第十六話 豪傑
「お腹が空いた。」
「でももう時間ないよ?」
「はぁぁぁ〜」
あれから結局約束の時間が迫り、僕は焼きそばを食べられなかった。なのでお腹がものすごく空いている。それはもうものすごく。
「焼きそば…食べたかった…」
「ほーら!うじうじしていたってしょうがない、ハキハキと歩く!」
「はぁ…」
「あ!ななしの着いたよ。【冒険者協会】」
そう僕たちが向かっていたのは静岡県にある冒険者協会。それがここだ。
「じゃあ中に入るか。」
先程の焼きそばの件もあり、重い足取りのまま中へと入ろうとするななしのだったが、それにとどめを刺すようにセーリアからある一言が放たれた。
「あの…それなんだけど…ごめん。私別件で用事があるからそれに行かないといけなくて…」
「よし。依頼とかどうでもいいな、やめよう。やめて僕もセーリアについて行―」
「―駄目に決まっているでしょう。」
後ろから聞こえてくる声、振り向くとそこには渚がいた。
「渚?どうしてここに。」
「あのねぇ!なーくん、たしか私言ったわよね?迷宮を攻略するにあたっての作戦を立てるために私も行くって。」
「……あ!あ〜ああ、たしかそんな事言ってたような。」
「はぁ…まあいいわ。じゃあ行くわよ。」
そう言いながら僕の首根っこを掴んで引きずる。
「家に帰りたい…」
「我儘言わない!…じゃあせーちゃんそっちは頼むわね。」
「分かった…任せて…」
なお、このとき渚を見るセーリアの目が若干…いやかなり濁っていたのは言うまでもないだろう…
・・・・
こうして冒険者協会の中へと足を踏み入れた僕たちは受付嬢を通して重苦しい雰囲気の漂う扉の前まで来ていた。
「ギルド長はこちらでお待ちになられてます。」
「どうも。」
『コンコン』
「失礼します。」
渚の声とともに扉が開く。扉の先には背丈の高い筋骨隆々のおっさんが座っていた。
「おお!久しぶりだな、二人共!!」
「ええ、久しぶりおじさま。」
そう、二人のこの反応から分かる通りこのおっさん…もとい【岩堅也 豪傑】(いわかたなり ごうけつ)とはそれなりに交友関係があったりする。
「豪傑お前…また一段とデカくなったんじゃないか?」
「むむっ、そうですかな?しかしななしのさんに褒めていただけるとは老いぼれ冥利に尽きるというものです。ガッハッハッハ!!」
「いや、別に褒めてるわけじゃ…」
歳は今年で71歳、この歳になっても未だに衰えを知らない筋肉はより一層輝きを増していた。
「それで、今回攻略をする他のメンバーは?」
「そういえば居ないわね。」
いつまでもこうしていては話が進まないので、僕は本題を切り出した。すると豪傑はバツの悪そうな顔をしながら頭をポリポリとかき始める。
「あー…それなんですが…少々問題が発生してしまっておりましてな…」
「問題…?」
「実は…」
・・・・
そこでは三人の男女が戦いを繰り広げていた。
「ハハハハハハッ!!どうした?さっきから逃げてるばかりじゃないか!?攻撃してこないのかい?!」
「チッ!丁度今からしようと思ってたんだ……よッ!」
一人の少女が持っていた小刀に指で何かを書く。
「―閃―」
その言葉と同時に少女が小刀を斜めに振り上げる。その剣は凄まじいスピードで男の首元まで迫っていた。
「ヤバッちょまッ?!」
男はそれを間一髪といったところで避けたがそのせいで体制を崩していた。その隙を少女が見逃すはずもなく再び剣を振り下ろす…がそれもまた不発で終わった。
「…今のは危なかったな。けど当たらなければ意味はない。君もそう思うだろう?真咲 翡翠(もざき ひすい)」
「人の名前を気安く呼ぶな。」
「ところで僕ばかりに気を取られていて大丈夫なのかい?」
「?なにを…ッ」
真咲 翡翠と呼ばれた少女がそれに気づくまでにそう時間はかからなかった。自身の陰から出た人型の何かが自分に斬りかかろうとしていたことに…
―しまッ―
しまった…そう思った瞬間一つの声が室内に響き渡る。
「止まれ!!!」
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