第110話 遊佐紀リンはリビングアーマーに驚愕する
香辛料やサトウキビの畑を見て回る。
それにしてもダンジョンの畑って滅茶苦茶だ。
収穫時期が春の作物も夏の作物も秋の作物も冬の作物も等しく均等に育っている気がする。
それに明らかに成長が早い。
ここのダンジョンって完成してまだ数日のはずなのに、もう収穫可能な作物が存在する。
ここで果物を育てれば、イチゴとスイカとブドウとみかんが一緒に食べれられそうだ。
なんてことを思いながら畑の奥に見える下り階段に……下り階段に……あれ?
「あの、ツバスチャン。階段で降りるんじゃないの?」
「階段は奥にありますが、これを使いましょう」
そう言うと、その鉄の部屋の扉が「チーン」という音とともに開いた。
なんというか、異世界感がないなーと思いながら、ツバスチャンを先頭にその部屋の中に入った。
「リン、これは何の部屋なのでしょうか?」
「とても小さな部屋ですが――ボタンがいろいろとありますね」
ナタリアちゃんとラミュアちゃんは不思議そうにしている中、鉄の扉が自然に閉まる。
ツバスチャンがいくつもあるボタンのうちの一つを押したら、その部屋が突然振動を始めた。
「ん? 部屋が揺れておるのじゃ」
「リンお姉さま、大丈夫なのですか?」
「あぁ、うん、大丈夫大丈夫」
説明するのもめんどくさいので黙っていると、扉が開いた。
そして、その扉の向こうの景色はさっきまで私たちがいた景色とは別の部屋だった。
「先ほどと違うのじゃ!? これは転移装置じゃったのか」
「転移装置……そういえば古代のダンジョンには転移魔方陣が設置されているダンジョンがあるって本で読んだ覚えがあります」
あぁ、転移装置ね。似ていると思う。
異世界にアレがあるって違和感しかないので、もう転移装置でいいや。
「それで、ツバスチャン。ここ地下何階?」
「十階層になります。ダンジョンは深くなるほど敵が強くなりますからね。安全性を考慮して、エレベーターで一度に地下深くまで移動できない仕組みになっております」
エレベーターって言っちゃった。
「全部で何階層まであるの?」
「現在は六十七階層までですね」
現在はって、これ以上増やす気満々だ。
でも、六十七分の十って考えると、このあたりはまだ強い魔物はいない――ってあれ?
「ツバスチャン! なんか近付いてるよ! 鎧が近付いてきてるよ!」
「あれはリビングアーマーです。空っぽの鎧の魔物ですね。この辺りは良い鉄が採れないので、あれを素材にしようかと」
「そっか、リビングアーマーって言うんだ。ツバスチャン……」
「なんでしょう?」
「私、ファンタジーゲームとかそういうのよくわからないんだけど、リビングアーマーって西洋甲冑じゃなくてああいう鎧なの?」
迫ってきたのは、赤い鎧武者だった。
真田幸村が着ていそうな鎧だ。
赤いお面が恐ろしい。
「あれがダンジョンの魔物……見たことがありません」
「独特な鎧じゃのう。デザイン重視のドワーフの試作かの?」
「あ、やっぱり二人ともあんな鎧知らないよね?」
よかった。
実はこっちの世界でこういう鎧はよくあるんです――って言われたら世界観が壊れるところだった。
とか考えていたら、リビングアーマーが剣を抜いた――ってあれ、日本刀だ。
日本刀って切れ味凄いんだよね――って怖い怖い怖い怖い!
私は聖銃を取り出して引き金を引いた。
「――やった!」
銃弾が赤い面を撃ち抜く。
これで――
「って、まだ動いてるっ!?」
まったくダメージを受けていない!?
「リンよ、リビングアーマーは鎧を少し壊した程度では死なんぞ!」
「ええ、じゃあどうしたらいいんですか!」
「大きく壊さんといかん。ここは儂が――」
とナタリアちゃんが魔法を使おうとするその前に、ツバスチャンが動いていた。
次の瞬間、鎧がバラバラになっていた。
み、見えなかった。
何が起きたの?
相手をバラバラにする秘孔でも突いたの?
ツバスチャンは落ちていた刀を拾い、それを持ってくる。
「この階層に登場するリビングアーマーの剣はどれも一点物です。この剣の名は
「へぇ、一本一本違うんだ」
「はい。これは中々上質の剣ですね。ラミュアお嬢様はこの剣をお使いください」
「え? 私が?」
「はい。リンお嬢様は銃の才能が、ナタリア様は魔法の才能がありますようにラミュアお嬢様には刀の才能があります。これはきっとあなたの力になりますよ」
そう言ってツバスチャンはニッコリとほほ笑む。
え? 私って銃の才能があるの?
誰でも一生懸命練習したら、数十メートル先の的の中心を狙えるようになるんじゃないの?
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