4-4 ドバードの秘密都市 施設調査

 扉を開けた瞬間ドカン、とならないように丹念に長剣で叩いたりして調べ施設の中に足を踏み入れた。


 三人の現在地は中央の玄関らしき広間。

 玄関にしては思わず足を止めてしまうほど豪華絢爛な作りで広く、奥には二階は続く大きな階段。左右には別のエリアに繋がる扉が複数。天井は吹き抜けになっていた。


 しかし照明はなく薄暗く、数年放置されていたように大理石の床には埃が溜まって燻んでいた。人の気配は感じない。


「太陽の騎士団の施設と似てる作り……外観見た時に思ったけど、秘密都市の最高機関的な施設な気がする」

「所々に破損の箇所がある。事故や風化ではなく呪文による戦闘の形跡か……?」


 プラチナは目を細めて玄関広間を見渡してみた。確かに壁や床などに綻びが生じている。ただそれで建物が崩壊する事はなさそうだった。


 エネルが言った。


「何か変な感じするし、どう調査したもんかなあ。ガチオーガを発現した奴もいるかもしんないし」

「一応無人っぽい感じはするけど……」

「いや分かんないよプラチナ。ある意味未知の施設だし何かあるかもの前提で慎重に動かなきゃ」

「でもそれじゃ日が暮れちゃうよ」

「その通り。だから効率重視も加味して探索しないといけない。こんな所で一夜を過ごすつもりはないしね。スター」

「ああ。いちいち細かく調べる時間はない。重要そうな部屋以外はほぼ無視でいいはずだ」

「よし、じゃあその方向で夜になる前にやっちゃおう。最悪爆裂剣でこの施設を爆破するのも選択肢に入れて……いやガチオーガが怒るかもしれないか」


 三人は振り返って塀の出入口付近にいる、ガチオーガの後ろ姿を見た。変わらず守るように佇んでいる。

 どんな思惑で塀の出入口にいたのかは誰にも分からない。何故通してくれたのも分からない。


「エネル、プラチナ。時間が惜しい。手早く済ませよう」

「あ、はい」

「そうだね」


 考えて分からない事に時間を割いても仕方がない。

 三人は切り替えて、罠を警戒しながら慎重に左の扉から探索していった。



 扉の先は長い廊下だった。

 赤の絨毯が床に並べられて壁も天井も豪華だが、この廊下も損傷の形跡が見受けられる。

 右側には各種部屋が並び、左側には窓ガラスが等間隔に備え付けらていて、外の内側の塀の様子が眺める事ができた。


 三人はスター、プラチナ、エネルの順に隊伍を組み、先頭のスターが長剣で床や壁を叩きながら重要そうな部屋を探しながら進む。


 会議室、トイレ、厨房や食堂、接待用らしき部屋、娯楽室など、用心して扉を開け中を少し調べただけでスルーした。目的の場所ではない。


 既に盾手裏剣状態で、身体が薄緑に光っているエネルが警戒しながら言った。


「まあ兵器開発の記録とか機密文書とかは紙に書き記すものだからね。探す場所は大量に保管されて閲覧できる書庫や資料室。何処にあるのかは分からないけど」


 三人は二階に上がった。ここも人の気配はなさそうだった。

 ここからは本棚や本が数多くある部屋を中心に探索し、それ以外は基本無視する方針にした。


「少し考えてみたんだが……」


 変わらず慎重に、曲がり角で手鏡を使い行く先を覗き込む中、スターが口を開いた。


「そもそもの話、放棄した秘密都市に武器や兵器、機密文書があるものなのか? 普通放棄して無人にする以上重要な物は破棄するべきで……」

「そう言えば……そうですね」

「うっわ、わらわ何で気付かなかった」

「いや俺も今更気付いた」


 今いる秘密都市は存在を秘匿された軍事都市。武器や兵器を開発研究し、呪文使いを育成する事を目的として建設された。

 しかしこれまで都市の人間はおろか、銃火器や戦車は未だ目にしていない。窃盗を目論む探索者たちが漁って手にしていたのは、宝石などの貴金属類がほとんどだった。秘密都市なのに。


 最後尾のエネルが聞いた。


「病院の屋上から都市全体を見たけど、戦車とかを収納する建物誰か見た?」

「いや見てない」

「私も」

「わらわも。てかそもそも探そうとしてなかったか」


 あの時は探索してないエリアとガチオーガの確認のために屋上に向かったのだ。三人とも銃火器やら戦車やらの意識はしていなかった。


「それじゃあ、この建物の中の重要そうな物は既に破棄されて……?」


 スターとエネルに挟まれているプラチナが言った。


「その可能性はある、か。だが破棄して放棄なら戦闘らしき形跡がある理由が分からない」

「それとさ、ガチオーガが何でここを守ってるっていう話なるよ。何もない場所守るなんてもう、ガチオーガじゃなくてアホオーガでしょ」


 曲がり角付近で三人は考えたが答えは見つからなかった。

 探索を再開し少し歩いて、書庫に繋がる扉を見つけた。装飾を施された両開きの鉄扉の上に「第三書庫」と書いてある。

 

 プラチナが首を上にして言った。


「第三書庫って事は……」

「他にも書庫があるねこれ」


 スターが扉を観察して言った。


「重く頑丈そうで特徴的な装飾がある鉄扉だ。他にもある書庫も同じ鉄扉をしているかもしれない」


 鍵穴はなかった。罠の可能性を留意しつつ最大の注意を持って扉を調べ開ける。

 ギィィ、と重厚そうな音と共に、書庫内部の様相が露わになった。


「図書館……?」


 プラチナの指摘のように、室内は小さな図書館のような内装だった。


 見える範囲でも数多くの本棚が均等に並び、本やファイルが収納されている。開けたスペースには長テーブルと椅子が配置されていて、棚の側に複数置いてある段ボール箱の中には丸められた用紙やらまとめられた書類が雑多に重ねられているのが見えた。


 どうやら目的地に到着したようだ。だが天井の照明が消えてるため先が暗く見通せない。


「フォスン!」


 突然プラチナが呪文を唱えた。掌サイズの光球が発現して周囲を明るく照らす。

 スターとエネルが即座に反応し警戒したが、すぐに状況を把握して気を緩めた。


「そうか。プラチナはボルトティアとフォスンの呪文を使えたんだったか」


 スターは直前に発現した盾手裏剣を消した。


 ボルトティアは電撃、フォスンは光球を発現する呪文だった。エネルが声を明るくして褒めた。


「やるじゃんプラチナ。スターのシュリ・ブレイドじゃ光源にしては頼りないし、設置した時に本とか切り裂く可能性あったし、これで探索し易くなった」

「いやあ、えへへ……」


 褒められた事に加えて、役に立ったと思うと嬉しくなって口元が緩んでしまった。

 エネルがプラチナに尋ねた。


「ちなみにもう二個発現できる? 光源は多い方がいいし」

「うん!」


 プラチナは力強く頷いて再度呪文を唱えた。三つの光球が両の掌を合わせた上で光り輝いている。

 それを二つ手に取ったエネルが、適当な箇所に放り投げた。本棚で遮られたりしてるがこれで灯りが行き届き、図書館内の大体の様子が視認できた。


 見れば結構な数の本やファイルが、埃と共に本棚に収納されている。三人で回収できる量とは思えない。

 するとエネルが荷物を開けて縦長で茶色いのショルダーバッグらしき物を取り出した。

 プラチナが聞いた。


「エネルちゃん、それは?」

「無限カバン。一見普通の鞄だけど、中に入る物なら何でも収納できる容量無限のオーバーパーツ」

「えっ、じゃあそれで全部回収できて……」

「勿論回収できるよ。まあ実際に見てて。本棚にある本とかファイルとか全部これに収納するから」


 そう言ってエネルは近くの適当な本棚に向かって歩き、無限カバンを開けて本に触れた。


 その時だった。

 エネルが触れた紫色の本が勝手に本棚から外れ、空中に浮かび上がりページが開かれた。

 周囲を見ればいつの間にか他の本棚からも同じように外れ、色とりどりの本がページを開いていて浮いている。


「やっば、これイーブックかっ!?」

「エネル!!」


 即座にページを両開きにした無数の本がエネルに殺到する。本に埋もれる最中スターがエネルの元に急行し、エネルの手を引っ張って勢いそのままでプラチナの方へ放り投げた。


 反動で今度はスターが大量の本に群がられる形となった。

 呪文で抵抗する暇もなく突如、スターの足元の床がなくなった。スターが重力に従い本と一緒に落下していく。


「エネル、合流するまでプラチナを守っ……!」


 その声を最後にスターの姿は図書館から消えた。下に落ちていったのだ。


「まずい……どうする」


 エネルとプラチナは壁際に追いやられていた。残った本たちが宙に浮かびながら狙いを二人に定める。

 エネルの力が入った右掌が壁に触れた。すると後ろへと押すような感触があった。


 壁に触れただけなのに何で、と思う暇もなく二人は半回転する壁の内側に吸い込まれるように入っていった。

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