第118話 遊佐紀リンは歩く身代金だと自覚する

「ツバスチャン、聞き間違いかな? 誘拐犯って聞こえたんだけど」


 愉快犯の間違いだよね?

 それはそれで問題だけど誘拐犯よりはマシだと思う。たぶん。

 私がそう指摘すると、ツバスチャンは少し考え、そして己の間違いに気付いたように頷いた。


「これは失礼しました」

「うん、やっぱり間違いだよね?」

「力尽くで攫おうとしましたから、誘拐ではなく拉致ですね」

「間違いじゃなかった!」


 言葉の意味では間違いだったんだろうけれど、大局的な間違いではない。

 むしろ私が想像する誘拐犯そのものだ。


「え? 誰を? なんのために?」

「最初の目的はラミュアお嬢様だったようですが、リンお嬢様とナタリア様のことも拉致する計画に変わっていたようですね」

「私もっ!? 私ってただの平凡な女子校生なのに!? 身代金も払えないよ」

「それはない」「そんなことありません」


 ナタリアちゃんとラミュアちゃんに同時に否定された。

 え? そこまで否定されるもの?


「リンお姉さま。ジョシコーセーというのが何かはわかりませんが、普通の女性が呪いを解く薬を作ったりできません」

「そうじゃな。アイテム収納の能力だけでも、数千万イリス以上で取引されるのは明白じゃし」

「えぇぇぇぇえっ!?」


 私自身が歩く身代金だった。

 

「リンよ。お主、以前にも拉致されかけたのじゃからそのくらい自覚は持っておけ。まぁ、普段はエミリが一緒だから何も言わなかったし、この拠点でもツバスチャンがいるから黙っていたが、自分の価値に自覚をもっておくのじゃぞ。そのあたりはラミュアも自覚できておる。じゃから誘拐犯が来たと言ったとき、驚いたのはお主だけじゃった」

「うっ、反省します」


 ナタリアちゃんも攫われやすい種族だから、心構えが私と違うようだ。

 反省しよう。


「それで、ツバスチャン。その誘拐犯――拉致犯はどうしたの?」

「はい。いま矯正しているところです。夕食前には真人間として矯正が終了し、この村の労働力として働いてくれることでしょう」

「ソッカー、ソレハイイコトダネ」


 それって人格破か……洗の……ううん、悪い人がいい人になるのだったらなんでもいいや。

 ツバスチャンだったらうまいことやってくれるだろう。

 私は考えることを放棄した。


「ツバスチャン、雇い主は誰なのでしょう?」

「彼らは雇い主については何も知らなかったようです。ただ、ラミュアお嬢様を無傷で捕まえるようにと言っていることから、だいぶ絞り込めると思います」

「彼らはどこで雇われたのですか?」

「領主様の住んでおられる町ですね」

「…………」


 ラミュアちゃんが悲しそうに俯く。

 心当たりがあるのだろうか?


「あの、ラミュアちゃん」

「大丈夫です。たとえ執事が犯人でも覚悟できていたことですから」

「え? 執事さんが犯人なのっ!?」


 今の情報から、なんでそこまで絞り込めるのっ!?


「私がこの村に来たことを知っているのはお父様を除けば、あの場にいた執事とエミリ様、そして御者だけです」


 あ、そうか。

 御者さんっていうのは私たちをこの村に送って来た貴族の遣いさんだ。

 当然、彼は一緒に来たんだから、その拉致犯たちを雇っている時間的余裕はない。

 となると、残るのはエミリさんと執事さんだけか。


「エミリさんは疑ってないんだね」

「はい。私を治療してくださったリンお姉さまのお仲間ですし、そもそも、ここまで移動できる予備のララピードを自由に動かす権利はエミリ様にはありませんから」

「あ、そうか」


 こりゃ、犯人は決まりだね。

 でも、犯人がわかったところで、貴族の遣いさんも帰っちゃったし、こっちから連絡の取りようがないんだけどどうすればいいんだろ?

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