第122話 遊佐紀リンは呪いの源泉を探ってもらう

 領主様の屋敷って、お城みたいなだけあって家の中に牢屋があるらしい。

 牢屋の前に領主様が護衛を伴って立っていた。

 執事たちはその牢屋の鉄格子のはめ込まれた扉の先に横たわっていた。

 髪の毛が抜け落ちているし、顔もかなりやつれている。

 ラミュアちゃんのことを思い出す。

 いや、意識を失って動けないようだからラミュアちゃんの呪いより遥かにきつそうだ。

 他の部屋を見る。

 メイド服を着た人が倒れていた。顔は見えないけれど、貴族の遣いさんと仲の良かったメイドさんかな?

 さらに隣の部屋を見る。

 こっちは無事のようだ。

 あ、目が会った。

 彼は呪われていないようだ。


「この人は?」

「彼はララピードを世話していた者だ。執事に騙されて御者の真似事をしたそうです。無実だそうですが、事情聴取を終えるまで部屋に軟禁している」


 と領主様は言った。

 そういえば、この人は何も知らないって言っていたっけ?

 よく見るとこの部屋だけ毛布などがあったから、扱いは他の部屋よりマシなのだろう

 改めて執事の牢の前に行き、中を見る。


「もしかして呪い返し?」


 呪いを解呪すると、その呪いは術者に返っていくって聞いたことがある。

 私がラミュアちゃんの呪いを解いたから、その呪いが執事たちに返ったと。


「呪い返し――呪いを跳ね返す術は確かに存在するが、リンの魔法薬にその効果はないな」

「そもそも、呪い返しが成ったとして、呪いを受けるとしたらその術者であって、執事たちではあるまい」


 エミリさんとナタリアちゃんが否定する。

 じゃあ、いったいどういうこと?


「とりあえず治しちゃうね」

「リンよ、少し待つのじゃ」


 私は薬を取り出すが、ナタリアちゃんが少し待つように言った。

 もしかして、ナタリアちゃんを苦しめた悪者はこのまま苦しめておけってこと?

 気持ちはわかるけれど、私たちは裁く側の人間じゃない。彼らの処罰は領主様と司法に任せるべきだと思う。


「何も治療するなとは言っておらん。リンが治療して呪いを解いてしまったら呪術の解析ができなくなる。呪術の解析をして術士の正体や目的の一端でもつかめれば上出来じゃろ? 強力な呪いではあるが、いますぐ死ぬわけではあるまい」

「あ、そういうこと」


 ならば仕方がない。


「領主殿、鍵を開けてくれんか?」

「……わかった」


 領主が牢屋の鍵を開ける。

 そして、横たわる執事に近付いた。

 ナタリアちゃんは執事の頭に触れてなにやら魔法の詠唱みたいなものを唱えている。


「エミリさんって呪いについて詳しいですよね?」

「調べはしたが、術士の特定については専門外だな。私の身に受けた呪いは特定の術士によるものではなく人々の恨みのようなものだから」


 エミリさんの勇者体質は、人々の願いや想いを力に変える反面、恨みや妬みなどを呪いに変えて蝕む。

 それが例え逆恨みだとしても。

 確かに誰による呪いか特定しても意味がないか。

 暫くナタリアちゃんの結果を待つことにした。

 ラミュアちゃんと領主様もここで待つらしい。

 牢屋にいるのとは別のメイドさんが椅子を持ってきてくれたらのでそれに座って待つこと三十分。


「ふぅむ、調べられることは全て調べた」

「説明を頼む」


 領主様が言う。


「まず、この呪いは一カ月前より以前掛けられていたようじゃ。遠隔操作で発動できるようになっていたのじゃな。喉に重点的に呪いが駆けられていることから、目的は口封じじゃろう。執事が捕まったとき、その捜査が自分に及ばぬように警戒していたのかもしれん」

「悪い人なのに抜け目ない」

「悪人とはそういうもんじゃ」


 ナタリアちゃんが頷いた。


「次に術士の詳細じゃが、これは悪魔が使う物とは違うな。これはむしろ竜の呪いじゃ」

「竜の? ……えっ!? それってドラゴンっ!?」

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