第108話 遊佐紀リンはパスタ作りを希望する

 台所に立ち、調理を始める。

 冷蔵庫の中を確認すると、知らない間に食材の幅が広がっている気がする。

 無いものといえば、海で取れる食材くらいじゃないだろうか?

 と思ったら、ロブスターのような大きな海老が冷蔵庫の中に鎮座していた。

 それだけじゃなくて、イカもある。

 え? 淡水エビは存在するのは知っているけれど(大きさはともかく)、淡水イカっていうのは存在しないよね?

 でも、このあたりに海なんてないはずだし、どうやって手に入れたんだろう?

 よく見ると他にも海の魚がいっぱい冷蔵庫の中にいた。

 マグロなんてどうやって冷蔵庫に入ったの?

 ていうか、私はいまどうやってマグロが入っている冷蔵庫を見ているの?

 頭がおかしくなるので深く考えるのはやめよう。

 とりあえず、ラミュアちゃんはまだこの家に来たばかりなので彼女の口に合うように、パスタを作ろうかな?

 ミートソーススパゲティにしよう。

 トマトはあるし、お肉もある。

 ……これ、何の肉だろう?


「リンお姉さまが料理を作るのですか? 料理人は雇っておられないのですか?」


 謎の肉を凝視する私に、ラミュアちゃんが不思議そうに尋ねる。

 聖女だから専属料理人がいると思ったのかな?


「料理人は雇っていないけれど、ツバスチャンに頼めば作ってくれるよ。万能コンシェルジュだからね」

「それならセバスチャンに作ってもらえばいいのでは? 何故リンお姉さまが作るのですか?」

「料理がしたいからかな? 趣味だし、作ったものを美味しいって言ってくれると嬉しいし」

「したいから……ですか」


 ラミュアちゃんは考えるように言った。

 そう、私は料理が好きだ。

 作るのも好きだし、食べるのも好きだし、食べてもらうのも好き。後片付けは好きじゃないけれど、好きが三つあるからやっぱり料理が好き。

 うわぁ、この家、ミンサーもあるし、パスタ製造機もあるじゃん!

 これは生パスタに挑戦するしかないね!


 果たして、私の異世界パスタ作りは(異世界って思えないくらい調理器具と食材が揃っているけれど)中々上手にできた。

 この国ではパスタは一般的でないのか、まだ生まれてすらいないのか、ラミュアちゃんは初めてみる料理に戸惑っていたけれど、食べてみたらとても美味しいと喜んで食べてくれた。

 ナタリアちゃんには太すぎるんじゃないかと心配したけれど、とても器用に食べている。


「とても美味しかったです」

「お粗末様。明日は何しようか? 村の中の見学でもする? 川に一緒に釣りにいくのもいいかな?」


 私は調理器具と食器を洗いながら明日の計画を立てる。 

 でも貴族のお嬢様だったら針に餌をつけたり、釣った魚を触ったりするのはできないかな?

 だったら別の――


「あの、リンお姉さま! 私、行きたいところがあります!」

「どこ?」

「ダンジョンです!」


 そっか、ダンジョンに行きたいんだ。やっぱりお嬢様だね。じゃあ、行こうか、ダンジョ……ん?

 ダンジョン?


「えっと、ダンジョンって、魔物のいるダンジョン?」

「魔物のいないダンジョンってあるのですか?」


 知らない。


「えっと、ダンジョンって危ないよ? 私とナタリアちゃんは後衛職だから、護ってくれる人がいないし」

「リンお姉さまは料理がしたいから料理をするのですよね? 私もダンジョンに行きたいのです。ダメでしょうか?」


 ダメって、ダメじゃないけれど。

 でも、ここから一番近いダンジョンは隣村だよね?

 さすがに行って帰るのは時間が足りない。

 ラミュアちゃんの願いは叶えてあげたいけれど、さすがにこればかりは――


「それでしたら私がお連れ致しましょう」


 そう言ったのはツバスチャンだった。

 ってえ?


「ツバスチャンはコンシェルジュだから村の外には行かないんだよね?」

「ええ。ですが、先日、村の中にダンジョンが完成しましたので」

「先日、村の中にダンジョンが完成した!?」


 私は思わずオウム返しでそう叫んでいた。

 そういえば、ツバスチャンにダンジョンコアをプレゼントしたんだった。

 もうダンジョンが完成したんだ。

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