第117話 遊佐紀リンはフレンチトーストを作る
死ぬかと思ったよ。
ナタリアちゃんが調子に乗って、ハニーキラービーの巣を壊しちゃうんだもん。
大量に出てきたハニーキラービーと戦う羽目になった。
マルチ弾を最大限に駆使しても全部のハニーキラービーを倒すことができず、何度も刺されそうになった。
ツバスチャンの補助魔法がなかったら危なかった。
いや、刺されてないけれどね。
刺されても大丈夫だってわかっている心の余裕がなければ危なかったってことで。
マルチ弾を撃っては逃げて、撃っては逃げてを繰り返していた。
ヒット&アウェイ。
蝶のように舞い、蜂のように刺すってやつだ。
うん、逃げ方は蝶っていうより蜘蛛の子みたいだけど。
「リン、見るのじゃ!」
「リンお姉さま、見てください」
「うわ、でか!」
ナタリアちゃんとラミュアちゃんが持ってきたのはとても大きなハニーキラービーだった。
たぶん女王蜂だと思う。
「それ、二人が倒したの?」
「ああ。リンが蜂たちをひきつけているうちに倒したのじゃ」
「はい。ナタリアさんが魔法で普通サイズのハニーキラービーを倒してくれたので、私はこれを倒せました」
「私を囮にしたっていうのは気になるけれど、凄いよ二人とも」
とりあえず、倒した女王蜂を含めるハニーキラービーと、ナタリアちゃんによって粉々にされたハチの巣は収納する。
「ああ、リン。その小さい巣は儂がもらう」
「もらうって、どうするの?」
「食べるんじゃ」
ナタリアちゃんがそう言って、蜂の巣を食べる。
「え? 蜂の巣っておいしいの?」
「うむ、うまいぞ。巣蜜といって、儂等妖精族にとっては最高の贅沢品なのじゃ。リンとラミュアも食べてみるとよい」
私はラミュアちゃんと顔を見合わせて一瞬躊躇したが、まずは私が食べてみないとラミュアちゃんも食べられないだろうと思い、食べてみる。
……っ!?
おいしい。
巣がザクっとした感じで食べる蜂蜜って感じだ。
ただ、食べ続けると、まるでガムを噛んでいるみたいに何かが残る。
「ナタリアちゃん、口の中に何か残ってるんだけど」
「蜜蝋じゃな。食べても問題ないが、食べられないなら吐き出してもかまわんぞ」
吐き出すのはなんかイヤなので、道具欄に収納する。
あとで捨てようと思っていたら、これから蝋燭とかワックスが作れるらしい。
食べかすで日用品を作るのはどうかと思ったけれど、開発で作れば問題ないよね。
蜜蝋は他にもハニーキラービーを倒したときのドロップアイテムでいっぱい手に入れているので、蝋燭とか作って村のみんなにお裾分けしようかな?
そんなことを考えながら、私たちは拠点に戻った。
ツバスチャンはまだ帰っていない。
どこにいったのかはわからないけれど、せっかくだし、採れた蜂蜜を使ってフレンチトーストを作ることにする。
卵は鶏が産んだ新鮮な卵が、新鮮な状態のまま冷蔵庫に入れてある。
パンは毎朝ツバスチャンが作ってくれる。
牛乳も冷蔵庫にある……これ、ワギューの牛乳かな? まぁ、飲めるでしょう。
ちょっと飲んでみる。
私が知ってる牛乳より甘くて濃い気がする。
ツバスチャンが管理しているからかな?
これなら砂糖の量を減らした方がよさそうだ。蜂蜜も使うしね。
「リンお姉さま、私も何か手伝いをさせてください」
「本当? じゃあ、そこの棚からお皿とナイフとフォークを三人分出して並べて。ナイフとフォークはナタリアちゃんのは小さいのがあるから」
「はい!」
ツバスチャンの分を用意しないのは、執事は一緒に食事をしないとかの理由じゃなくてフレンチトーストを食べないからだ。
私たちはツバスチャンの食事の様子を見たことはないけれど、一体何を食べているんだろう?
ただ、ツバメの食事を考えると、想像しない方がいいかもしれない
ツバスチャンのことを考えるのはやめて、ラミュアちゃんいい子だなぁと思いながら、卵と牛乳を混ぜたものを浸したバケットを焼いていく。
「うむ、いい匂いじゃのう。エミリがいない分儂が貰ってやろう」
「エミリさんの分は焼いて道具欄に保管しているからナタリアちゃんは自分の分だけ食べてね」
ナタリアちゃんの要望を軽く退けて、食卓に並んだお皿に出来上がったフレンチトーストを置き、最後に蜂蜜をかける。
よし、完成!
「じゃあ、みんなで食べようか! ってナタリアちゃん、もう食べてる!?」
「大変美味じゃ! シェフを呼べ!」
「はいはい、いただきます」
「いただきます」
うん、美味しい!
え? 私は今まで何度もフレンチトーストを作ってきた(身長を伸ばすために牛乳を食事に取り入れるためではない)けれど、今日ほど美味しくできたことはない。
やっぱり素材の違いかな?
甘すぎず、濃厚な味わい。
これはフレンチトーストの完成形だよ!
「おや、フレンチトーストを作ったのですか?」
「あ、ツバスチャン、お帰りなさい。バケット使わせてもらったよ?」
「はい、構いません。ただ、いまそれだけ食べているのなら、お昼はいりませんかね?」
「うーん、夕食を早めにしてくれるのなら」
「夕食は焼肉予定ですからいつでもいけますよ」
あ、お肉いっぱい手に入ったもんね。
焼肉か、楽しみだな。
「夕食の時間にはこの街にやってきた誘拐犯の矯正も終わっているでしょうから」
「用事があるなら別にそれほど急がなくてもいいよ」
むしろ焼肉の準備だったら私ができるから。
ワギューにTOKY〇×の焼肉かぁ、贅沢だな。
…………ん?
いま、誘拐犯って言わなかった?
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