第102話 遊佐紀リンは久しぶりに聖女っぽい活動をする

 乗合馬車で乗り継ぎのために領地の外れの小さな町に立ち寄った私たち。

 私たちが乗っていた馬車はここまでらしく、次に王都方面に向かう馬車が来るのが一週間後らしく、その間私たちは拠点で過ごすことにした。

 そんな束の間の休息のはずの日、私は対応に追われていた。

 なんでも、この村に聖女がいて、どんな病気でも治してくれるとかいう根も葉もある噂が広がっているらしく、数カ月に一度やってくる行商人と一緒に傷病者がやってきた。

 聖女じゃないんだけれども、困っている人を放っておけないエミリさんに倣い、私もその人たちの治療をすることにした。

 聖女じゃないんだけれども――大切なことなので二度言いました。

 

「歯の痛みが引いた! 冷たい水を飲んでもいたくないぞ!」

「身体が楽に。もう明日には死ぬと思っていましたが、あと二十年は生きられます」

「医者からは二度と動かないって言われた腕が動くっ!? 聖女様、ありがとうございます」


 症状を聞いて薬を渡すだけの作業だけれども、おおむね評判はいい。

 ただ、治せない病気もあった。

 その場合は謝罪して、鎮痛剤などの身体が楽になる薬を渡した。

 痛みがマシになるって聞いて喜んでいたけれど、治してあげられない罪悪感を覚えた。


「しかし、リンも随分と作れる薬の種類が増えたものじゃな」

「うん。ダイジョブ草からの派生した薬が多いからね。怪我とかなら大体のものは治せるね。それより、ナタリアちゃんの診察のお陰だよ」


 ナタリアちゃんは病気の診察などを手伝ってくれた。

 原因が不明な病気なども見極めてくれた。


妖精族フェアリー流診察術じゃ。妖精の里で免許皆伝の秘技じゃよ。伊達に旅に出るのを許可されておらんわ」


 とナタリアちゃんが胸を張って言うけれど、私はナタリアちゃんが家出して旅に出たことを知っている。

 敢えて指摘はしないけれど。


「リン、診察は終わったのか?」

「はい。あ、言われた通り治療費は貰ってませんよ」


 薬を売るには薬師ギルドに登録し、免許を受ける必要があるけれど、私はそれがない。

 だから、行商人さんに薬を売る事もできないし、薬を使って治療したあと治療代を貰うことも許されない。

 少しの取引ならば黙認されるのだけれども、こんな大人数の治療の場合はアウトだ。

 なので、「治療費は頂きません。そのために用意したお金は村に寄付していってください」と言うことにした。

 馬車に乗ってここまでやってくるような人はお金を持っている人が多く、彼らの大半は喜んでお金を払ってくれた。

 中には村に寄付する義務がないことを知って、お金を払わなかった人もいたけれど、お金が無い風には見えなかったので、単純にケチなだけだろう。

 その人の顔は覚えた。

 もしももう一度、ここに治療を依頼しに来るようなことがあれば、その時は先に村に寄付をしてもらってから治療をすることにしよう。もちろん、今回の分とさらに利息を上乗せして請求するつもりだ。

 ぐふふふふ、お金を払わなかったことを後悔するといい。


「リンよ。悪い顔をしておるぞ。小悪党の使いっ走りの顔じゃな」

「本当の悪になれないのがリンのいいところだな」


 褒められてるのか、舐められてるのかは微妙なところだ。

 私だってやろうと思えば悪いことできるよ。他人に迷惑をかけない前提条件がつけば。

 とりあえず、治療はひと段落ついた。

 家に帰ってのんびりしようと思ったとき、それはやってきた。

 馬車――ではない。

 車を曳いているのが馬ではなかったからだ。

 あれは――ダチョウ?

 ううん、ダチョウじゃない。

 だって、空を飛んでいるんだから。

 飛ばないダチョウはただのダチョウだと言わんばかりに立派な飛びっぷりだ

 その鳥が、二羽、間に荷車を載せて飛んでいた。

 

「あれはララピードじゃな」

「ララピード?」

「ああ。低空を高速で飛行する力持ちの鳥じゃ。数は少なく、非常に高価なため貴族や金持ち連中しか保有しとらん」


 じゃあ、馬車じゃなくて、鳥車と呼ぼう。

 鳥車は少し離れた村長の家の前に停まった。

 村長に用事があるのだろうか?

 あの鳥車があれば、楽に旅ができるのになぁと思いながら、家に戻った。


 とりあえずやることがないので、家の前でツバスチャンが手入れした薬草畑の様子を見る。

 ダイジョブ草の花が咲き誇っていた。

 小さな白い花で、とても綺麗だ。

 まるでスズランみたい。

 スズランは毒だって聞いた気がするから別の花なのは確かだけど。

 と花を眺めていたら、男の人が近付いてきた。

 見たことがない。

 村の人じゃないのは確かだ。


「そこの子ども――聞きたいことがあるのだが」

「……はい、なんでしょう?」

「聖女様の家はここで会っているだろうか?」

「えっと、会っていますけれど、何の御用でしょうか?」

「ああ。領主様が聖女様の奇跡の力を借りたいと仰せなのだ。是非一緒に来てもらいたくてな」


 ……あ、これは面倒な奴だ。

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