第十二話 学園襲撃④
地面を蹴り両者は相対する。
残り3メートルというところで≪パチンッ≫と音が鳴り、ボスの拳には雷が出現する。
―その瞬間ななしのは考えていた。
…やっぱりな。あいつの能力は恐らく《摩擦》を生み出す、もしくは操る類のものだ。
あいつが指を鳴らすと先程から雷…静電気が出現していた、それが何よりの証拠だ。それを踏まえると人の範疇を超えている高速移動にも説明がつく。
自身にかかる空気の摩擦を能力を使い減らす。それにより高速移動が可能となるわけか…
「余裕!!」
「こちらのセリフだ!!」
ボスは雷を纏った拳を突き出す。対してななしのも拳を突き出す。そしてその手には血がまとわりついていた。
「ハハッ!いつの間にッ!!」
「≪変化―
途端に血が固まり始め、拳を纏う。
両者共に能力は既に発動した。あとはどちらの攻撃が先に届くかだけであった。
このままいけば、ななしのの拳のほうが先に届き勝利は確実…
だがそれを本能…戦いの勘で感じ取ったボスは勝利するために土壇場で能力を切り替える。
「チッ!手が―」
それによりななしのは再び動きを止められる。さらにここに来てボスの能力の向上…回帰、ボスは、ななしの両手を静止させることに成功していた。
ボスが拳を振りかぶる。
「終いだ。」
そしてその勢いのまま拳はななしのへと命中した――
―はずだった―
しかしそこには既にななしのの姿は無い。
(いない!?幻覚…いやッ違う!これはッ)
「もう遅い。」
「ッ!!」
確実に拳は命中したと思っていた。そしてたとえそれが避けられたとしてもボスは追撃に備えていた。
だが予想外の事が起こりボスは、ななしのの攻撃に対して反応がワンテンポ遅れてしまう。その隙をななしのが見逃すはずがなかった。渾身の力を込めた拳はボスの体を…貫いた。
ボスは体をななしのの拳から引き抜くとまだ戦おうとしていた。だが自身の限界を悟ったのかやがて倒れ込むようにその場に座った。
「その…姿は…」
「≪変化―変幻≫…本当の姿はこっちだ。俺のこの姿はものすごく目立つからな。」
「…ハハッ…そりゃ…そうだ…」
「…満足したか?」
「…あぁ…満足…満足…大いに…満足だ…」
そう言ったボスの顔は晴れやかな顔をしていた。
「…そうか。」
「…一つだけ…聞かせてくれ。」
「…?」
「…お前の…名前は?」
真剣な目をしてこちらに問いかけるボス。
(言うつもりは…無かったんだがな。)
「…ななしの。」
「そうか…ななしの…感謝する。その名…しかと覚えた。そして…覚えて…おけ…俺の名は禍津《まがつ》…だ。」
「……」
「くく…その静寂…肯定と受け取ろうか。」
「……」
あいも変わらずその場は周りの燃える音と禍津の声だけが聞こえてきていた。
「ふぅ…やっと…これで俺の物語も終い…か。」
「物語…?」
呟くようにして禍津が言った言葉。それが気になり僕はふと声に出して聞き返してしまっていた。
「…いいか…ななしの。誰かじゃなく…誰もがそれぞれ自分の物語を持っている。…それは俺やお前以外の…誰にでも共通して言えることだ…そして…俺の物語はお前が主人公の物語によってたった今終わる…」
「……」
「…そして…次はお前の番かもしれないな。」
少し考える素振りをしてから冗談交じりにそんな事を言っていた禍津だったが、その顔は真剣そのものだった。
「死ぬのか?」
「ん?あぁ…お陰でな。」
すると禍津は申し訳無さそうにこちらを見る。
「なぁ…ななしの…」
「何だ?」
「悪かったな。お前の通ってる学校でこんな事しちまって。」
「何だ。悪いって自覚はあったのか。」
「グッ!?…」
「だが…まぁ…お前との戦いは楽しかった。だから…またやろう。」
禍津は少し驚いたような顔をし再度こちらを見る。そして…
「そうか…」
それは…笑っていた。というよりも苦笑に近いものだったのかもしれない。
―それでも―
死に際の顔にしては、とても良い顔をしていた。少なくとも僕はそう思う。
・・・・
―私は夢を見ているのだろうか―
吹き飛ばされる襲撃犯のボス、かわりに私の目の前にいたのは…あの方だった。
私はまた助けられてしまった。あのときとは何故か背格好が違く、仮面もつけてるけど分かる、あの人だと。…だって声が同じだ。
…それにあのときはもういっぱいいっぱいで気づかなかったけど男の子にしては声が高い…透き通っていて綺麗な声だ。
そんな事を考えていると、二人の戦いは激しさを増していた。二つの拳がぶつかりあった瞬間、体育館にその余波が響き渡った。まさしく圧巻だった。
ずっと見ていたい。そんな気持ちにさせられるような戦いだった。
だけど、そんな戦いにも終りが近づいていた。ボスの拳があの人に命中した次の瞬間あの人は背格好が変わり、縮んでいた。
いや変わったのは背だけじゃない。それは何もかもが変わっていた。髪色も黒から美しく輝く白金色に変わり、シミ一つない透き通るような白い肌に仮面が割れあらわになった顔は女神と見紛う程に整っていた。
それを見たが最後私の視界は徐々に暗転していった。
◇
ここまで読んでくださりありがとうございます。作者の花見晴天です。
いやぁ〜長かったようで短かった学園襲撃編ようやく終わりとなりました。この物語を読んでくださっている読者の皆さんにこれからも面白い話を投稿していけたらと思います。
面白い!と思った方は、感想、☆評価、レビューをぜひよろしくお願いします。
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