怨返し
逢初あい
第1話
おばあちゃんが亡くなった。葬式に参列している人たちは、悲しみに耽っていたり涙に目を赤くしている人がほとんどだった。制服を着た私は、斎場の隅でその様子をぼんやりと眺めていた。
私は、おばあちゃんのことが嫌いではなかったと思う。帰省のたびに色んなところにつれて行って貰ったり、私の知らないことをたくさん教えてくれた。周りの人たちが声を顰めて涙を流す中、涙を流すわけでもまして悲しいわけでもなかった。寂しくないわけではない。“もう逢えない“という状況を思うととても寂しいと思う。しかし同時に、“仕方のない事じゃないか”と頭の中で語りかけてくる自分がいる。そんな考えがおばあちゃんの骨を仕舞うまで頭の中で堂々巡りしていた。
私が中学生になる頃にはおばあちゃんは病院で寝たきりの状態が続いていた。母は度々私を連れてお見舞いに行った。機械に繋がれ自分で息をすることも食事をすることもままならないおばあちゃんに向かってしきりに“頑張って!”と励ましの声をかけていた。母は、私にも励ませと言ってきた。しかし、私には何をどう励まして良いのかすら見当もつかない。何も言葉が出ず立ち尽くしていると、母はあからさまに不機嫌な様子で“もういい”と吐き捨てる様に言い、またおばあちゃんに声をかけ始めた。そんな母が私は堪らなく恐ろしくなり逃げる様に病室を出た。母は家ではごく普通だった。私がお見舞いに行きたくないがために部活を始めても言及してこなかったし、何より病室であったことなど何もないかのような振る舞いにさらに恐怖を感じていった。
おばあちゃんが亡くなったのは、私が高校の卒業を間近に控えたある日だった。卒業後の進路も決まり時間的に余裕のある時期に内心ほっとした。私の中の心配事が一つ減ったような気分だった。おばあちゃんの骨を持って母と二人家に帰った。母は突然私に向かって“最期までよく頑張っていたわね。おばあちゃん。”と言ってきた。真意がわからず母を見ると、満足げな表情を浮かべている。さらに母は“あれだけ頑張って生きていたのだからきっと神様は見てくれているわ。”と続けた。私は母が何を言っているのか全く理解できなかった。しかし、私は反射的に“おばあちゃんは生きてた訳じゃなくて生かされてただけでしょ?”と返した。その瞬間、母の表情が変わった。汚いものを見るかのような眼差しで私を見ている。母は無言で私を殴りつけてきた。突然の事に倒れた私を見下ろしながらさらに母は何も言わずに、私を殴りそして蹴りつけた。
体をビクッと震わせ、彼女は目を覚ました。周囲を見渡し、何年も昔の事を幻現に思い出していたらしい事を少女は理解した。因果な事をあると、ベッドに横たわり機械に繋がれてなお懸命に生きる母親を見て彼女は感じた。
「神様が見てくれるまで、頑張って生き続けてね?」
少女は慈愛に満ちた笑顔で母親に告げた。
怨返し 逢初あい @aiui_Ai
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