第十四話 依頼
「何をしているんですか?」
僕が渚になすがままに撫でられていると、突然見知った声が聞こえてくる。振り返るとそこには、きれいな金色の髪を腰まで伸ばし顔はどこか幼い印象を与える美しい少女…もとい僕の娘が立っていた。
「ん?あぁ、お帰りセーリア。」
「はい…ただいま……それで?何をしているんですか?」
圧が凄い…
「フフン♪何って…見ての通り私がなーくんを撫でているのよ!!」
「へぇー」
渚こいつ…まじか……今のセーリア、目のハイライトがどんどん消えていってるぞ……いや凄いなそれ。
「ななしのは?なんで黙って撫でられてるの?」
「いやなに、突然抱きつかれて撫でられるもんだからビックリしててな…」
「…!!」
…おい渚そんな目をしても無理だぞ。僕は知らない。助けないからな…だから潤んだ目でこっちを見るのはやめろ。
「ふーん」
「あの…せ、セーリアちゃん…」
流石に空気を読んだのか、渚がおずおずとセーリアに声を掛け、怒っているかどうかを聞くと…
「何言ってるの、怒ってないよー」
満面の笑みで答えた。
「うぅ…笑顔が逆に怖い…」
「…」
「じゃあ渚ちゃん少し話をしよっか。」
「ふぇ?」
『ズルズル…ズルズル…』
「ねぇ!?何で無言で引きずってくの?!セーリアちゃん!?無言なの怖いって!ねぇ?!」
「…」
「…!!」
僕を見るな。僕は助けないぞ。
「……!!」
無理だ…
「……!」
……
「………はぁ…今回だけだ。……なぁセーリア。」
「何?」
返事はするもののセーリアの足は止まらない。しかし…
「…羊羹…あるぞ?」
「……!」
「…食べるか?」
そのななしのの問いかけによってセーリアの動きが止まる。そしてセーリアはななしのの言葉に対して『コクリ』と頷き返した。
「ほら。」
そう言いながら羊羹を差し出すななしの。セーリアはそれにかぶりつく。
「美味しいか?」
「美味しい…」
セーリアは羊羹を食べることに夢中で、見ると渚を掴んでいた手はいつの間にか離されていた。
・・・・
「それでね!お祖父様ったら食中毒なんて起こしてるのよ。」
「昔から食い意地だけははってたからな。総司らしい。」
ななしのは苦笑する。対して渚は少し怒ったように頬を膨らましていた。
「自分の歳も考えてほしいものね。……そう言えば、なーくん。」
「何?」
「最近依頼…受けた?」
真面目な顔をして聞いてくる渚。珍しいなとは思いつつも返事をする。
「?…いや?」
…何を言ってるんだ?依頼なんて最近来てないじゃないか。だから僕もこうして家でゆっくりとできるんだから。
すると渚は驚いた顔をしてから焦ったように急に立ち上がった。
「なーくん…冒険者ルールその3!…言える?」
「獲物の横取り禁止?」
「い・ら・い!!依頼は一週間に一回以上は受けないといけないルールよ!!それを守らないと冒険者証が失効されちゃうのよ!!」
それに対して僕は動揺をした。だけど少しだ。…隣で僕以上に動揺しているやつがいるお陰でな…
渚を落ち着かせたあとに急いで今日の日付をセーリア聞く。
「今日は7月の9日。だから大丈夫。」
その言葉を聞き僕は安心をする。なぜなら…
「あと一日あるな…危ないところだった。」
「ほ、ほんとよ…もう…」
そこで、渚は本当に安心したような表情をしていた。
「まぁ、明日にでも依頼を受けに行くことにするよ。」
「そうして頂戴。…ふぅ」
お茶を飲み一息つく。
…さてそろそろ聞くか。
「渚、雑談はもういいだろう。…そろそろ本題を話してもらおうか。」
「ッ!!…本題って?な、なんのことかしら!」
分かりやっっす…
「誤魔化しはもういいって…話したいことがあるんだろ?話なら聞くから話してみろよ。」
「なーくん………実は…」
そう言って珍しく真面目な顔になり話し始める渚。
「今回おこなった協会側の会議で、推定難易度【S】ランクの迷宮『挑戦の迷宮』を攻略することが決定したわ。」
「あの迷宮か…」
たがそんなことで何を誤魔化す必要があったのか分からなかった。もっと重大なことだと思ったのだが…肩透かしを食らった気分だな。
「何を考えてるかは予想がつくけど、まだ話は終わっていないわ。問題はその後よ。」
「分かられてたまるかよ。」
冗談めかしながら手を左右に振るななしの。
「協会の決定で迷宮にはAランク冒険者5名、Sランク冒険者が3名で挑むことになったわ。」
「なッ?!」
その一言には流石のセーリアも驚いたようで食べていた羊羹を喉につまらせていた。僕は苦しそうにするセーリアにお茶を渡し、渚と向き合う。
「…正気か?Sランク迷宮は今までに誰一人として攻略できた者はいない。それは僕ら災害級冒険者においても同様にだ。」
「災害級…それは挑戦する人がいなかったからでしょう?現在日本の災害級冒険者は4人しかいないんだから。」
渚は何かを考える素振りをしてから僕にそう聞いてきたが、羊羹を食べ終わったセーリアが代わりに答える。
「違う。確か『土王』が一回だけ挑戦していた。」
「土王が!?そんな話一度も聞いてないわよ?!」
渚は先程までしていた真面目な表情を崩し驚く。…そりゃそうだこのことはセーリアと僕しか知らない。総司からも聞いていないということは情報は漏れていないようだな。
「ん、相変わらず情報操作がうまい奴。」
セーリアはそう言いながら苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。
「というか…なんでそのことを」
「諸事情で静岡に行っていたときに迷宮の近くを通りかかったら一人で迷宮に入っていくやつを見かけてな。強そうだったんでちょっかいを掛けたらそいつが土王だったってわけだ。」
ななしのは薄ら笑いを浮かべ説明をする。
「それで…?一応聞くけど彼女は結局攻略できなかったの?」
「あの迷宮が未だに攻略されずにあるってことはそういうことだろ。」
「そうよね…」
すると渚は本気で困ったような顔をし始めた。さっきの話と関係があると思った僕はそのことについて渚に尋ねる。
「渚、迷宮はAランクでもSランク冒険者が最低3名必要と言われている。だが『挑戦の迷宮』はSランク……自殺行為だぞ?」
「ええ…分かっているわ。だからこそ…最後まで反対したの。でもお祖父様が療養中でいない今、上層部の奴らが好き勝手に動いていてもはや私の発言力ですらどうにもならなくなってしまって…」
拳を握りしめ渚は怒りをあらわにする。
「はぁ…あいつらか…」
「だから!私はななしのくんに依頼をしに来たの。」
声を張り上げ渚は言う。僕は嫌な予感がしたので耳をふさごうとするがふさぎきる前に言われてしまった。
その言葉を…
「ランク『S』挑戦の迷宮―その攻略を手伝ってほしい。」
◇
皆さんどうもお久しぶりです。
ここのところ忙しくて書く時間がありませんでした・v・一段落したのでまた投稿を再開していきたいと思います。
早く次が見たい!!と思った方は、感想、☆評価、レビューをぜひよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます