第103話 遊佐紀リンは貴族の家の同行を受け入れる

「領主様が聖女様の奇跡の力を借りたいと仰せなのだ。是非一緒に来てもらいたくてな」


 ……あ、これは面倒な奴だ。

 私は少し待っていてくださいと言って、家の中に入り、エミリさんを呼ぶ。

 エミリさんはお風呂に入り終わって、ドライヤーで頭を乾かしているところだった。


「エミリさん、大変です!」

「さっきの奴らの用事はリンだったのか」


 私が用事を言う前にエミリさんが言い当てた。

 もしかして、エスパー?

 勇者流読心術?


「何もない村だからな。用事があるとすればリンの薬だろうというのは見当が付いていた。どうせ、呼び出されているんだろう?」

「うん。どうしよ?」

「行くしかあるまい。下手に断ればこの村に迷惑がかかる」


 仮住まいとはいえ、拠点として暮らさせてもらっている以上、私たちもこの村の村民と言っていいだろう。

 確かに私たちが不義理を果たせば村に迷惑が掛かる可能性もある。


「留守だって誤魔化す手は? 私、普段はこの村にいないし」

「貴族の遣いで来ているのだから簡単に帰ったりしない。そもそも、リンは先ほどまで皆の治療をしていたのだし、貴族の遣いにも合っている。少し調べればそれが嘘だとバレるだろう?」

「でも、貴族の屋敷に行ったら、私、殺されませんか?」

「どんな横暴貴族だ! そんな人間はあまりいない」


 少しはいるんだ。

 いざとなったら逃げる準備だけはしておかないと。

 いつでも帰還チケットは取り出せるようにしておく。


「でも、次の乗合馬車が出るまで時間が――」

「ララピードならば領主のいる街まで一日もかからないはずだ」


 あれってそんなに速いんだ。

 あぁ、こりゃ断る理由がない。

 今日はシルちゃんを呼んで一緒に遊ぼうと思っていたのに。

 馬車での移動中や宿に泊まっている間はシルちゃんを呼べないんだよね。

 ゾンビと戦う時も召喚できず、結局、拠点に帰ってきたときに少し呼んだりする程度になっている。

 たまにはゆっくり遊びたかったんだけどな。

 シルちゃんで思い出したけれど、最近道具欄にある者が追加された。


【スライムの書:1】


 寄生している誰かがスライムを倒して、そのドロップアイテムが私のところに入ってきたらしい。

 ゾンビの書とかじゃないからマシだけれども、一度召喚したほうがいいのだろうか?

 って話を元に戻す。

 とりあえず、貴族の遣いさんをいつまでも待たせておくわけにはいかないし、私はナタリアちゃんも呼んで、三人で彼を家に出迎えた。


「お招きありがとうございます。あなたが聖女様ですね!」


 と貴族の遣いさんはエミリさんに挨拶をする。


「いや、私は護衛だな」

「ということは、そちらの妖精族の方が!? 妖精族には我々にはない知識を持っていると聞いていましたが――」

「儂は診断はしているが聖女ではないのぉ」

「……ということは、もしや――」


 と貴族の遣いさんは私の――後ろにいるツバスチャンを見て、


「そちらのフクロウの――」

「私はコンシェルジュです。お茶をどうぞ」


 とツバスチャンが若干フクロウに間違えられたことに苛立っていると思うけれど、そんな素振りは見せずにお茶を出す。


「では、聖女様は不在で?」

「いや、聖女と呼ばれているのはこの子だ」


 エミリさんが言う。


「はじめまして。先ほどは挨拶ができずにすみません、リンといいます」

「こど――」

「十七歳です」

「っ!? 失礼しました。エルフの方でしたか!? どうりで――」

「人間族です」


 何度目かの間違いの多さに、訂正する速度が上がっている気がする。

 とりあえず、事前に話し合っていたので貴族の屋敷に行く件は五日以内に村に戻って来ることを条件に受けることにした。

 何の用事かは貴族の遣いさんにもわからないそうだ。

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