第99話 遊佐紀リンは化粧に興味を持つ

 パイナポーの実をその場で切って食べてみる。

 ナイフは持っていなかったけれど、道具欄に入れて開発から、カットフルーツ(パイナポー)を選べば三秒で八等分に切られたパイナポーができあがる。

 他にも砂糖を組み合わせてジャムにしたり、すりおろしたパイナポーができたりと便利だ。

 こんなことばかりしていたら料理をしなくなってしまう――ただでさえ最近ツバスチャンに任せっぱなしなのに――のでほどほどにしようと思いながら、井戸のある広場の前に置いてあるベンチに座って、三人で分けて食べた。


 あのお兄さんが言っていた通り、井戸に水を汲みにくるのも男性の方が多い。

 力仕事だからその方が理想かもしれないけれど、以前立ち寄った街とかだと井戸の周辺はおばちゃんたちが集まって雑談する場所って雰囲気があったから、やっぱりこの街ならではの慣習なのだろうと思う。

 

「しかし、この街は妙な雰囲気じゃ」

「ナタリアもそう思うか?」

「うむ。一体誰を・・警戒しておるのやら」


 そういえば通りのお店をいくつか見てきたけれど、年長者がやっている店ほど武器を常に持っていたり、脇に置いていたりする。

 ファンタジー世界だからって思っていたけれど、これまでの街で帯剣して接客する店員さんなんていなかった。


「ここの街に最初に移り住んできた人って、ホワイトパールって傭兵団の人たちなんですよね? だから武器を常に持っていないと落ち着かないとかじゃないですか?」

「「…………」」

 

 私の言葉に、二人が無言になる。

 たぶん、私は結構的外れなことを言ったのだろう。


「私たちが気にすることではないだろう」

「そうじゃな」


 よくわからないけれど、二人はそう結論付けた。

 私にはわからないやりとりみたいだけれども、確かに街の慣習に口出しするのは間違ってると思う。

 ここで、男女平等とか日本の倫理観を持ちだすのも、目に見える場所に剣を置いているのは怖いからやめてって言うのも違うと思う。

 むしろ、そういう慣習の違いを楽しむことこそが、旅を楽しむ秘訣に違いない。

 それに、私たちは明日にはこの街を出るんだしね。


 そう思って、宿に戻った。


「そういえば、リン。あまり買い物をできなかったが、代わりに化粧師を宿に呼んでみるのはどうじゃ?」

「化粧師? あ! それいい!」


 私だって高校生だから化粧をしたことがある。

 高校での化粧は禁止だったけれど、日本にいた頃はよくミコと一緒に百円ショップやドラッグストアにいってコスメグッズを買って研究したりもした。

 この世界のお化粧っていうのも少し気になるけれど。


「もしかして鉛入りのクリームとか使われていませんよね?」


 ルネサンス期のヨーロッパにおいて、肌を白く見せるために鉛入りのクリームが使用されていたって、世界史の先生から聞いたことがある。他にもアジアでは鉛入りのおしろいが使われていたって。


「それはないと思うぞ。鉛入りの化粧品は百年以上も前に法で製造、販売、使用のどれもが禁止されている。というよりも、その時に毒性のある化粧品が出回っていたから、化粧を施す者に免許制が導入され、化粧師という役職ができたんだ」

「よかった。なら安心ですね」


 綺麗になるのは楽しいけれど、そのために身体を壊したら元も子もない。

 無理なダイエットと同じだ。

 化粧師は宿で呼んでくれるらしい。

 さっそく宿に戻った私たちは、宿の主人に話をした。


「あぁ、ラザちゃんね。うん、いいよ。うちの妻もよく呼んでやってもらっているからね」


 店主は柔和な笑みを浮かべ、宿で小間使いをしている少年を使いに出した。

 暫く待つと四十歳くらいの少し痩せた優しそうな女性がやってきた。

 当然初めて会うはずなんだけど――


(あれ? この人どこかで見たような)

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