第112話 遊佐紀リンは魔法を修得する

 魔導書を開く。

 書いている文字は異世界の文字だ。

 でも、アイリス様から貰った異世界の言語がわかる能力のお陰で読むことができる。

 文字を読むことができるのと、理解できるのは全然違うのだと思った。

 何を書いているのか全然頭に入ってこない。


「儂も半分は理解できん」

「ナタリアちゃんも読むだけじゃ理解できないの?」

「できん。これを完全に理解できるものとなると、宮廷魔術師レベルの知識が必要じゃのぉ。それも何年も理解できる。読むだけで理解できるものがいるとすれば、まぎれもない天才じゃ」

 

 ナタリアちゃんは魔法については詳しいはずなのに理解できないのなら私に理解できるはずがなかった。

 ってことは私には魔法が使えないのか。


「ナタリアちゃんはどうやって魔法を覚えたの?」

「どうやってもなにも、魔法というのは能力じゃ。生まれながら持っているものもあれば、何かのきっかけで授かるものもある。そして能力を授かれば使い方が理解できる。逆に能力がなければ、魔法の使い方を理解しても魔法は使えん」

「え? じゃあこの本を一生懸命読んで理解しても――」

「魔法は使えんよ。本来なら――」


 ナタリアちゃんがそう言って、ずっとツバスチャンを見る。

 この魔導書には何か秘密があるのだろうと、ナタリアちゃんはツバスチャンに問いかけているようだ。

 ツバスチャンは顎に手を当てて頷く。


「ええ、もちろんです。お嬢様。その魔導書を一度道具欄に収納してください」

「え? うん」


 言われた通りに魔導書を入れる。

 道具欄にアイテムの名前が表示される。


・魔導書(ライトボール)


 ライトボール?


「収納したよ?」

「それでしたら、その魔導書に意識を選択し、使うを選んでみてください」

「使う?」



・魔導書(ライトボール)

▶つかう

・リン(変換)

・ナタリア(使用不可)

・ツバサウチャン(取得済み)

・ラミュア


 おぉ、出た!

 これで使えばいいのかな?


「ってあれ? ナタリアちゃんだけ使えないのはなんで?」

「ナタリア様は既に妖精魔法として同じ効果の魔法が使えるからです」

「なんじゃ、つまらん」


 自分では魔法が使えないと知り、ナタリアちゃんが不貞腐れるように言った。


「私のところに変換ってあるのは?」

「使ってみてのお楽しみといたしましょう」

「使ってみてのお楽しみ? うーん、わかった」


 私に使ってみる。

 身体がほんわかと光った。


【リンはライトバレットを取得した】


 え? なにこれ?

 あ、使い方がわかる。

 能力に、光弾ってのが追加されていた。


「リン、どうじゃ?」

「えっと――」


 私は聖銃を取り出した。

 いまは弾を込めていない。

 その状態で引き金を引くと、光の弾が聖銃から飛び出して壁に当たった。

 ライトバレット――聖銃に弾丸の代わりに魔力を消費して光の弾を放つ能力だ。


「リンお姉さま、凄いです!」

「ほぉ、詠唱不要の魔法のようじゃな」

「連続で撃つのはできないみたいだし、他の弾を込めてるときは使えないみたいだから使い道が限られてそう。あ、次はラミュアちゃんに使うね」

「え? 私にですか?」


 魔導書をラミュアちゃんに使う。

 ラミュアちゃんの身体がほんのり光った。


「魔法……これが」


 ラミュアちゃんは壁を見て、そして手を翳す。


「ライトボール!」


 光の玉が前に放たれた。

 凄い! 本当に魔法みたいだ。

 あ、本当に魔法なんだけどね。

 いいなー、私もそっちの方がよかったな。

 どうしても銃から魔法を放つと、そういう道具を使っているだけで魔法を使っているって感じじゃないんだよな。


「では、お嬢様。戻りましょうか」

「もう家に帰るの?」

「いえ、十階層で戦うにはラミュアお嬢様には辛いでしょう。二階層に行って戦いましょう。あちらの魔物はまだ弱いですから」

「じゃあなんのために十階層に――ってそうか」


 十階層に来た理由。

 ラミュアちゃんの武器と私の銃弾の調達のためか。

 魔導書という思わぬおまけもある。もしかしたらツバスチャンは魔導書を入手できることをわかっていたかもしれないけれど。

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