第13話 最終決戦へ


「ハウス」


「バっバカ!こっちに来るな!」


もう誰もツっこまないやり取りをスライム戦で繰り広げる。

あっという間にスナイパーを皆んなでボコボコにして倒した。


クレハの抜けた6人で、やってきたロジピースト城。

アタッカーは1人減ってしまったが、時間も無いしとにかくやるしかない。

恐らくこれだけのメンツが揃っていればクリア自体は出来るだろう。


ライフルだけを残して消えたスナイパーの前に立ち、カイトが解説を開始する。


「さて、宝石の出し方なんだけど…この、武器だけが残るのっておかしいと思わないか?」


「言われてみれば…」


今まで色んな敵を倒してきたが、どの敵も武器ごと消滅していた筈だ。

武器を残して消えるというのは違和感がある。

カイトはライフルをヒョイと拾い上げた。


「しかも、プレイヤーが装備できるアイテムですらない。で、アレを見ろ」


言われて指し示された方を見ると、ウルフがこれまでに無い程に尻尾をブンブン振っている。

そのウルフの視線の先にあるのはライフルだ。


「もしかして…」


「そ、こういう事だ!」


ブンッとライフルを部屋の端の方へ投げるカイト。

待ってましたとばかりにウルフが走ってそれを追いかける。

走りながらジャンプし、見事に空中でキャッチした。



ーーバキッーー



「今不吉な音しなかったか!?」


「大丈夫大丈夫。見てみろ」


慌ててるのは俺1人で、皆んなは至って慣れた様子だ。

俺1人だけの温度差が辛い。寂しい。


ウルフがブンブン尻尾を振ったまま戻ってくる。

そして口に咥えている物を見て、驚きの声をあげてしまった。


「あれって…宝石!?」


「そ。どうやらスナイパーライフルの中にペリドットが隠されてたみたいなんだ」


ウルフに手を差し出すと、掌の上にコロリと大きなペリドットを置いてくれる。

ゲームだけあって口から出したのに唾液などは付いておらず、緑掛かった宝石はただただ綺麗だ。

役目を果たしたというように、ウルフはスゥっとその姿を消した。


「こうやって分かると、意外とヒントがあったんだな」


「な。気付けなかったのが悔しいわ」


もし武器やウルフが消えない事に疑問を持っていればもっと早く気づいたかもしれない。

まぁ今更なので後悔するだけ時間の無駄だが。


「ほらほら、早く次に行くわよ」


「因みに次の宝石はルビーよ。赤くて綺麗なの」


先に階段に足を掛けた沙織さんに急かされ、母さんが補足する。

慌てて走ってきた俺に、恭介さんが聞いた。


「赤い宝石って聞いて何か気づかないかい?」


「え?」


「ほら、ゴーレムを思い出してごらん」


言われてゴーレムの姿を思い浮かべる。

5メートルくらいあって、白っぽいグレーの石で構成された巨体。

顔の真ん中には赤く光る目が1つあって…


「もしかして…目!?」


俺がそう答えに辿り着くなり、2階層の扉を父さんが開く。

ヘイトを高めるスキルを発動して単身ゴーレムへ駆け出した。

そしてその巨体を足場に2、3度跳び、いきなりゴーレムの目を剣で攻撃して抉り取る。


「そういう事だ」


取った目を俺に向かって放り投げる父さん。

キャッチすると、それは紛れもなくルビーだった。

隣にいたカイトが追加で説明する。


「因みに、一回でも普通に攻撃すると装甲が厚くなって取れなくなる。初撃で目を狙うのが正解だったらしい」


そういえば看板の文章にも『一手を大事に』と書いてあった気がする。

きっとこの事だったんだろう。

カイトも父さんに続くように駆け出しながら言った。


「とにかく、あとは前回と同じように倒すだけだ!動けなくなるまで全力で攻撃するぞ!」


目を失ってもゴーレムの動きは変わらず、攻撃すればするほど強くなっていく。

父さんがしっかりとゴーレムを引きつけている間に、皆んなで総攻撃した。

クレハが居なくなってしまった分攻撃力も落ちて前回より少し時間は掛かってしまったが、無事にゴーレムを倒す事に成功する。

取り敢えず順調だ。


「よし、次のスライム戦はどうするのか覚えてるよな?」


「あぁ。レバーを全部倒して魔法陣が白くなったら、どの対応属性でもない魔法使えば良いんだよな?」


「正解」


攻撃が効きやすい対応属性。

赤は火、青は水、緑は風、赤紫は闇、空色は氷、黄色は雷だった筈だ。

となると残りは光と土属性だが、召喚術士の場合光属性は回復のルナなので自動的に土属性の攻撃になるだろう。


自分のやる事をしっかりと頭に入れて3階層の扉を開く。

父さんとカイトはスライムの引きつけ役もあるのでレバー担当から外れ、俺と母さんと恭介さんがレバー&攻撃の為の配置につく事にした。

勿論沙織さんは攻撃のみに集中だ。


「さっ流石にもう覚えたわよ…!」と叫んでいたが多分気のせいだろう。


「始めるぞ!」


とカイトが声を上げスキルを発動し、スライムが反応した直後にレバーを一斉に倒した。

聞いていた通り、魔法陣が白く光る。

その魔法陣の上にしっかり誘導してくれているのを確認して、俺は土属性の精霊を召喚した。


「ノーム!」


飛び出してきたのは、目の周りや手足の毛が黒に近い黄緑色をした茶色いアナグマだ。

着地したと同時に床を地面のように斜めに掘り進み、その穴から両手を上げるようにバッと上半身を出す。

すると、前足から飛び散った土が大きな無数の土の塊となってスライムに降り注いだ。


「お」


攻撃を食らったスライムが、本当にプルプルと震え出す。

そして次の瞬間、ポンっと体の中から紫色のアメジストを吐き出した。


「よっし」


戦闘に巻き込まれないように宝石を素早くカイトが回収する。

因みにアメジストを落とすのは赤紫色の時だけなので、最初に回収するのが一番効率が良いらしい。

宝石さえ手に入れば、あとは前回同様倒すだけだ。


色に合わせて俺と沙織さんが属性攻撃を、他の皆んなも斬撃等をどんどん浴びせた。


「トドメだ!」


黄色に変わったスライムに対し雷の精霊トールを召喚する。

可愛らしいコーギーに誰も反応しない中、雷撃でスライムを倒した。


「さて、残るはセイレーンの宝石だけだな」


「セイレーン戦はどうすれば良いんだ?」


階段を登りながらカイトに説明を求める。

カイトは立ち止まる事なく扉の前まで行き、直ぐに扉を押し開いた。


「セイレーンも戦闘後に宝石落とすタイプだから、まずは気にせず前と同じ様に倒せばオーケーだ。あとは小春さんが何とかしてくれる」


「任せて〜」


水の入ったグラスの前に立ちながら、母さんが自信満々に応える。

それと同時に聴き覚えのある歌が部屋に響いた。



〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪



歌と同じ音程で直ぐにグラスを叩いて演奏する母さん。

何度もやっているからか、もう歌を聴かなくても演奏できそうなくらいの余裕がある。

ザパッと床からセイレーンが姿を現せば戦闘開始だ。


「もっかいトールで…!」


皆んながセイレーンしか見ていない中走り回るコーギー。

次々と雷撃を落とし、沙織さんの雷魔法も相まって一気にセイレーンのHPが削られる。

堪らずセイレーンは再び床へと潜った。

あとはこれを4回繰り返すだけだ。


前回より多少HPの減りは遅いものの、慣れたもので順調に戦闘が続く。

3巡目、4巡目と問題なく進み、ついにセイレーンを倒した。


「で、ここからが重要だ」


セイレーンが倒れるのと同時に俺の方を見ながらカイトが言う。

その直後に、前回同様セイレーンが掠れ掠れに最後の歌を歌った。



〜♪〜…♪〜♪〜♪〜…♪



それを聴いて母さんがグラスを叩く。

だが、その音程はどう聴いても最後の歌と違った。

確かここで演奏を間違えると憎々しげに睨みながら消えるのではなかったかと、慌ててセイレーンを見る。


ところが、セイレーンは睨むどころか嬉しそうに笑って消えていく。

消えたセイレーンのいた場所には、水色の綺麗なアクアマリンだけが残っていた。


「え?どういう事だ?」


よく分からず混乱する俺を面白そうに見ながらカイトが解説を始める。


「あの看板の文章にさ、『裏を詠み』ってあっただろ?それがヒントになって判明したんだけど、最後の歌の音程を逆にして後ろから演奏するのが正解だったらしいんだ」


なるほど、全く違う音程に聴こえたが、実は歌を逆から演奏してたのか。

わかっていても間違えそうなギミックである。

そう思っていると案の定といった反応で母さんが口を開いた。


「つい最後の歌に引っ張られちゃって、最初は何回か間違えちゃったわ⭐︎」


「てへ」と効果音が付きそうな感じで言う母さんの言葉を聞き、父さん達を見る。

皆んな何かを思い出すかのように遠い目をしていた。

ここで間違えると1階層からやり直しになるので、相当苦労したであろう事が窺える。


そんな皆んなの反応など気にも留めず、母さんはアクアマリンを拾い上げた。


「さぁ、いよいよ最後のボスよ。絶対に倒しましょう」


その言葉で皆んな我に帰ったようだ。

気を引き締めて階段へと向かう。


ここまで、どのステージも時間に余裕を持って来れている。

前回よりは遅いものの、合計40分弱くらいだろうか。

このペースで来られたのだから、ラスボスだってきっと倒せるだろう。


「最後のボスは、俺達もまだ倒せた事ないんだ。倒し方が分かったから今回は大丈夫だと思うけど…気をつけないといけない攻撃が多いから、アヒトは特にしっかり頭に入れてほしい」


「わかった」


カイトの言葉を聞き、多少不安を覚えつつ頷く。

5階層の扉前でカイトによるボス戦の説明会が開かれた。


「父さん達はもう分かってるだろうけど改めて。これまでの階層で手に入れた宝石を壁に嵌め込むと、頭が4つあるドラゴンが現れる。これがこの階層のボスになるんだけど、このボスは第二形態まであるんだ」


「マジか。長期戦になりそうだな」


「ああ。それと覚えなきゃいけない特殊攻撃も4つある。お前の場合命に関わるから、確実に覚えてくれ」


真剣なカイトの言葉に、ごくりと唾を飲み込みつつ頷く。

俺を落ち着かせるように、父さんが背中をポンポンと叩いてくれた。

いざとなれば皆んなサポートしてくれるんだろう。

少し気持ちも落ち着いたところでカイトの説明の続きを聞く。


「ドラゴンの頭はそれぞれこれまで手に入れた宝石に連動した目をしてる。で、通常攻撃に加えてその頭毎に特殊攻撃をしてくるんだ」


カイトはスッと、最初にゲットしたペリドットを掲げた。


「まずペリドット色の目をした頭。コイツが咆えたら床の一部が緑に光る。この光った部分に竜巻が発生するんだ。これに巻き込まれると大ダメージを受けるから、光った場所から必ず離れてくれ」


思ったより覚えやすいギミックでホッとする。

俺が理解したのを確認して次にルビーを見せるカイト。


「次にルビー色の目をした頭だ。コイツは前方に火炎放射を吐く。部屋の半分覆うくらい範囲が広くて厄介な攻撃だ。赤い目の頭が咆えたら、とにかく敵の背後に走ってくれ」


これはペリドット頭よりも注意が必要そうだ。

丸焼きにされるなんて勘弁なので、充分に注意しよう。

続けて、カイトはアメジストを掲げる。


「で、アメジスト色の目の頭だけど、コイツはあちこちに紫の毒を撒き散らす。その毒が落ちた場所が、一定時間毒沼になるんだ。要は足場が制限される感じだな。まぁこれに関しては、もし踏んでも小春さんが直ぐ回復してくれるから大丈夫だと思う」


「ええ。直ぐ治してあげるから安心して」


ニコっと笑いながら俺に言ってくれる母さん。

おっとりしてるようで回復スピードは舌を巻くレベルなので確かに安心だ。

それでも苦しいのは嫌なので気をつけようとは思うが。


「最後にアクアマリンだけど、これは全員の協力が必要だ。この色の目の頭が咆えたら、ランダムで誰か1人が水槽に閉じこめられる」


「は!?」


「そのままだと当然閉じ込められた人は窒息死だ。しかもヘイトも関係ないから、誰が閉じ込められるかもわからない。コイツが咆えたらとにかく全員に注目して、誰かが閉じ込められたら直ぐに水槽を一斉攻撃して壊すんだ」


「わ、わかった。スピード勝負って事だな?」


「そういう事」


なるほど、最終階層だけあって一筋縄ではいかなそうだ。

取り敢えず4つの特殊攻撃自体はなんとか覚えられたぞ。


「で、次に第二形態だけど」


「そうだそっちもあった!!」


くうっ、俺の頭は覚え切れるか自信がない!


「大丈夫だ落ち着け。こっちは割とシンプルだから」


笑いながらそう言うカイト。

俺だけでなく全員を見回して続けた。


「第二形態までは俺達も進めてたんだけど、倒し方がハッキリ分かってなかったんだ。まず第二形態の姿なんだけど、分裂する。ツインヘッドドラゴン2体にな」


「分裂?合体じゃなく?」


「そう。それが逆に厄介なんだよ」


説明するカイトと共に父さんも苦笑する。


「敵が2体に増えるからな。それぞれ引きつけないといけないし、しかも1体ずつ片付ける事も出来ない」


それを聞き思わず首を傾げた。

まずは片方を倒して残りも倒す、なんていうのはよくある倒し方だ。

それが出来ないとはどういう事だろう。

俺の疑問に恭介さんが答えてくれる。


「片方倒してもね、復活するんだよ。どちらから倒しても関係なくね」


「復活する!?」


必死に倒した挙句に復活されたらたまったものじゃない。

それならどうやって倒せば良いんだろう。

そう思う俺にカイトが説明する。


「大方予想はついてたけど、クリアしたパーティーが出た事で確実になった。分裂した際、ドラゴンの4つの頭それぞれの額に宝石が現れるんだ。それを全部同時破壊すれば倒せるらしい」


確かに、それだけ聞くととてもシンプルである。

しかし、同時破壊というのは…


「単純だけど、難しそうだな…」


「そうなんだ。第二形態になると特殊攻撃はしなくなるんだけど、素早さが上がるうえに頭それぞれ独立して動き回る。これを同時に4つ破壊ってのは分かっててもなかなか出来ない。1個でも残れば壊しても再生するしな」


なんという面倒な敵だろう。

おまけにこのステージも勿論制限時間がある。

もたもたしてれば時間オーバーでクリア失敗だ。


「それでも…やるしかないよな」


「あぁ。大丈夫だ、このメンバーなら絶対倒せるって」


カイトがそう励ますように言ってくれ、父さん達も同意するように頷いてくれる。


サービス終了まで残り約1時間半。

恐らくこれがラストチャンスだろう。

なんとしても今回でダンジョンクリアしなければならない。


俺は大きく深呼吸し、決意を固めた。


「よし、行こう」


俺の言葉を受け皆んなが臨戦態勢を整える。

最後の戦いへ向け、全員で扉を押し開いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る