第111話 遊佐紀リンは人工ダンジョンのボス部屋に行く

 ツバスチャンと一緒にボス部屋に行く。

 現れたのは巨大なリンゴ(?)の樹だった。

 その日本語だと、リンゴが巨大なのか、樹が巨大なのかわからないって思うかもしれないけれど、どっちも巨大だ。

 リンゴ一個の大きさが、バランスボールの倍くらいの大きさなのに、その樹に実っているというだけで全然違和感がない――といえばその異常さがわかるだろう。

 近付くとその樹のリンゴが落ちてきて爆発する上に、木の根っこでも襲い掛かって来るというのだから恐ろしい魔物だけれど、逆に言えば近付かなければ問題ないらしい。

 遠距離攻撃ができる私やナタリアちゃんなら完封できる相手なんだって。


 ツバスチャンが戦う前に、私は聖銃を撃った。

 私が撃った銃はリンゴを支えるツルの部分だ。

 普通のリンゴと繋がってるツルの太さは一センチにも満たないけれど、このリンゴは大きいから五センチくらいの太さがある。まぁ、それでもリンゴとのバランスを考えると細く感じるけれど、近くに敵が来たらリンゴを落として爆発させるという特性から細くできているのだろう。

 私はそのリンゴのツルを狙って銃の引き金を引いた。

 銃弾は見事に命中し、リンゴが落下を始めるが、さらに私が放った弾丸が落下していたリンゴに空中で命中。

 爆発してリンゴの果肉が散らばった。

 

「お見事です、お嬢様」

「見事って、リンゴのツルは動いていないし、リンゴは大きすぎるし、当たって当然じゃないの?」

「そんなことはありません。お嬢様が使っている聖銃は拳銃タイプ。ライフルと違ってスコープもありませんし弾速もそれほど速くありません。ステータスが伸びたお陰で銃の反動に対する負担が軽減しており、身体のブレも少なくなっていますがだからといって簡単に命中するものではありませんよ。間違いなくお嬢様の才能です」

「運動神経は良くない自覚があったのに銃の才能だけあるって、まるでのび太君だよ」


 異世界に召喚されなければ一生自覚することのなかった才能だと思う。

 逆にのび太君はよくその才能に気付けたものだ。

 とはいえ、私の銃ってやっぱり魔物相手には不利だよね?

 ゴブリンとか相手なら倒せても、このリンゴの樹にいくら銃弾を撃ち込んだところで殺せる気はしない。


「ツバスチャン。火の魔法で燃やしていいかのぉ?」

「いえ、あのリンゴは素材として使いますのでここは私が参りましょう」 


 するとツバスチャンは包丁を持ってリンゴの樹に向かって走った。

 当然リンゴは落ちて来るわけだが、次の瞬間、リンゴが八等分に切られていて、さらには皮の部分が加工されてウサギさんの形になっていた。

 何で爆発しないんだろ?

 と思っている間に、今度は木の根っこが襲い掛かって来るが、ツバスチャンはそれを器用に躱すと、包丁でリンゴの樹を切り倒してしていた。

 とても巨大な樹をどうやって包丁で切り倒したのかはわからない。

 ツバスチャンは樹の倒れる方向に先回りし、それを支えると、ゆっくりと下ろした。

 リンゴが爆発しないための配慮だろう。

 あまりにも一瞬の早業だった。


 ボス部屋をクリアしたところで金色宝箱と銀色宝箱と茶色宝箱が三つ現れるが、それがどうでもよくなるくらいの早業だった。

 エミリさんの剣術はとても美しくて強くて私の憧れだが、ツバスチャンの強さはその比ではない。

 人間の遥か先に行っている。

 さすが万能コンシェルジュ、流石神鳥だ。

 ツバスチャンがさらにリンゴをバラバラに解体している。

 何故か全部ウサギの形で。

 ただ、一個一個がとても大きく、そのリンゴ一個で100キロは余裕で上回っている。

 八等分にしたリンゴ一個でも十キロ以上。

 とてもではないが食べきれない(ちなみに普通のリンゴ1個の重さは200~400グラム)。


「お嬢様、こちらをどうぞ道具欄にお納めください」

「え? これリンゴの種? 種は普通の大きさなんだ」


 ツバスチャンがくれたのはリンゴの種が入った袋だった。

 見た目は普通のリンゴの種で、さっきまで巨大リンゴを見ていたから不思議な感じしかしない。

 てっきり、種も一個一個が巨大なんだと思っていた。


「ああ、直ぐに道具欄に入れてくださいね。爆発しますので」

「爆発っ!?」


 私は即座に道具欄に収納した。

 大丈夫だよね? 道具欄の中で爆発したりしないよね?

 そっか、さっき落ちたリンゴが爆発しなかったのは、ツバスチャンが一瞬のうちにリンゴの種だけ取り除いていたからなんだ。


「ツバスチャン。リンゴの種をどうするのですか?」

「そうだよ! カニが持っているおにぎりと交換するなんて言い出さないよね?」

「いえいえ。こちらのリンゴの種を使えば、お嬢様に新しい武器が開発できますので」

「新しい武器?」


 開発欄を見る。

 そこにあったものは、私が最も必要としているものであると同時に取り扱いの怖いものでもあった。


 爆発の銃弾。


 名前から察するに、着弾すると同時に爆発する銃弾だろう。

 さっきのリビングアーマーのように急所がなかったり、このリンゴの樹のように巨大な魔物相手に役立つ銃弾だ。


「リンお姉さま、この宝箱は開けないのですか?」

「あ、そうだった! 今開ける!」


 宝箱って、開けるときドキドキするよね?

 まずは茶色い宝箱から開ける。

 中に入っていたのは――


「……え……リンゴ」


 山盛りのリンゴだった。

 三十個はある。

 まぁ、道具欄に入れたら腐らないから入れておこう。

 いくつかはラミュアちゃん


 次の宝箱からは……ポーションか。これもいらないな。私なら自分で作れるし。

 最後の宝箱から出てきたのは、砂金だった。

 もう騙されないよ、大した価値がないことはわかっている。

 でも、嬉しい。


 次は銀色宝箱だ。

 中に入っていたのは料理のレシピだった。

 炒飯の作り方が書いてある。

 こんなの見なくてもわかるけれど、なんでも調理スキルとレシピがある状態で作った料理を食べると、一時的にステータスが上がるような恩恵が得られるらしい。

 私は調理スキルを持っていないけれど、ツバスチャンが持っているらしいので、いざというときにはお願いしよう。

 最後に金色宝箱――中に入っていたのはまたも本だった。

 前に技術書といって手加減という能力を覚えることができる本だったけれど、これは?


「こちらは魔導書ですね。使うと魔法を覚えることができます」

「へぇ、魔法を――魔法っ!?」


 え? 私が魔法を使えるようになるの?

 私、ガンナーから、魔法少女に変身できるの!?

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