第115話 遊佐紀リンは蜂と戦う

 ハニーキラービーが飛んでくる。

 その数は四匹。

 ツバスチャンは一人一匹倒すように言った。

 無茶を言うコンシェルジュではない。

 私たちなら十分対処できるってことだ。

 と思ったら、ハニーキラービーが分かれて襲い掛かって来る。

 相手も一対一の戦いを望んでいるらしい。

 ラミュアちゃんの安全が気になるけれど、ツバスチャンがいるなら万が一にも怪我することはないだろう。

 だったら私は目の前の敵に集中する。


 ギリギリまで引きつける。

 速い。

 もしもギリギリまで引きつけ、そして外したらどうなる?

 相手は小犬程度の大きさがある。

 普通なら外さない。

 でも、普通じゃなかったら。

 私は息を呑む。

 そして、銃弾を放った。

 中心から左に逸れた。

 そのわずかな軌道のずれがハニーキラービーに避ける余地を与える。

 ハニーキラービーが右に逸れた。

 躱された。

 私は心の中でほくそ笑む。


 ハニーキラービーが避けた先に、別の銃弾が迫っていた。

 そして、その弾がハニーキラービーに当たる。

 能力――マルチ弾。

 前まで使い方がわからなかった能力だけど、意識を集中してみたら使い方がわかった。

 複数の弾を同時に放つ能力だ。

 僅かに時間差で放つことも可能。

 私は敢えてハニーキラービーが避けられるか避けられないかのところに放ち、時間差で仕留めることにした。

 

 避けて油断したところにもう一発。

 それが成功したんだけど、あの速度なら中心を狙っていたら一発で仕留められていたな。

 ハニーキラービーは腹と頭が分かれて地面に落ちる。

 他の皆はどうだろう?

 ナタリアちゃんの前には鋭利な刃物で切断されたようなハニーキラービーが落ちていた。

 ツバスチャンは気にするだけ意味がないだろう。

 ラミュアちゃんは――


「えいっ!」


 可愛らしい掛け声とともに、ハニーキラービーを一刀両断にしようとして、翅の一部だけを切っていた。

 でも、それで十分だったかもしれない。

 ハニーキラービーは飛べなくなって地面に落ちた。

 ラミュアちゃんは大きく息を吸って、小金乱火を突きさす。

 一瞬ハニーキラービーは身体を丸めたが、直ぐにぐてっと動かなくなった。


「や、やりました! 初めて魔物を倒しました!」

「おめでとう、ラミュアちゃん!」

「おめでとうなのじゃ」

「おめでとうございます」


 さらっとワギューを倒した件はなかったことになっているけれど、それを考えずにラミュアちゃんを褒めた。

 あと、ドロップアイテムにハニーキラービーの蜂蜜が二つ追加されている。

 私とナタリアちゃんが倒した分のドロップアイテムだろう。

 さらに、ローヤルゼリーが一つある。

 これって、高級な奴だよね?

 これは私がこっそり食べさせてもらおうかな。

 と思ったらツバスチャンが天井を見ている。

 一体、何を見ているのだろう?


「ツバスチャン、どうしたの?」

「…………あぁ、すみません。少々急用ができてしまいました」

「え? じゃあ魔物退治はこれで終わり?」

「いえいえ、皆様はこちらにいてください。補助魔法を掛けますから五階層までの魔物でしたらどれだけ攻撃を受けてもダメージを受けることはありません」


 それって、補助の範疇超えてない?

 自転車の補助輪だと言われて、全自動化推進装置を付けられるようなものだよ

 ラミュアちゃんを見る。

 まだまだ戦いたいって顔をしている。

 うん、じゃあここはツバスチャンを信じて、もうちょっとここで魔物と戦おうかな。

 でも、ツバスチャンの用事ってなんだろう?

 雨が降りそうだから、洗濯ものを取り入れる……とかかも。

 ツバメって雨が降るのがわかるって言うし。

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