第107話 遊佐紀リンはお嬢様をもてなす

「聖女様。もう一つ、是非頼みたいことがございます」

「あ、やっぱりですか」


 まぁ、領主様は割とどうでもいいけれど、ラミュアちゃんのことは放っておけないよね。

 きっと、私たちに呪いを掛けた犯人を捜して捕まえろって言うんだろう。

 でも、それって可能なのかな?

 子爵は心当たりがあるっぽいことを言っていたけれど、それが外れていた場合、犯人を捜すには情報が少ないし。

 エミリさんは呪いには詳しいからそこから導き出せるとか?

 ナタリアちゃんなら呪いの逆探知とかそういうのは可能かな?


「暫くの間、娘を預かっていただけないでしょうか?」

「え?」


 思っていた展開と違った。


「呪いを掛けた相手が素人ではないのじゃとすれば、解呪されたことに気付いておるじゃろう。放っておけばまた呪いを掛けられるかもしれん。予備の薬を渡しはしたが、安全策を講ずるとしたら犯人が見つかるまで安全な場所で匿っていた方がいいじゃろう」

「私たちの拠点ならここからも遠い。狂暴な魔物もいないしな」

「私も異論はない。呪いの恐ろしさと辛さはわかっているつもりだ。ラミュア、一緒に来るか?」

「ご迷惑ではないですか?」

「ううん、全然! 歓迎するよ」


 私は笑顔で手を差し出すと、ラミュアちゃんはその手を握った。

 小さくて可愛い手だ。

 妹が欲しかった私にとって理想の女の子かもしれない。


「では、リン、ナタリア。あとは任せるぞ」

「え? エミリさんは一緒に帰らないんですか?」

「私はここに残って子爵と呪いを掛けた犯人を捜すつもりだ。いいだろう、子爵」

「もちろんです。是非ご協力をお願いします」


 そういうことなら仕方ないか。

 いくら安全な場所に逃げるからといっても、いつまでも犯人が捕まらないままだったらラミュアちゃんも不安だろうし、なにより家に帰れないのは不憫だ。

 エミリさんと離れ離れになるのは不安だけど、拠点に帰ればツバスチャンもいるし、魔法を使えるナタリアちゃんもいる。

 それに聖銃のお陰で少しは戦えるようになった。

 魔物相手になにもできないころの私じゃない。


「よろしくね、ラミュアちゃん!」

「はい、聖女様」

「私のことはリンって呼んで」

「はい、リンお姉さま」


 以前、馬車で一緒になった女の子にお姉ちゃんって呼ばれたときも思ったけれど、お姉さま――うん、良い響きだ


 ララピードの鳥車に乗って私たち三人は拠点に戻った。

 家に帰るとツバスチャンが出迎えてくれた。

 

「はじめまして! 鳥獣人さんですか?」

「はい。私はツバメのツバスチャンと申します。本日よりお嬢様のお世話をさせていただきます」

「ご丁寧にありがとうございます。ラミュアです。ツバスチャンは執事なのですか?」

「いいえ、私はコンシェルジュでございます。執事は主に屋敷の中だけのサポートをいたしますが、コンシェルジュは屋敷の中だけでなくその周辺地域の仕事も致しますので、村の中で困ったことがあったときもどうぞお申し付けください」

「そうなのですね。ではよろしくお願いします」


 ツバスチャンと出会ってこれほどすんなり受け入れたのはラミュアちゃんが初めてじゃないかな?

 さすが生粋のお嬢様だ。

 コンシェルジュと貴族のお嬢様の相性は抜群っていうことか。

 なんちゃってお姫様のエミリさんとは違うな。


「リン、お主かなり失礼なことを考えておらんか?」

「ソンナコトナイヨ」

 

 私は視線を逸らして言った。





「リンお姉さま! なんですか、このトイレは? 固定されていたら捨てれないのでは? この巻かれた紙の束は何に使うのですか?」

「お風呂っ!? 私でも滅多に入れないのに、この家では毎日お風呂に入っているんですか?」

「温かい風が出ています! なんですか、これ!? これで髪を乾かすのですか!?」


 ラミュアちゃんの反応がいちいち可愛らしい。

 ナタリアちゃんとか私がいない間に順応しちゃっていたし、エミリさんも受け入れるのが早かったから、こういう反応はとても新鮮だ。

 あまりにこの家の設備が気に入り過ぎたら貴族の家に帰ったとき不便に感じないか心配だ。

 家に帰ってから「お父様、今度の誕生日はドライヤーが欲しいです」って言われても領主様はきっと困るだろう。

 なんて考えながら、私はラミュアちゃんをもてなすために台所に向かった。

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