にまで鳴り響く。

「面白そう」

　ロイはすぐさま観客席に続く階段に向かった。

　感じてしまったのだ、学生が出せるはずのない不気味な魔力を。

　それを知っていて黙って大人しくしているほどロイは大人ではなかった。

「なんじゃあれ」

　ロイが見下ろしたコロッセオにいたのは、三人の男と一人の男。

　なぜロイは彼らを一つで括らなかったのか。

　それは一人の男が派手なヴェネツィアマスクをつけていたから。

　その男が持つ魔力、ロイはうずうずして今にも飛び出しそうになる。

「——王立学園の皆さまごきげんよう。　私はアノロス、サソリという者です」