第91話 遊佐紀リンはダンジョンの作製依頼をする
私とエミリさん、ナタリアちゃんは三人でお風呂に入った。
日本で暮らしていたマンションのお風呂よりも広いので三人――ナタリアちゃんは洗面器の中に入っているので実質二人――で入っても余裕だ。
「しかし、どこかの貴族の娘じゃろうとは思っていたが、まさか王女だとは思わなんだ」
「黙っていて済まない」
「よいよい。一応、この国の王族には、フェアリー売買を禁止する法律を作ってもらったので儂としては感謝しているのじゃよ……まぁ、力が弱いせいで領主までその法律が及んでおらんのが玉に瑕だが」
「面目ない」
そういえばこの国の王様って大きな権力を持っているわけじゃないから、領地の法律の方が優先されるってエミリさんから聞いた気がする。
エミリさん、王族なのに着の身着のままで旅をしているのは、王様が貧乏だからなんだ。
私が同情の眼差しを浮かべていると、エミリさんが咳をする。
「リン、言っておくが同情されるほど貧乏じゃないからな。領地に影響力はないが、直轄地の中では領主と同じ力が発揮される。少なくともその辺の領主よりは金も権力も持っている。貴族たちに徒党を組まれたら逆らえないってだけだ」
「え、同情なんてしてませんよ」
私は視線を逸らして言う。
見透かされていたみたいだ。
私は急いで話題を変える。
「ところで、勇者体質っていうのは王家独特の病気だったんですよね?」
「ああ。副作用はあるが、しかしその能力は絶大だからな。王家が積極的にその血を取り込んだのさ。勇者体質を持つものはその時代に一人しか生まれないってされているから、その病で全員が亡くなるというわけではない。仮に能力に目覚めなくても普通の人より遥かに強い力が得られるしな」
「まぁ、勇者の子孫っていうのは強いっていうのぉ。だからその血筋は重宝されるのじゃ。かつて妖精族も女王も本物の勇者のその血筋を取り込もうとモーションをかけたものじゃが、全く相手にされなかったと聞く」
「え? 妖精族と人間族って子どもができるの!?」
「ああ、できるぞ。特別な儀式が必要じゃし、生まれてくるのは全員妖精族じゃがな」
どうやって作るんだろ――っていうのは聞かないでおこう。
あんまり詳しく聞いてはいけない気がする。
うん、聞かないでおこう。
お風呂から上がって、新しい服に着替える。
本当はツバスチャンの作った料理を食べたいけれど、せっかく用意してくれている慰労会の食事に手をつけないわけにはいかないし、両方食べると運動したとはいえカロリーオーバーだ。
「ツバスチャン。それで、こういうものを手に入れたんだけど」
「ダンジョンコアですか。珍しいですね」
「あ、やっぱりダンジョンコアなんだ」
ツバスチャンが一発で正体を見抜いた。
「これって何か便利な使い道がある?」
「ええ、もちろんですよ。たとえば全身が金や銀でできているゴーレムばかり出るダンジョンを生み出せば大金が手に入りますね」
「やり過ぎると銀が値崩れを起こすからやめてほしいな。経済の混乱が起きる」
エミリさんが困った顔で言う。
金は買い取り額が国の法律で決まっているから金貨の値崩れは直ぐには起こらないらしい。
でも、あまりとり過ぎたらやっぱり金の価値が下がるかもしれない。
「他には薬の素材となる魔物が出てくるダンジョン、経験値の多い魔物が出るダンジョン、採掘や釣りができるダンジョンなんかも作れます」
「それ、私でも作れる?」
「いえ、お嬢さまの魔力では無理ですね。通常の方法でダンジョンを生み出そうと思えば、一万人の命を生贄に捧げて魔力に変換することで何とか小さなダンジョンを生み出すことができるはずです」
生贄って川の氾濫を沈めたり、そういうのにするやつだよね?
地球だと迷信で何の効果も無いと思うけれど、こっちの世界だと生贄に効果があるのか。
怖い世界だよ。
「じゃあ使い物にならないね」
「いえ、私の魔力があればダンジョンを生み出すことができます。これはいいですね。村の中にダンジョンを作って、そこで香辛料の栽培をすれば調理の幅が広がりますし、他にもいろいろと使い道あがります。よろしければいただいてもよろしいでしょうか?」
え? それってツバスチャンの魔力が魔王以上ってこと?
うちのコンシェルジュは最強過ぎる。
そういうことならと、ナイドメアスの杖をツバスチャンに預け、私たちは送還チケットで宿の部屋に戻った。
部屋を出る。
慰労会は宿屋だからこの一階で行われて――あれ?
なんかかなりの騒ぎがする。
階段を下りると、ランドールさんが男の人を取り押さえていた。
そして、その近くに血の付いた短剣が転がっていて、そして――虎貫さんがお腹を刺されて倒れていた。
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