第92話 遊佐紀リンは救命活動をする
虎貫さんがお腹を刺されて倒れていた。
呻き声をあげている。意識があるかはわからない。
「何があった!?」
「ここの若旦那が腹を刺された。犯人は隣町の奴だ」
取り押さえられた男を見てプディングさんが言う。
「そいつが悪いんだ! 元余所者の癖にぜいたくな暮らしをしやがって!」
「嫉妬か」
「正当な報いだ! 困っている奴を助けるのは当然のことなのに断りやがって」
支離滅裂な男の言い分を聞くと、話はこうだ。
この男は隣町から避難してきた男で、この宿を借りて暮らしていた。
そして、町がゾンビから解放されたというときに一つ問題が起きた。
男が金を払わないと言ったのだ。
冒険者から聞いた話で、彼の飼っていた家畜が全滅したので、それを購入するためにお金が必要だと言ったのだ。
宿代は前金で半分、残りの半分は出るときに払うことになっていたらしい。
それで宿代を払わないと男がごねたので、虎貫さんが衛兵に突き出すと言ったところ、持っていた短剣で腹を刺された。そこにプディングさんたちがやってきたらしい。
「だいたい話が違うじゃねぇか! ゾンビは人間しか襲わないって言ってたんだ! なんで俺の家の山羊が全滅してるんだよ!」
「ゾンビは生きているものならなんでも襲う。人間を好んで襲うのは似て非なる
間違った知識で家畜を全滅させちゃったのか。
でも、山羊を連れて避難はできなかっただろうしね。せめて、町の外に出してあげたら助かったかもしれないけれど。
「パパ、パパ!」
「あなた、しっかり」
ラックくんとサルメさんが虎貫さんに駆け寄る。
私は何も言わずに虎貫さんに近付き、ハイポーションの蓋を開けると、
「回復薬です。これを飲ませてください」
彼女に渡した。
サルメさんは何も聞かずにそれを受け取ると直ぐに虎貫さんに飲ませた。
虎貫さんはまだ顔面蒼白状態だが、傷は塞がっているだろう。
「うっ」
「あなた!」「パパ!」
どうやら意識も戻ったらしい。
私は部屋に戻ろうとする。
この様子だと慰労会は中止だろう。
「リンさん」
虎貫さんが私の名前を呼ぶ。
「……どうして助けてくれたんだ」
「気付いてたんだ」
どうやら意識はあったらしい。
「……君は助けてくれないと思った」
「ラックくんとサルメさんがかわいそうでしょ。お父さんと旦那さんを二度も失ったら。それだけよ。それより寝ときなさい。ハイポーションは傷を治しても失った血液までは戻らないんだから。日本と違って輸血もままならないでしょ」
「日本と違って……そうだな」
そう言った虎貫さんは笑っていた。
何がそんなに嬉しいのか。
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