第119話 遊佐紀リンはフレンチトーストの感想に満足する
「このふれんちとーすと? という料理、とても美味しいです!」
「うむ、大変美味じゃな。儂としては蜂蜜の量を増やせばもっとよいのじゃが」
身柄を狙われているというのに、ラミュアちゃんもナタリアちゃんも呑気にフレンチトーストを完食した。
ナタリアちゃん、それ以上の蜂蜜って、もう蜂蜜を食べたいだけだよね?
山ほどあるから一本分けてあげたいけれど、
さすがに赤ん坊じゃないんだから、乳児ボツリヌス菌の心配はないと思うけれど、ナタリアちゃんの体の大きさを考えるとスプーン一杯の蜂蜜を食べるだけでもアウトな気がする。
とはいえ、今回のフレンチトーストは私にとっても自信作なので、褒められるのは悪い気分じゃない。
「本当はアイスクリームを載せれたら美味しいんだけどね」
牛乳、砂糖、蜂蜜、氷、塩。
材料は全部揃っているから、作ろうと思えば作れるんだけど、あれって手間なんだよね?
それに、生クリームとかバニラエッセンスがないから、できるのはどうしてもまがい物になりそうな気がする。
「アイスクリーム? なんじゃ、とても甘美な響きじゃが」
「はい。リンお姉さま、私も是非食べてみたいです」
「えぇぇぇえ」
私が困ったように言うと、テーブルの上にガラスの器が置かれた。
その中にはアイスクリームが入っている。ご丁寧なことにミントの葉まで載っていた。私は食べないけれど。
「そうおっしゃると思い、いま作りました」
ツバスチャン早いよ。
でも、どうせならフレンチトーストを食べ始める前に作ってくれたら……あ、私がフレンチトーストを作り始めたときツバスチャンはまだ帰って来てなかったんだった。
私が考えているのをよそに、ナタリアちゃんとラミュアちゃんは二人でアイスクリームを食べ、
「あんまーい――のじゃ!」
「つめたーい――です」
とはしゃいで食べる。
二人とも楽しそうだね。
私も食べる。
うん、私も美味しい。
蜂蜜も入れてるのかな? 上品な味だ。
ハー〇ンダッツにも負けてない、いや、むしろ勝っている。
「ってあれ? ツバスチャン。器が多いけれど、ツバスチャンも食べるの?」
「いいえ、間もなく客人が訪れますからね。予め用意させていただきました」
「客人?」
もしかして、また拉致犯?
それとも誘拐犯の方?
甘くて冷たいお菓子があるから食べていって――って、それだとこっちが誘拐犯じゃない?
うーん、でもここにいる間は全部ツバスチャンに任せたらいいかな?
アイスクリーム美味しいなぁ。
やってきた客人は拉致犯でも誘拐犯ではなくエミリさんだった。
エミリさんは帰ってくるなり開口一番に言う。
「ラミュア様に呪いをかけていた犯人が見つかった」
「執事さんですね?」
「なんだ、そっちでもわかっていたのか? 誘拐犯は雇い主はわからないと思ったが」
「エミリさん、誘拐犯ではなく、拉致犯ですよ」
「どちらでもいいだろう?」
どうやら、拉致犯がここに向かったことはエミリさんも領主様もわかっていたらしい。
というより、領主様は容疑者をあの執事さんを含め数人に絞っていたらしく、今回の件で私たちを囮にして犯人を特定したのだとか。
本当はエミリさんを護衛にしたかったらしいけれど、エミリさんが領主様に自分より強い人間が護衛につくから大丈夫だと領主に言ったのだとか。
そんなことなら私にも教えてくれたらよかったのに――って思ったけれど、敵に怪しまれたら終わりだから敢えて黙っていたらしい。
「ラミュア嬢、領主邸に戻っていただきます。よろしいでしょうか?」
「はい、いますぐ出発しましょう」
「いや、一時間待ってください」
ラミュアちゃんは不思議そうな顔をするけれど、エミリさんは少し恥ずかしそうに言った。
「お風呂に入りたいので――」
どうやら貴族の屋敷での生活でも、お風呂のない生活は絶えられなかったらしい。
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