警官
けたたましいアラーム音で夢が切り裂かれる。ばちんっと思い切り時計を叩いて、音を止める。体をゆっくり起こし、へその少し上に手を当てる。
ため息が一つ、こぼれた。
朝から疲労が大きくはあるが、身支度をしないわけにもいかない。いつも通り制服に着替え、身なりを整え、リビングに行く。
「おはよう、千春」
「おはよ」
ダイニングテーブルで父が先に朝食を食べていた。向かいに座って俺も食べる。
変わらない朝だった。
「いってきます」
そして普段通り、家を出る。
歩いて駅まで行って、いつもの改札に向かおうとした。拓海の、綾人の、大吾の顔が浮かんだ。人で混み合う構内で、立ち止まる。
少し崩れてしまったものを、今日、また、もう一度。
詰みなおしたところで、それは以前と同じものなのだろうか。
もし、今日俺が行かなければ、どうなるだろうか。
無意識に、俺の頭は色々考える。あいつらのことは大好きだし、一緒にいて楽しいに決まっている。それは変わらないけれど、俺の第一声で、何かが決まってしまう。
目の前を通り過ぎる人々が、色を失って見えた。皆、目的地に向かってまっすぐ歩いていく。
「ちっ、邪魔くさいな」
朝から疲れた表情のサラリーマンが、わざと俺に体をぶつけて、舌打ちをした。あっという間にその姿は見えなくなる。
俺ははたと気がついて、今の状況を見て、歩き出す。
普段と違う改札に入って、普段とは異なる電車に乗った。面倒になって、考えるのをやめた。
ぼんやり風景を眺めていると、あっという間に目的の駅にたどり着いた。
電車を降り、改札から出る。もう授業はとうに始まっている時刻だ。足早にバス停に向かおうとする。
「君、ちょっといいかな」
間に合わなかった。
振り返ると、そこには警察らしき人が立っていた。制服でうろついていたのだから、仕方ない。
「制服見る限り、高校生だよね? 学校は?」
本当にこんなことがあるんだなぁと思いながら、頭を回転させる。
「間違えて逆方向乗っちゃって。ちょうどチャージもないし、財布も忘れたので、親に迎えに来てもらうところなんです」
決してうまいとは言えない言い訳を口にする。警察は俺の言葉を飲み込み、ややあって頷く。
「そっか。気をつけるんだよ」
「はい」
見透かされているような気はしたが、笑顔を向けてくれた。きっとそういう日もあるよな、なんて思ってくれたのだと思う。
俺は小さく会釈をして、その場を離れる。親に電話をしているかのようにスマホを耳に当てながら歩いていると、ちょうど目的のバスが来た。これ幸いと乗り込んだ。
きっとさっきの警察にも見えていたのではないかと思う。
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