第15話 タイムリミット


クレハが加わった事で、改めて体制を整える。


「クレハ、あのドラゴンは額にある宝石を4つ全部同時破壊しないと倒せないんだ。1人1つずつ担当して、息を合わせて破壊しよう!」


「わかったわ!」


アタッカーが4人になった事で、壊せる目処が立った。

俺がアメジスト、クレハがルビー、恭介さんがペリドットで沙織さんがアクアマリンを壊す事にする。

あとは息を合わせて同時攻撃するだけだ。


すると、危機を感じ取ったのか2体のドラゴンが飛び上がった。

宙を舞ってしまうと近接攻撃のクレハでは攻撃が届かなくなる。

それを見てカイトがドラゴンを睨みつけながら指示した。


「厄介なドラゴンだな…!みんな、まずは翼を狙ってくれ!落ちてきたら俺と朔也さんは翼を斬って飛べなくしよう!」


「わかった」


父さんが頷いて剣を構える。

まずは遠距離攻撃できる俺と恭介さんと沙織さんの出番だ。


「シルフ!翼を狙ってくれ!」


俺はハチワレ猫のシルフを召喚する。

シルフは直ぐにシャカシャカ手を振り乱し、無数の風の刃を翼目掛けて飛ばした。


飛んでいった刃がドラゴンの翼を傷付ける。

しかし、命中はしたものの落ちるところまではいかない。


「くっ、浅いか!?」


「大丈夫、任せて」


恭介さんがそう言いながらアシストしてくれる。

シルフが傷付けた部分を正確に弓矢で狙い撃ち引き裂いた。


「やった!」


翼を裂かれ飛ぶのが困難になったドラゴンが地上へと降りてくる。

もう一方のドラゴンを見ると、そちらも翼が穴だらけになって落ちてきていた。

沙織さんの魔法は威力が高いので、単身で落とす事に成功したらしい。


「待ってました!」


落ちてきたドラゴンへ、今度はカイトと父さんが追い討ちを掛けに行く。

倒してしまうと逆に完全復活してしまうので、あくまで翼狙いだ。


カイトは下から斬りあげる形で片方の翼を落とす。

その間に父さんはジャンプしながら両手剣を振り下ろして両翼を斬り落とした。

これでもう空中に逃げる事は出来ない。



グォォォォォォォオ‼︎



怒ったドラゴンがより一層荒れ狂う。

2つの頭がカイトと父さんを乱れ打ちした。


「甘い!」


しかし、激しい動きにも関わらずそれをしっかり防ぐ父さん。

カイトも負けじと盾で防ぎながら声を張り上げた。


「今だ!みんなやってくれ!!」


残り時間は30秒。

ここで決めなければ後がない。


俺達4人は一斉に攻撃モーションに入った。

恭介さんは弓を引き絞り、沙織さんは魔法を練り上げ、クレハは飛び上がり、俺はトールを召喚する。


「絶対終わらせる…!!」


そして繰り出された一斉攻撃。


矢がペリドットを貫き、氷塊がアクアマリンを砕く。

小刀の斬撃でルビーが破壊され、雷撃でアメジストが弾け飛んだ。


完全に、同じタイミングで。




グオォガァァァァァー…ァ……




断末魔を上げながら、2体のツインヘッドドラゴンが消えていく。

倒した証拠というようにレインボームーンストーンが1つその場に落ちた。


それを見て一瞬だけシンと静まり、直ぐに歓声をあげる。


「「やったぁぁー!!」」


ついに、ダンジョン攻略に成功したのだ。

喜びが溢れて止まらない。

これで俺は助かるんだ。

周りを見回し、嬉しそうに笑う仲間達と目線を交わし合った。


だが、その視線の中を瞬間的にあるモノが掠めていく。




【00.04】

ーーピッーー

【00.03】




「まだだ!!」


俺とほぼ同時に気付いたカイトが叫んだ。

その声を聞き瞬間的に全員が事態を理解する。


俺達は、一つ勘違いをしていたのだ。

あのタイマーはドラゴンを倒すまでのタイムリミットだと。

しかし、本当はドラゴンを倒して宝石を扉の窪みに嵌め込むまでの時間だったのだ。




【00.02】




「アヒト!!」


父さんが床の宝石を弾き、それを受け取ったカイトが扉に一番近い俺に投げる。

キャッチするのと同時に全力で扉へ走った。




【00.01】




「間に合えぇえー!!」


皆んなが息を呑む中、窪み目掛けて地面を蹴って跳ぶ。

手を精一杯伸ばし、レインボームーンストーンを嵌め込んだ。




【00.00】

ビーーーーーーーーーーーーー

カチッ




瞬間、音が消えた。


いや…きっと気のせいだ。

時間切れの音が先に鳴ったなんて、そんな事ある筈がない。


「間に合った…よな…?」


自分に言い聞かせるように言葉を溢す。

大丈夫な筈だ。

そうでなければ…俺は…



しかし、それは無情だった。

次の瞬間…俺達は全員アーチの前に立っていた。


「嘘…だ…。そんな…」


信じられない。信じたくない。


他の皆んなも俺と同じ様に愕然とし、言葉を発せずにいた。

そこに、更に追い討ちを掛けるように音声が鳴り響く。



♪ポーーーーーン


【運営からのお知らせです。サービス終了まで残り1時間を切りました。安全の為、順次ログアウトをお願いします。皆様、長きに渡り『ブレイブテイル オンライン』をプレイしていただき、本当にありがとうございました】



繰り返し放送される言葉。

突きつけられる現実に、どんどんと追い詰められる。


けれど、カイトがそんな俺の肩をガシリと掴んだ。


「大丈夫だアヒト!!」


真剣な眼差しで言い聞かせるように言葉を続ける。


「今からもう一回挑戦すればギリギリ間に合う!クレハちゃんも来てくれたから、時間もそんなに掛からない筈だ!」


「カイト…」


「行こう!もう一度ロジピーストじょ…」

♪ピュインピュインピュイン



鳴り響いた音に全身が粟立った。

カイトだけでなく、俺とクレハ以外全員から鳴り響く音。

強制ログアウト…6時間経過で強制的に現実世界に帰され、1時間は戻ってこれない。


それはつまり、皆んな二度とここに来られないという事だ。

全員の顔が青褪めた。


「ウソでしょ!?アヒトくん…!」


「くっ、何とかなら…」


先にログインしたらしき沙織さんと恭介さんの体が真っ先に透け、言葉を言い掛けながら消えていく。

ほぼ一緒にログインしたであろうカイトが、その光景を見て俺に叫んだ。


「…!アヒトっ、諦めるな絶対に!きっと助かる!!だから最後まで…」


体が透ける中懸命に言葉を紡ぐが、言い終わる前に消えてしまう。


「アっくん!!」


次々消えていく仲間達の姿を見て、母さんが俺を抱きしめた。


「嫌よ!嫌!!そんなっ、こんなのってないわ…!!」


泣き叫びながらギュッと抱きしめる手に力を込める。

母さんごと、父さんも俺を抱きしめた。


「アヒト…!くそ、どうにかならないのか…!?」


「父さん…母さん…」


滅多に泣くことのない父さんが、頬を濡らしている。

それでも容赦なく、2人の体も透け始めた。


「嫌よ!まだ早すぎるわ…!お願い、アっくん…!!」


「アヒト…!!ア…」


俺の名前を何度も叫びながら、母さんと父さんの姿が消える。


「母…さん?父さん…」


呆然と呼び掛けるが、返事はもう返ってこない。

力が抜け、その場に膝をついた。


「う…あぁ…っ」


絶望感から、涙が溢れてくる。

クレハも何も言えず、ただただ俺の近くで立ち尽くしていた。


と、その状況に似つかわしくない声が突然響く。



《ク…クク…クハハハハハ!》


聞き覚えのあるその声へバッと顔を向けると、黒獅子に似た悪魔が腹を抱えて笑っていた。


《いっやぁ〜惜しかったなぁ。可哀想に》


口ではそう言うが、顔は嬉しそうにニヤニヤとしている。

俺はそんな悪魔をギッと睨みつけた。


「何が…可笑しい?馬鹿にしに来たのか…?」


《とんでもない!慰めてやろうかと思ってなぁ?いやいや、さすがの俺様も焦ったぜ?クリア出来ないだろうと高みの見物してたら、ドラゴン倒しちまうんだもんなぁ。まあけど最後の最後に…ブフッ》


堪え切れず思い出し笑いをする悪魔を見て、一気にはらわたが煮えくりかえる。

俺は怒りのままに胸ぐら辺りの黒いタテガミを掴んだ。


「この…!」


しかし掴み掛かられても悪魔は余裕の態度を崩さない。


《おぉっと良いのかぁ?俺様に手を出したらそれこそ帰れなくなるぜ?お前の…あー誰だったかな。アイツもほら言ってただろ?「最後まで諦めるな〜」って》


カイトの言葉を小馬鹿にしたような口調でふざけて言う悪魔。

本当に、どこまで神経を逆撫ですれば気が済むのだろう。

血管が切れそうな程に怒りが沸くが、歯を食いしばって堪え震える手を悪魔から離した。


《アララ残念。意外と辛抱強いねぇ?いっそ手を出してくれりゃあ俺様もさっさとここからオサラバ出来たのにな》


ケタケタと笑う悪魔は尚も挑発的な態度だ。

せめて弱みは見せまいと睨みつけながら言葉を吐く。


「いざとなったら、お前も道連れにしてやる…!」


《お〜怖怖。じゃあさっさとずらかってお前の絶望する顔を遠くから楽しむとするかぁ♪》


そう言って笑いながら悪魔は姿を消していった。

怒りと悔しさとやり切れなさで、思わず地面を殴りつける。


「ぐ…!くそ…っ」


もう訳が分からない。

頭の中がグチャグチャだ。

手が傷付くのも構わず、気持ちをぶつけるように何度も何度も地面を殴った。



と、その時、フワリと温かなものに包み込まれた。

ハッとして手が止まる。


温もりの正体は、後ろから抱きしめてくれたクレハだった。


「ごめん…ね、アヒト君。私、何も出来ないけど…」


その細い腕で、それでも必死に俺を支えようとしてくれる。


「ずっと…ずっとそばにいるから…!最期まで、ずっと…!」


自分だって、消えてしまうというのに。

それなのに俺の事を想って言葉を掛けてくれるクレハに、再び涙が溢れてきた。


「あり…がとう。クレハ…」


抱きしめてもらいながら、俺は情けなくも座り込んだまま泣き続ける。



クレハは俺が泣き止むまで、優しくずっと寄り添ってくれた――。




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