第124話 遊佐紀リンはツバスチャンに説明を求める

「呪人……こいつはもう呪術による操り人形になったようだ」


 とエミリさんが言った。

 どういう意味かと聞こうと思った直後、執事が顎がはずれんばかりに大きな口を開けて、噛みつこうとしてきた。

 ううん、あれはたぶん顎が外れている。

 エミリさんはその口に剣を当てると上顎と下顎が分断された。

 これなら噛みつかれる心配はない。

 しかし、執事は吹き飛ばされた自分の上顎を空中でキャッチしてそれを顔に嵌める。

 まるでパズルのように簡単にくっついた。

 なにこれ、ゾンビよりゾンビなんだけど。

 幽霊にゾンビにリッチに、そして今度はゾンビよりゾンビ!?


「ナタリアちゃん、呪人ってなに!?」

「呪いによって動かされている死体人形のことじゃ」

「え? どこかで聞いた気がする…………あ、思い出した! キョンシーだ!」


 頭にお札とか貼ったら命令聞いたりする奴かな?

 もちろん、お札はない。

 作り方もわからない。

 中国っぽいけれど仏教由来なのか儒教由来なのかもわからない。


「ライトボール!」


 魔法を放ったのは ラミュアちゃんだった。

 魔導書で覚えた魔法をいきなり使ったのには驚いたけれど、確かに光魔法の使い時だよね。

 光の玉を食らった執事は一歩、二歩と後ろに下がるが倒れない。

 領主様と一緒にいたメイドは「ラミュア(お嬢様)が魔法をっ!?」と驚いているが、それより問題は――


「効いてないです!?」


 ラミュアちゃんが言う通り効果がないようだ。

 光魔法が通じないの?


「いや、威力が足りないのじゃ」

「ナタリアちゃんの魔法なら?」

「すまん、儂は先ほどの呪術の解析にかなり魔力を使ってしまって、いまのラミュア程の魔法しか使えん」


 と言っている間にも、復活した執事とエミリさんが戦っている。

 しかし、斬っても斬っても再生する執事相手に決着がつくはずがない。

 対処法としてはこのまま外に出て鍵を閉めて閉じ込めてナタリアちゃんの魔力の回復を待てば―― 


「リン、あれを使ってみるのじゃ」

「あれ? そうか、あれか」


 私は聖銃を出す。


「エミリさん、下がって!」


 私の言葉にエミリさんが後ろに下がり、執事の顔がはっきりと見えた。

 私は引き金を引いた。

 銃口から光の弾――ライトバレットが放たれる。

 ライトバレットは執事の額を撃ち抜いた。

 すると、執事はそのまま仰向けに倒れ、そして――


「え?」


 その死体が灰になっていった。


「呪人は死ぬか役目を終えたら灰となる」

「役目?」

「周りの人間、特に呪いを解かれたもう一人を殺すことじゃろうな。恐らく、発動条件は片方の呪いの解除。巧妙に隠されておったようじゃ。すまん、これは儂のミスじゃ」

「でも、なんのために? 口封じのためなら、最初から呪人にしたら――」

「狙いは我々じゃろうな。呪いを解呪できる人間がいるとしたら、呪術師にとっては厄介じゃろう」


 結局、呪術師についてはこれ以上は何もわからない。

 ただ、ここまで派手にやったのだから、もうこの近くにはいないだろうとのこと。


 そして、領主を交えての今後の話し合いになったのだが――


「そちらの要望、全て受け入れよう」

「え? 全て? 待ってください、要望ってなんですか?」

「ツバスチャン殿からの要望書だ。聞いていないのか?」


 ツバスチャンから?

 いったいそれはなんなのかと尋ねると、


「聞いていないのか? まず、税金について。村で採れた作物の三割を納めること。ただし一年間は他の開拓村と同様税の免除を行う。村のダンジョンはリン殿の所有権を認めるが、それは公にしない。ダンジョンの採取物についても税金は作物と同様にすること。次にこの街に転移門を設置することだ」

「転移門?」

「この街と君達の村を繋ぐ魔道具だと聞いているが――そんなものが本当に作れるのか?」


 本当に作れるのかって聞かれても、そんなものがあるなんて聞いてないよ。

 ツバスチャン、ここに来て説明してよっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る