第24話「キリング・マシン」
「なっ!」
ピューロロロロ!
キリング・マシンの砲台に集まっていたのは光に近い魔力。
魔力砲台に集まった光が発射準備をしている音が廊下に鳴り響く。
「避けて、ケイト!」
カーラは一瞬で間に合わないことを悟った。
例えケイトを移動できる『ピュア・ベール』を展開しても、ケイトはキリング・マシンの攻撃に当たってしまう。
咄嗟にスキルが間に合わないと判断したカーラは声をかけて、ケイトの注意を促すことしかできなかった。
「くっ!」
ケイトが咄嗟に取れた行動は、腕を交差して顔を守るのみ。
防御の魔力を注ぐ時間もなく、魔力の砲弾がケイトを直撃した。
粉々に砕けた廊下。
割れた窓から風が吹き通り、アスファルトの内部にある鉄筋が棘のようにして飛び出ている。
アスファルトが粉々になり、ケイトの頭に舞い散った。
その粉をどかす気力もないケイトは、ピクリとも動かなかったのだ。
「クソみたいな兵器ね……!」
頬が何かに引っ張られ、眉間は磁石のようにくっつきそうなカーラ。
幼馴染が完膚なきまでに叩きのめされたことで、彼女のスイッチが入った。
「ゴギ、ガギギギギ!」
ゆったりした始動から加速的に、両手に取り付けられたマシンガンの照準をカーラに向けたキリング・マシン。
カーラのスキルは殺傷性には優れていない。
あくまでも移動のスキル。
戦争兵器として確立されたキリング・マシンとの戦いの相性は最悪であった。
「学園がどうなってるか知らないけど、とりあえずクソロボットはゴミに捨てておかないとね」
カーラは今、武器を持ち合わせていない。
そもそも、学園にいながら武器を携帯している者はそういない。
よほど愛着のある武器か、もしくはその武器がなければスキルを発動できないほどのリミットを設けている生徒ぐらいしか武器は持ち歩かないのだ。
だからどうした、カーラは心の中で呟く。
彼女は自分の環境に言い訳をしない。
言い訳をしたところで何も解決しない、愚痴をこぼしたところで何も成長はしないことを知っているのだから。
彼女の目標設定は常に高い。
ただ、目標を設定した以上下げることはしない。
それに向かって、どんな手を使ってでも目標を達成する。
自分の障害になるものは、叩き潰す。
これがカーラの指針であり、学園生活での方針なのだ。
「かかってきなさいよ」
「ガガガギギ!」
マシンガンが乱射される。
直線的に伸びていたオーロラはいつの間にかカーラに纏わりつくようにうごめいていた。
吸い込まれていく無数の弾丸。
相手は機械、敵を倒すまで打ち続けるのがロボットとしての使命であり行動プログラム。
「所詮はロボット。 殺戮兵器だか、なんだか知らないけど魔力を持った私に勝てるとでも思ってるわけ?」
弾薬を打ち切り、リロードモーションに入ったキリング・マシン。
その隙を逃さないように、カーラは右の手のひらを前に出した。
オーロラは廊下を区切るようにして横に伸び、先ほどキリング・マシンが打ち切った弾薬がオーロラから吐き出される。
オーロラからふわっと弾丸が飛び出す。
その後、人影のようなものがオーロラから出てきた。
「はやく自分の仕事しなさいよ、ケイト」
オーロラの中から最後に出てきたのはキリング・マシンの砲弾によって床に転がっていたケイト。
ケイトのことを知らない者なら、先の攻撃で倒されたと認識していたことだろう。
しかし、カーラの頭には彼が倒されたなどという戯言は一切頭に浮かんでいない。
あんな攻撃でくたばるケイトではない。
彼の負けん気は誰よりも強いのだから。
幼馴染のカーラだから、ケイトを信頼できている。
「『ディスチャージ・ガス』、人間銃器」
カーラのオーロラは物体を移動させることはできるが、物体の速度までは移動することはできない。
せいぜい、オーロラから物体を自由落下させるのみだ。
ケイトのスキルは物体にガスの噴出力を付与することはできない。
だが、触れることさえできれば自身の魔力をガスに変え加圧することができるスキル。
ケイトは自由落下する銃弾に凄まじい速度で触れ続けた。
僅か一秒。
その間に百発ほどある銃弾に触れた。
なぜ触れることができたのか。
もちろん、魔力をガスに変えるというスキルによるものも大きい。
だが、そのためにはスキルに耐えうる体が必要となる。
ケイトの体は、非情に柔らかい。
特に肩回りの関節が柔らかく、肩甲骨がひっつくほど。
だから、ケイトがガスを噴出し続けても衝撃によって関節が外れたりはしない。
彼の体と彼のスキルは相性抜群。
彼のスキルのためにあるような天性の生まれ持った恵体。
「終わりだ、ロボット」
ケイトによって弾かれた銃弾がキリング・マシンへと一直線に飛んでいく。
機械であるキリング・マシンが放った銃撃よりも、はるかに威力の籠った弾丸。
当然、キリング・マシンの装甲では耐えられない。
戦争用に作られた兵器、もちろん耐久力も設計の段階で考慮されていることだろう。
だが、防げない。
この威力の弾丸は世に出回っている武器では生み出せない。
テストもできないような想定外の攻撃を、ロボットが知っているはずがないのだ。
「ガギ、ギギギ、ギ……」
バタンと床に転がったキリング・マシン。
それを見たケイトとカーラはふぅと息を吐いた。
特に喜ぶ様子はない両者。
それもそのはず、彼らはたった今殺し合いを経験したのだ。
彼女らの反応こそ、人間の正常な反応と言えるだろう。
「……というか、何でこんなことになってるわけよ」
「俺に聞かれてもわからん」
「ま、それもそうね。 早いところ逃げましょ、あれだけの騒ぎを起こしていたからいつ追手が来るかわからないわ」
そう言うと二人はキリング・マシンから目を離した。
「————自爆プログラムを起動します」
「「っ!」」
突如として発せられた機械音。
二人は同時に倒したはずのロボットの方へ振り向いた。
「なんだこれ」
「自爆プログラムって言ってたわね、てことは結構やばいんじゃないの」
焦る二人。
ただ、動くことさえもためらわれた。
何かの衝撃で爆破するかもしれない。
動いたらセンサーが感知して爆破するかもしれない。
だから二人は会話を交わすことなく、二人で止まったのだ。
ピ、ピ、ピ。
秒を知らせてくれているかのように、キリング・マシンから音が鳴り続ける。
静寂な廊下に鳴る異質な音。
その音に対して何もできないカーラとケイト。
リズムよく流れる電子音が彼女らの焦りを増幅させていた。
そこにもう一つ、普段の学園で生活していれば聞き慣れた足音が廊下に響き渡った。
しかし、日常ではあり得ない緊張感が廊下に澄み渡る。
「ふむ」
ゆっくりと歩き、キリング・マシンの手前で止まった男。
ぴっちりと着こなした軍服を着ていることで鍛え上げられた筋肉がよくわかる。
そしてキリング・マシンに触れ、胸のあたりにある装甲を剥がして中身をまさぐる。
普通なら人間の持っている力では開けらないほどの装甲のはず。
その男はそれをいとも簡単に引きはがしたのだ。
その行為の後、キリング・マシンから流れていた電子音は消え去る。
しかし、爆発しないことへの安堵よりも男が持つ奇妙な雰囲気に注意する必要があったのだ。
「誰あんた、味方じゃなさそうだけど?」
異質な雰囲気に臨戦態勢になったケイトとカーラ。
二人の目は突如として現れた人物に釘付けだ。
「キバ、と言っても逃げていたお前らにはわからんだろうな。 このテロを仕掛けた集団のボス、と言ったほうがいいか」
ケイトはスキルを使って男との間合いを一瞬で詰めた。
彼がまだ自分たちに危害を及ばすかどうか分からないのにも関わらず。
目の前の悍ましい脅威を取り除かなければ、間違いなく死ぬ。
ケイトの飛び出しは本能的なものであった。
キバに対して勢いよく飛び蹴りを仕掛ける。
人間の反射神経では到底追いつけないスピードだ。
「……所詮はガキだな」
だが、キバは軽々しく右腕でケイトの攻撃を止めた。
そしてもう片方の手でケイトの足を掴み、回転させて教室の壁に投げ飛ばす。
窓ガラスが割れ、教室の壁がケイトの体をかたどったように粉々に砕け散った。
「普通の人間、ではなさそうね」
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