第4話 消えた親友(海斗視点)
強制ログアウトされ、温人の部屋に戻ってきたと座椅子に座った感覚でわかる。
フゥと息を吐きながら、ヘッドギアを外した。
「なんか災難だったな温人」
左隣に座っている筈の親友に話しかけながらそちらを見遣る。
ところが、温人の座椅子の上にはヘッドギアしかなく、何故かその姿は無かった。
「あれ?温人?」
部屋の中を見回すが、もぬけの殻だ。
そもそも俺の方が先にログアウトされたのだから、部屋から出る時間も無かった温人が隣に座っていない時点でおかしい。
訝しんでもう一度隣の座椅子に視線を戻す。
その瞬間、ある事に気付いて背中に悪寒が走った。
「え…!?」
このヘッドギアは、安全の為にログアウトして電源をOFFにしなければ外せないようになっている。
その筈なのに…温人の白いヘッドギアに入っているラインが、電源が入った状態で緑色に光っていた。
それと同時に、先程起こった出来事が頭を過ぎる。
「いや、まさか…そんな漫画みたいな事…!」
有り得ない予想が脳内に浮かび、否定するように慌てて自分のヘッドギアをまた被った。
もう一度ゲームに入って確認しなければと気持ちが焦る。
しかし、いくら電源ボタンを押しても起動してくれない。
「チッ、休息タイムか…!」
強制ログアウトの後1時間はログインできない事を思い出し舌打ちする。
直ぐにゲーム内に戻れない事にもどかしい気持ちになるが、なんとか思考を巡らせた。
けれどやはり同じ答えに行き着いてしまい、俺は温人の部屋を飛び出して1階へと駆け降りた。
「小春さん!!」
バンッと勢いよく扉を開けて、キッチンにいた温人の母親に声をかける。
小さい頃から家族ぐるみで仲良くしている為、昔から温人の両親の事は名前呼びだ。
突然大声で呼ばれた小春さんは少しだけ驚いた表情をしてから、直ぐに柔らかい笑みを作った。
「あら、海くんどうしたの?お昼ご飯ならもうすぐだから、ちょっと待ってね。温っくんも呼んできてくれる?」
おっとりとした口調でニコニコと言う小春さん。
だがこちらはご飯どころではなく、相手の危機感の無さについ声を張る。
「そんな場合じゃないんだ!温人が…温人がゲームの中に閉じ込められたかもしれない!」
必死の形相で詰め寄ってきた俺に、小春さんは僅かに戸惑いを見せながら質問を返す。
「えぇと…バグでログアウト出来なくなっちゃったって事?」
意外とゲームに明るい小春さんの言葉にブンブンと首を横に振る。
「そうじゃなくて…っ、本当にゲームの中に入っちゃったかもしれないんだ!!」
「え…ええ?」
小春さんは信じられないというかよくわからないといった感じで料理する手を止めずに声を零す。
俺は堪らずガス台の火を消し、小春さんの手を引いて無理やり温人の部屋へと向かった。
「さっき一緒に遊んでたら、温人がゲーム内で怪我をしたんだ。そんな事あり得ない筈なのに…。それで、ログアウトしてみたら温人が消えてて…」
階段を登りながら端的に説明すると、ようやく俺の言葉の意味がわかってきた小春さんも少し顔色が変わる。
「も、もう海くんったら。私を驚かせたくて冗談言ってるんでしょ?」
「冗談なんかじゃない。ほら」
扉を開けっ放しにしてた部屋の前まで来て、温人のヘッドギアを指差す。
電源を切らなければ外せないと小春さんも知っており、更に顔を青くした。
「嘘…よね?装着してないのにたまたま電源が入ったからって、イタズラしてるんでしょう…?」
温人がそんなタチの悪いイタズラなんてしない事は、俺より小春さんの方が知っている。
信じたくなくて、そう口にしているのだ。
でも、俺もまだ予想の範囲内であって断言できる訳ではない。
確認したくても、次にログインできるのは1時間後だ。
何か他に、温人がゲーム内に居るというのを確認する方法があれば良いのだが…
「…あ!」
そこでふと、ある機能を思い出した。
このヘッドギアにはゲームを持ってない人でも様子を楽しめるように、また子どもがゲーム内で問題なく遊べているか親が確認できるようにといった目的で、テレビ画面にプレイしている様子を映し出す事が出来るのだ。
他の人がプレイしているテレビゲームの画面を見るような感じで想像してくれれば分かりやすいだろう。
普段使う事が無いのですっかり忘れていたが、その機能を使えば温人の様子を見られる可能性がある。
直ぐにリモコンを掴んでテレビを点け、ゲーム画面用に入力切替した。
そして少し震える指先で、ヘッドギアに付いている映写ボタンを押す。
装着主の居ないヘッドギアだ。
バグか何かで電源が入っているだけなら、押したところで何も映ることはない。
だが無情にも、真っ黒だった画面がパッと明るくなる。
そこには、この場に居ないはずの温人の姿がしっかりと映し出されていた。
「…!」
「温っくん…!」
悲鳴に近い声で温人を呼ぶ小春さん。
テレビの前に駆けつけ、画面の上端を掴む。
映し出された温人はどうやら転倒してしまった後のようで、ズボンが一部破れ膝から血が出ていた。
怪我をしている事で、俺も小春さんも余計に青褪める。
それだけでなく、絶望したような顔で俯く温人。
「そんな…っ、どうしてこんな…!温っくん!!」
その様子を見て今度こそ悲鳴を上げる小春さんに慰めの言葉を掛ける余裕も無く、俺はその場で立ちすくむ事しか出来なかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます