拓海

 目の前で輝く赤い肉の数々が、火にあぶられ、素晴らしい色味に変わっていく。したたる油が網の隙間からこぼれ、炎が一瞬大きくなる。これぞ焼肉という光景だ。

 食べ放題だからと皆、気にせず注文しまくり、テーブルは常に満タン状態のまま、食事は続いていた。喋るより食うの空気で、男四人で肉を貪った。

「そろそろ休憩挟もうかなー」

 綾人が鼻歌まじりにスープなどの軽めのメニューのページを見始める。

「あのさ、千春」

 そこに至極真面目な拓海の声が落ちた。今の場の雰囲気にはそぐわないものだった。

「どした?」

「いや、この間、ごめんと思って」

「え、どゆこと……」

 笑いながら返すも、拓海はいつものようにおふざけで返してこなかった。その瞳は俺をまっすぐ見て、真摯に光る。俺の顔に中途半端に浮かんだ笑みは、徐々に消えていく。

「手術してさ、別に俺らの関係は変わるわけでもないし、ただいつも通りバカ騒ぎすればいいと思ってた。いや、まあ、別にそれでいいんだろうけど、この間のはちょっと無神経だったかもなって」

 拓海の言いたいことは皆まで言わなくとも伝わってくる。この三人は美晴姉ちゃんのことや、俺の手術内容について、なんとなく知っている。そして俺は、拓海の言葉が、優しさでしかないことを、知っている。わかっている。わかってしまう。

「あの日は通院の日で、本当に用事があっただけだから、気にすんなって。俺、四人で馬鹿みたいに騒ぐの好きだし、これからも、な」

 正直、表情を取り繕えているかはわからなかった。自分自身の声が、遠くから聞こえる気がする。

 拓海はどこか安堵したような顔になる。黙ったままの大吾と綾人も、似たような表情をした。もしかしたら三人で話し合ったのかもしれない。

「よっしゃ! じゃあ好きなだけ飲み食いするぞー! 千春の金だー!」

「ああ、いいぞ、いいぞ。食べ放題だしな」

 拓海がいつもの調子で声を張り上げ、場の空気が明るくなる。いつもの俺らのものになる。

 だが胸の中心が冷たくなっていくような、三人がどこか遠くに見えるような、そんな気持ちがした。



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