第105話 遊佐紀リンは公認聖女を拒否する
「聖女よ。其方には是非、儂の娘の治療を頼みたいのだ」
……あ、違った。
私は言われる前に取り出していた増毛剤を懐に入れる。
「あの、娘さんは病気なのでしょうか? 怪我なのでしょうか?」
「病気……だと思う」
“思う”ってことは原因はわからないってことかな?
ナタリアちゃんに診察してもらう必要がありそうだ。
「聖女を娘のところに案内しろ」
「かしこまりました。聖女様、案内します」
私は執事さんと一緒に娘さんのお部屋に行こうとしたが――
「待て。娘の部屋に行くのは聖女だけにしてもらおうか。あまり闘病中の娘の姿を他人に見せたくはない」
と言った。
「あの……私は聖女というか薬師でして、薬を用意することはできても病気の診察をすることはできないんです。なのでここにいるナタリアちゃんに病気の診察をしてもらう必要があるのです」
「そうなのか。ではそちらの護衛は――」
と領主様がエミリさんを見て動きを止めた。
「姫!? もしかしてエミーリア姫殿下でございますか!?」
「ああ。久しぶりだな、アドルフ」
その場にアドルフ子爵が跪く。
各地の領主が王族より力を持っているって言っても、どうやらここではエミリさんの方が身分が上らしい。
「エミーリア姫殿下が何故このような場所に――」
「言っただろう? 今の私はリンの護衛だ」
「姫殿下が直々に護衛をなさるということはこちらの聖女は真の――」
「ああ、私は本物の聖女だと思っているぞ」
なんですとっ!?
エミリさんには何度も私は聖女じゃないって言っているのに、領主相手になんてことを言うんですかっ!
聖女って呼ばれるのは諦めたけれど、公式の聖女になるつもりはない。
そんなことになったら、なんか面倒なことになりそうだし。
「あの、私が聖女かどうかは忘れるとして、娘さんの治療しましょう!」
「そうであった! 聖女様を案内するのだ」
いつの間にか「様」付けになってた。
さっきまで「聖女」って呼び捨て(?)だったのに。
このまま公式聖女になりそうで怖い。
長い廊下を執事さんに案内される。
一番奥の部屋が、その娘さんの部屋だった。
執事さんがノックする。
「お嬢様、失礼いたします。先ほどお話した薬師様をお連れしました」
「入ってください」
「失礼いたします」
執事さんが扉を開ける。
学校の教室の半分くらいある広い部屋。
その部屋の端に置かれた天幕付きのクイーンサイズのベッド。
まさにお姫様ベッドって感じのそのベッドに女の子が座っていた。
部屋の中だというのにニット帽を被っているのは、きっと髪の毛がないからだろう。
年齢は私たち下――十歳くらいかな?
「よかった。全員女性の方だったんですね。この姿を殿方に見られるのはあまり好きではありませんので」
彼女は笑みを浮かべて言った。
かわいい。
「はじめまして、リンです」
「儂はナタリアじゃ」
「エミーリアだ」
三人が自己紹介をすると、領主様の娘ちゃんは――
「ラミュアです。よろしくお願いします」
と頭を下げた。
うん、いい子っぽい。
こんなにいい子なら、絶対に治さないと。
「ナタリアちゃん。だけど診察をお願いしてもいい?」
「うむ、早速――と言いたいが、これは診察するまでもないな。部屋全体がヤバイ気に満ちておる」
とナタリアちゃんはラミュアちゃんの前に飛んでいき、一周する。
そして、
「間違いない。これは呪われておるな」
また呪いですか。
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