第97話 閑話 頼られるツバスチャン

「お嬢様。相談がございまして――」


 お風呂から上がって少し寛いだ私にツバスチャンが声をかける。

 ツバスチャンからの相談は珍しい。


「うん、どうしたの?」

「お嬢様が持ってきたダイジョブ草を村の特産品としたいと話を持ちかけられました。それと、稲作を始めたいという農家の方がいらっしゃいまして、他にも――」

「ちょっと待って。一度に言われてもわからない。えっと、村の人から要望が出たんだよね? 全部纏めてくれない?」

「はい、こちらに」

 ツバスチャンが一枚の紙を渡す。

 村人からの要望はこうだ。


・ツバスチャンが栽培に成功したダイジョブ草を村の特産品にして行商人に売りたい。

・稲作を始めたいので協力してほしい。

・商店の誘致のための手紙を書いてほしい。

・移民希望の人のための住居の建築を請け負ってほしい。

・冬の間の仕事を一緒に考えて欲しい。

・村の井戸に手押しポンプを導入してほしい。

・子どもに名前を付けてほしい。

・ツバスチャンに村長になってほしい。


 なんかいろいろと多い。

 って、ちょっと待って。


「色々聞きたいけど、ツバスチャンが村長? え? なんでそんなことになってるの?」

「本当です。私はコンシェルジュであり、村長ではないというのに」


 ツバスチャンが困ったように言うけれど、私が言いたいのは、私がいない間にツバスチャン、どれだけ村の人から信用を勝ち得ているの。


「ううん、村長ってのはやりすぎでも、相談役くらいになってあげればいいんじゃない?」

「おお、それは妙案ですね。コンシェルジュの仕事にも近いですし」


 ツバスチャンならそのくらい思いついていそうだけど、私の案に賛同するように頷いてくれた。

 それにしても、他にもいろいろと考える。


 移民希望者って聞いて他国から難民が来るのかなって思ったけれど、近くの村の人の人が全員で移民をしたいと希望してきたそうだ。

 この村、なんだかんだ言ってかなり発展してきているらしい。

 ツバスチャンが本気で家を作ったら文明破壊につながるからほどほどにってお願いして置く。

 手押しポンプってのは、ツバスチャンが掘った井戸にツバスチャンが自分で作った手押しポンプを設置して田んぼに水を流していたのを村人が見て、村の公共の井戸にも同じ物を導入してほしいと要望が来たらしい。

 冬の間の手仕事って、冬はまだまだ先だよね? もう準備するものなの?

 あ、村に子どもが生まれたんだ。

 今度赤ちゃんを見せてもらいにいこう。


「おや、お客様のようですね。少し失礼いたします」

「え? 何も聞こえないけど」


 ツバスチャンが玄関に向かっていく。

 そしてツバスチャンが玄関に辿り着くと同時に扉が連続で二回ノックされた。

 ノックはしているが、かなり慌てている様子だ。

 ツバスチャンが扉を開けると若い男の人が入ってきた。

 前に一度会ったことはあるが、名前は覚えていない。


「ツバスチャンさん! アッコラとバインドが喧嘩をしてるんだ! 頼む、仲裁してくれ!」

「はい、かしこまりました。お嬢様、それでは失礼します」


 ツバスチャンが男の人と一緒に出ていく。

 その途中、まだ私の視界の中にいる間にも


「ツバスチャンさん、この前扉の修理ありがとう! これ、採れた野菜もっていってよ!」

「ツバスチャン、お母さんの病気治してくれてありがとう!」

「ツバスチャン様、自警団の編成について相談が――」


 と大勢の村人から声を掛けられていて――ていうか最後の人って村長だよね?

 村長に様付けされているの?

 もうツバスチャンが村長やっていいんじゃないかな?

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