第125話 遊佐紀リンは転移門に恐怖する

「リンお姉さま、聞いてないんですか?」

「うん、全然聞いてないよ!」


 いったいどういう話になったの?

 わからないけれど、ラミュアちゃんがこれから転移門を設置するらしいので一緒についていく。

 そこは領主様の屋敷の裏の空き地だった。

 元々倉庫を建てるために置いていた土地だったのだけれど、ラミュアちゃんの治療のためにいろいろと私財を売り払ってしまったので倉庫が必要なくなって、この土地を売り払おうとしていたらしい。

 そこに転移門を設置するそうだ。


 ラミュアちゃんがシャベルを持って穴を掘る。

 まるでこれから朝顔の種を植えようとしているかのような小さな穴だ。

 そして、ラミュアちゃんは鞄から綺麗な丸い石を取り出した。

 宝石かと思ったけれど、色がついているガラス玉かもしれない。

 そして、朝顔の種の代わりにその玉を埋める。


「これが転移門?」

「いえ、ビコーンというものだそうです。リンお姉さま、皆さん、離れてください」

「ビコーン? ビコン、ビコーン……あ、ビーコン? ビーコン……ってもしかして」

 

 と思ったとき、空から凄い勢いで何か落ちてきた。


「ツバスチャンっ!? 」 

「お待たせいたしました」


 そして、ツバスチャンはハンカチを地面に置き、それをどけると白い扉の枠だけが現れた。

 まるでマジシャンだ。

 そしてその枠の向こうには見知った村の広場が見える。


「これで設置終了ですね」


 ツバスチャンがそう言って悠々と枠――いや、これは門なのだろう――の中に入っていいのかと迷う。

 昔、友達の御子から聞いたことがある。

 あるアニメに登場するどこにでもいけるドア。

 それに入ると一瞬で別の場所に行ける。

 しかし、その仕組みはちゃんと説明されていない。

 実は、あの扉に入ったものは一度その肉体が持っているものとともに分子レベル、原子レベルに分解。

 そして、もう一つの扉のある場所で再構築している。

 つまり、扉を潜った瞬間、その人は死んでいるというのだ。

  

「リン、どうした?」

「いや、転移門を通るのが怖くて。一瞬で別の場所に移動するなんて」

「どうしてじゃ? いままで帰還チケットと送還チケットを使っておったじゃろ?」


 エミリさんの質問に答えた私だったが、ナタリアちゃんがそんなことを言う。

 帰還チケットや送還チケット?

 そういえば、あれも一瞬で別の場所に移動している。

 転移した時点で死んでいるというのなら、私は既に死んでいるわけだ。

 こんな言い方をするのはアレだけど、気が楽になった。

 転移門をくぐる。

 当然、身体がバラバラになった気分はない。

 普通に門の敷居を跨いだだけだ。

 

 私以外の人は特に怯えることなく、転移門を潜ってついてくる。


「みんな、魔法とか日常にある生活を送っているから転移門を通るのも慣れたものだね」

「そんなわけあるか。転移魔法なんてリンに会うまでおとぎ話でしか聞いたことがないぞ」

「そうじゃな。儂等妖精族の間でもそんな情報はない」

「こんなものが実用化されるのなら戦争体系が一気に変わるぞ」


 領主様が言う。


「領主様――」

「ああ、わかっています。我々も女神様の天罰は怖いですからね。これを戦争などに利用するつもりはありません」


 どうやら、ツバスチャンが神鳥だってことも知っているらしい。

 領主様は平和利用することを約束して帰っていった。

 今後、この転移門は村の畑やダンジョンで採れた特産物を領主町で売るために使うそうだ。


「それでは、リンお姉さま、失礼します。あの……また遊びに来てもいいですか?」

「うん、もちろんだよ。転移門があるならいつでも会えるね」


 私もラミュアちゃんに会えるのは嬉しい。

 そして、領主様たちが帰り、私、エミリさん、ナタリアちゃんが残された。

 ツバスチャンは洗濯物を畳むために家に戻った。


「でも、領主様って簡単にツバスチャンがアイリス様の遣いだって信じたんだね」

「そりゃ信じるじゃろ。何しろこちらには――」

「あ、エミリさんがいるもんね! 一応王女だもん」

「一応ってなんだ、一応とは」


 エミリさんが怒るけれど、王族って力がないんだよね?

 今回だって公爵派と教皇派の争いが元の事件で、王族は蚊帳の外って感じだったし。

 それでも、王族が言うのだから一応信用しようってなっているのかな?


「いまの王族にそんな力はないわい。むしろそんなこと信じたら教皇派を敵に回すから迂闊なことはできんわい」

「ナタリアもひどいぞ」


 エミリさんに百のダメージを与えている。

 でも、じゃあなんで?


「そりゃ、リンが聖女の力を持っているからじゃろう」

「私聖女じゃないよ!」


 聖女ってなんか堅苦しそうだし、それこそ教会に軟禁、ううん、偽物認定されて暗殺されそうだし、絶対に嫌なんだけど。

 って、私が否定しているのに、エミリさんもナタリアちゃんも何も言わずに笑顔でこっちを見ている。


「違うからね! 私、聖女じゃないからね!」


 その声があまりにも大きかったのか、村人たちがやってきて、


「どうしたんだ?」

「聖女様が何か叫んでる」

「なんだあの門? 聖女様がまた何かしたのか?」


 村人たちまで私を聖女扱いして――


「違うから! 私は聖女じゃないから!」


 と否定しても、誰も頷いてくれなかった。

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