第106話 遊佐紀リンはラミュアを治療する

「間違いない。これは呪われておるな」


 また呪いですか。

 この世界では呪いはメジャーなスポーツかなにかなのだろうか?

 体育の授業で呪いを掛けたり、お婆ちゃんの知恵袋的な伝統的な呪いを孫に教えたりしているのかな?

 もしくは花粉症みたいに呪いの季節があるとか?

 あぁ、少し頭がいたくなってきた。呪われてるな、もうこんな季節か――みたいな。

 って、さすがにそんなわけはないことは私でもわかる。

 私が思っていると、ラミュアちゃんが恐る恐る尋ねた。


「呪い……ですか? 私、呪われているのですか?」

「うむ。ラミュアよ、心当たりはあるかの?」

「いえ……ありません。ですが父は領主ですので」


 ラミュアちゃんは俯いて言った。

 領主っていうだけで恨みを買ったりするのかもしれない。

 その矛先が領主本人ではなく、領主の娘に行く可能性もあると。


「それでは治療はできませんよね。呪いを解くのは教会の神官様の仕事ですし」

「いえ、呪いを解く薬もありますから」

「あるのですかっ!?」


 驚いたのはラミュアちゃんではなく、私たちをここに案内してくれた執事さんだった。

 何で驚くの?


「呪いを解く薬といえばミスラ薬と教会の聖水くらいじゃが、軽度の呪いくらいしか解けん。このような重症化する呪いを解くとなると高位の司教が使える光の魔法くらいじゃ。神術とも呼ばれる光の魔法は教会が独占しておるからの」

「あれ? ナタリアちゃんも光の魔法を使えるよね? 全身がぴかーって光るやつ」

「あれは妖精魔法じゃから、厳密には光魔法ではないのじゃよ。呪いの治療や回復魔法は使えん」


 そういえば、私たちが怪我をしたときはいつも回復薬を使っていたから、ナタリアちゃんが回復魔法を使うところは見たことがない。

 とりあえず、呪いを解くのならエミリさんがいつも飲んでる薬でいいかな?

 道具欄から解呪薬を取り出す。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」


 執事さんが水を用意する。

 彼女は薬を受け取ると、私たちに背を向け、鼻をつまんで飲んだ。

 そして、飲んで彼女は意外そうな声をあげる。


「え? おいしい?」

「はい。味の改良頑張りました」


 エミリさんのために作っているから大量にあるだけでなく、味の改良も行っている。

 良薬口に苦しっていうけれど、やっぱり美味しい方が飲みやすいもんね。


「それで、身体の調子はどうですか?」

「……? そういえば身体のだるさも頭の痛みもなくなったし、食欲も湧いてきました。これ、治ったのでしょうか?」

「うむ。呪いは完全に解けておるな」

「そのようだな」


 ナタリアちゃんとエミリさんが言った。

 

「急いで旦那様を呼んできます」


 執事さんが部屋を出て行こうとするが、私は待ったをかけた。

 こんな状態で領主様を呼びにいくのはやめてほしい。


「執事さん、まだですよ。私の治療はここからですから!」


 そう言って、道具欄からそれを取り出した。





 準備を終えたところで、執事さんが領主様を呼んできた。

 ラミュアちゃんが治ったと聞いたのか、足音が凄い勢いに近付いて来て、ノックもせずに扉が開いた。

 思春期の女の子のお父さんがやったら一瞬で嫌われる行為だけど、ラミュアちゃんは気にする様子はなかった。

 領主様はラミュアちゃんの傍にいき、顔色も随分とよくなった彼女の前に跪く。


「ラミュア! おぉ、ラミュア! もう病気は大丈夫なのか?」

「お父様! はい! 聖女様が治してくださいました」

「そうか……ところで、ラミュア。その髪はどうしたのだ? 鬘にしてはまるで本物の髪の毛のような」


 さっきまで帽子を被って頭を隠していたラミュアちゃんだけど、いまはその帽子をとって、綺麗なブルーサファイアの髪が生えそろっている。


「これも聖女様が生やしてくださったのです。せっかく呪いが解けたのだから、今度はオシャレをしようって仰ってくれて」

「まさか、この短時間で!?」


 私が思った通り、彼女の毛は呪いによって抜けたものだった。

 髪は女の命。

 せっかく元気になったラミュアちゃんを見せるのなら、髪の毛も元通りにしてあげないとと思って、増毛剤を使ってみた。

 思った以上に直ぐに髪の毛が生えて、ちょうどいいところで止まった。

 あとは軽く切り揃える。

 こっちの世界の女の子って地毛がカラフルで綺麗だよね。


「聖女様。その髪の毛を生やす薬ですが、どうか私にも分けてくださらぬか?」

「はい、いいですよ」


 どうせ言われると思っていたので、用意してある。


「おぉ、何から何までありがとうございます」


 領主様は増毛剤の入った薬瓶を見て、小躍りしている。

 喜んでいるところ申し訳ないけれど、伝えることは伝えておかないといけない。


「いえ。それで、ラミュアちゃ――お嬢様の病気の原因ですが、呪いだと言うことが判明しました」

「のろ……それはまことですか?」

「はい。これは解呪用の薬です。また呪われた時のことを考えて、予備の薬も用意しています。ここまで強力な呪いとなると何度も掛けられるものではないと思いますが、やはり原因を突き止めた方がいいと思います」

「原因……もしや、あいつが……しかし……」


 あれ? 領主様には心当たりがあるのだろうか?

 だったら、あとは任せてもいいかな?

 さて、私は帰るとするか。

 と頭を下げて帰ろうとしたところで、領主様が私の手を掴む。


「聖女様。もう一つ、是非頼みたいことがございます」

「あ、やっぱりですか」


 まぁ、領主様は割とどうでもいいけれど、ラミュアちゃんのことは放っておけないよね。

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