第120話 遊佐紀リンは傷心の男を励ます
お風呂に入ってスッキリしたエミリさんと一緒に貴族の屋敷に向かうことになった。
「リンお嬢様、こちらを領主様へのお土産にどうぞ」
ツバスチャンが器に載ったアイスクリームの入っている籠を手渡してくれた。
「アイスクリーム? ドライアイス入ってないから溶けるんじゃない?」
「道具欄に入れておけば溶けませんので」
あ、そっか。
道具欄って本当に便利だよね。
ついでに、開発で蝋燭でも作っておこう。
香草を使ってアロマキャンドルができるから、貴族様へのお土産にしてもいいよね?
リラックス効果のある蝋燭にしよう。
家の前に鳥車が停まっていた。
昨日の今日でまたも村と領主町の往復をすることになるけれど、疲れないのかな?
少し休ませてあげたらいいのに――って思ったけれど、ララピードは一ヶ月以上連続で飛び続けることも可能な鳥らしい。さすがにそこまですると寿命が縮まるので余程のことが無い限り連続で飛ばさないそうだけれど、昨日の夜もしっかり休ませているので二日連続飛ぶくらいは問題ないらしい。
むしろ、御者をしている貴族の遣いさんのほうが辛そうな――というより死にそうな表情をしている。
「あの、エミリさん。貴族の遣いさん、なんかしんどそうなんですけど」
「あぁ……昨夜、執事を捕まえてから芋づる式に敵一派を捕まえたんだが、その中に彼と仲のいいメイドが含まれていたんだ」
「それは……気の毒ですね」
元気を出してほしい。
そんな調子で馬車を操縦して事故でも起こされたら困るし。
励まそうとしたけれど、良い言葉が思い浮かばない。
そうしていると、貴族の遣いさんの方が先に声をかけてきました。
「ああ、申し訳ありません。エミーリア様から話を聞いたんですね? ショックはショックですが、少し安心もしているのです。私と彼女は付き合い始めたばかりですから。もしも今回の事件の発覚が遅れれば、私は彼女に気を許して話してはいけない秘密を話していたかもしれません」
無理しているのはわかるけれど、安心しているというのも本当のようだ。
職務に忠実な人なのだろう。
最初会ったは少し偉そうな人かな? って思ったけれど、印象もだいぶ変わった。
この調子なら事故の心配もないだろうと、私も安心して鳥車に乗る。
鳥車の中で改めてエミリさんから昨日の夜に起こったことを聞いた。
昨日、私たちが帰ったあと、執事が伝書鳩を使って手紙を出したので、エミリさんはその伝書鳩を走って追跡――ってちょっと待って欲しい。
伝書鳩って走って追いかけられるものなの?
あ、うん。屋根の上を飛んで移動すれば可能なんだ。
まぁ、エミリさんだし。勇者だし。よし、わかった。わからないけれどわかった。
ラミュアちゃんもそこは受け入れて。
そう、大きく深呼吸して、よし。
話を続けてください。
その後、エミリさんは伝書鳩を受け取った男を尾行した。
その男は闇ギルドの人間でフードを被っていて、慣れた様子で町の悪い人たちを招集して、ラミュアちゃんの似顔絵を見せてこの子を攫ってくるように言った。
そして、彼らが向かった先には予備の鳥車が停まっていた。
その御者席にいたのはララピードを普段世話している人間だったらしい。
彼は事情も知らず、執事に騙されて彼らを村に送り届けたそうだ。
その後、領主町に帰ってきたところで殺される手筈になっていたそうだ。
その前に十分証拠を集め、執事は捕まり、その仲間も捕まった。
「それで、執事は何故ラミュアを攫おうとしたのじゃ? しかも傷つけずにとは?」
ナタリアちゃんの当然の質問に、エミリさんはラミュアちゃんをチラりと見て、何も言わない。
デリケートな問題のようだ。
あまり深入りしない方がいいと思ったが、
「教えてください」
とラミュアちゃんが言う。
「原因はラミュア様のお母上です」
「……やはりそうですか」
「え? 待って――ラミュアちゃんのお母さんが犯人? じゃあ、ラミュアちゃんを呪ったのも?」
でも、矛盾してない?
呪いのときはラミュアちゃんを苦しめていたのに、攫おうとしたときは無傷で捕らえよって。
どういうこと?
もしかして、二重人格?
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