第116話 閑話 ならず者たちの最後

 ある辺境の村に俺を含むならず者の風体の男たち五人がある依頼を受けて集まっていた。

 その依頼の内容は、とある貴族のお嬢様の誘拐。

 場所は衛兵もいない、自警団すら存在するかどうか怪しい小さな村だ。

 とても楽な仕事だ。楽過ぎて笑いが出る。

 これだけで報酬が50万イリスだからな。

 むしろ、依頼人が裏切って自分たちを口封じに殺さないかの方が心配なほどだが、依頼人は怪しいフードの男だってことしかわからないし、こちらも敢えて探ろうとはしていない。口封じを仕掛けて俺たちに逃げられるリスクを考えると、成功報酬を渡して口止めしたほうがいいと判断することだろう。

 まぁ、念には念を入れて、金を貰ったら別の領地にでもずらかるつもりだが。


「しっかし、女を攫うだけ攫って楽しめないって変な話っすよね」

「相手はまだガキだぞ。お前、ロリコンか?」

「俺は平等主義者っすからね。子どもからババアまで誰でもオッケーっすよ」


 変な奴と一緒になったもんだ。


「護衛にナタリアって妖精族の女とリーンっていう名の聖女がいるらしいぞ。そいつらで遊べよ」

「聖女っていうのはそそるっすけど、妖精族は守備範囲外っすね」


 まぁ、妖精族を相手にするのは確かに人形遊びみたいだからな。

 しかし、妖精族は好事家の間では高値で取引されている。

 捕まえられるなら捕まえて、売り払いたい。

 それに、聖女ってのも気になる。 

 回復魔法を使える人間だとしたら価値がある。

 こちとら裏稼業の人間だからな、高く買い取ってくれる裏ルートも知っている。

 五人で山分けしても報酬の50万イリスと合わせれば暫くは遊んで暮らせる額になるな。


「おかしいな」

「どうしたんだ?」

「いや、ここって村だよな? なんか村の周りに大きな堀があるんだが。それに畑の規模もかなりのものだし、家の数も多いぞ?」 

 

 家の数なんてここからだと見えないが、確かに畑は大きい。

 大きな町の周辺にあるような畑だ。

 ここはそこまで豊かな土地だっただろうか?

 もしかして、これが聖女の力ってやつか?

 だとしたら凄い。

 回復魔法使いどころの話じゃない。

 この聖女を捕まえて売り払うだけで一生遊んで暮らせる金が手に入る。

 このことに気付いているのは俺だけだろう。

 他の奴を出し抜けば――


「おい、何か来たぞ?」


 視力のいい仲間が気付いた。


「なにって、村人か? 魔物か?」

「服を着てる」

「村人だけじゃなくて、ゴブリンやコボルトだって服くらい着てるだろ」

「あれは、フクロウか?」


 服を着たフクロウ?

 そんな魔物聞いたことがないぞ。

 と思ってよく見てみる。

 なんだあれ?

 見たことのない魔物だ。

 いや、鳥獣人か?

 こちらに近付いてくる。


「皆様、この村によくいらっしゃいました。長旅お疲れでしょうが、先に御用をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 人間の言葉を話すってことは鳥獣人か。

 バラけて村に入るつもりだったが、ここで見られるのは面倒だな。

 俺は仲間の顔を見て頷き合う。

 血の気の多い奴らだ、俺が言う前からやる気満々のようだ。

 まったく、こんな俺らに見つかるなんて、運の悪い鳥野郎だ。




 何があった?

 いま、何があった? いま? いまなのか? こいつと出会って何分経過した?

 そうだ、俺は意識を失っていたに違いない。

 だって、ありえないだろ?

 さっきまで横にいた仲間が全員意識を失っていて、俺も地面に顔を付けて倒れているだなんて。

 自分が倒れたことにすら気付いていないぞ?


「さて、もう一度質問をします。御用をお伺いしてもよろしいですか?」

「な、何のことだ!? 俺たちはただの旅の――」

「なるほどなるほど。ラミュアお嬢様を攫いにきたのですか。そして、ナタリア様とリンお嬢様は奴隷商に売り払うと。ほぉ、ヨークリアの町のゴメル商が裏で奴隷の売買をしているのですか。ああ、その奴隷商ですが、最近閉鎖しましたよ? リンお嬢様を誘拐しようとした衛兵とグルになっていて……とこの話はあなたにしても仕方ありませんね。失礼しました」


 な、なんで?

 聖女を奴隷商に売り払うことはまだ誰にも言っていない。ましてや奴隷商の名前なんて。

 俺の心を読んだのか?


「依頼人については何も知らないと。まぁ、こちらの方は問題ありません」


 間違いない、心を読んでいやがる。

 情報は全て筒抜けになった。

 となったら、もう俺は用済みだ。

 殺される。


「ああ、ご安心を。殺しはしません。村はいま発展途上でして、人手は多い方がいいのです。しかし、あなた方は犯罪者ですから、少々性格の矯正が必要ですね。即効性のあるプランでいきますから、三、四回は死んだ方がいいと思うでしょうけれど、それでも本当に死ぬよりはマシでしょう」

「な、なにを――」

「ああ、あなたの意思は関係ありません。これはもう決定事項です。それではしばしお休みください」


 次の瞬間には俺の意識は――


「ならず者としてのあなたたちの生活はこれで最後です。しっかし更生しましょうね」

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