第109話 遊佐紀リンは人工ダンジョンに入る
ダンジョンの入り口は家の裏にあった。
倉庫のような簡素な建物には似つかわしくない頑丈そうな鉄の扉を開けると、その先には地下に続く階段があった。
階段の壁や天井が光を放っていてランタンや光魔法が必要ない。
前に行ったダンジョンと同じだ。
「これは見事なまでのダンジョンじゃな。ツバスチャンよ、まさかフェアリーイーターはおらんじゃろうな?」
ナタリアちゃんが警戒するように言う。
かつてフェアリーイーターに捕食されたことを思い出したのだろう。
「いませんよ。ハニーキラービーはいますが」
「それはいい話を聞いた。ハニーキラービーが集める蜂蜜は絶品じゃからな」
ナタリアちゃんは打って変わって嬉しそうに言った。
へぇ、そんなに美味しい蜂蜜なんだ。
私も食べてみたいけれど――
「ダンジョンの中に花畑があるのですか?」
「はい。リンお嬢様が使いやすいように薬効成分に秀でた花を生み出すようにダンジョンを創りました」
「執事と違ってコンシェルジュ様はそんなこともできるのですね!」
ラミュアちゃんが褒めるように言うが、そんなことできるのはツバスチャンだけです。
改めて階段を下りていく。
……ってえ?
「なにこれっ!?」
ダンジョンに入って直ぐの場所にあったのは砂浜、そして海だった。
広大な海が広がっている。
「ツバスチャン! なにこれ!?」
「はい、ダンジョン海ですね。ここは海から遠いですからダンジョンの中に海を作りました」
「作りましたって、海って作れるものなの!? って冷蔵庫の中にあった魚介類は――」
ここで手に入れたのか。
ってあれ?
普通に見ていたけれど、船が浮かんでいて、そこに誰か乗っているように見える。
「ツバスチャンさん! 聖女様!」
船がこっちに近付いてきた。
乗っているのは村の人たちだ。
「皆さん、調子はどうですか?」
「大漁ですよ、ツバスチャンさん」
見ると、船の中にある網に大量の魚介類が見えた。
イカやタコも見える。
「まさかこの村で海の魚が獲れるなんて! このタコとかイカとかって魚は食べる気はしませんけどね。あ、もちろん約束通り釣れた魚の一割りはツバスチャンさんに、三割は干物にして領主様に納めますよ」
「ええ、そうしてください。領主様とは上手に付き合う必要がありますからね」
とツバスチャンは右翼で顎を撫でて言う。
領主様と上手くやっていく?
……ん?
「ねぇ、ツバスチャン。ダンジョンができたタイミングで私の情報が領主様にバレて呼び出されたって、なんか都合よすぎる気がするんだけど」
今回の事件で私たちは領主様に大きな貸しを作った。
見たところそれほど悪い人でもなさそうだし、その貸しを蔑ろにすることはないだろう。
この世界の仕組みには詳しくないけれど、領主様がその気になれば、このダンジョンを独占しようとするかもしれない。
だが、今回の貸しのお陰でその可能性は非常に低くなった。
偶然にしては出来過ぎている。
「ツバスチャン、もしかして――」
「はっはっは、情報というのは必要な時に必要な相手に渡してこそ真価が発揮されるものです」
ツバスチャンが領主様を手玉に取ってる。
そして私も。
とりあえず、今夜はたこ焼きを食べたいな。
一階層は海の他に畑などがあるらしい。
胡椒やトウガラシなどの香辛料が育てられている。
それにサトウキビも……サトウキビ?
「ツバスチャン。砂糖は家にいっぱいあるよね?」
「ええ。ですが売ればお金になりますから村人の希望で栽培しています」
そっか……砂糖は貴重品だもんね。
人工ダンジョン――金のなる木過ぎるよ。
「……ダンジョン……税金三割……魚に砂糖に香辛料。その額は」
ラミュアちゃんがぶつぶつと呟いて計算している。
もしかして、かなりできる子なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます