第90話 遊佐紀リンはスッキリしたい
ダンジョンコアというのは、ダンジョンを生み出すために使う物らしい。
そして、一度使うと消滅してしまうそうだ。
魔王がダンジョンを作ったと言われているが、正確には世界中にあるダンジョンコアを呼び覚ましてダンジョンを生み出したというのが正しいという。
「え? じゃあ私がこれを持っていたらダンジョンコアが生まれちゃう可能性があるってこと?」
「問題ない。このダンジョンコアは主に属するようになってる。リンが死なぬ限り、リン以外には使えぬ。まぁ、ダンジョンコアを呼び覚ますなんて、魔王レベルの存在しか……いや、ツバスチャンならもしかして――」
あぁ、あの万能コンシェルジュならダンジョンコアを元にダンジョンを作れるかもしれない。
なにしろ、神鳥なんだし。
開発を使ったらダンジョン作製キットみたいなものが作れるかもしれないって思ったけれど、ナイドメアスの杖から作れる物は何もなかったから、開発でどうにかするのは無理っぽい。
今度ツバスチャンに聞いてみよう。
暫くして、他のみんなが戻ってきた。
「今帰ったぞ! ゾンビはいなかった。これで仕事は終わりだ」
冒険者とギルドの皆が帰ってきた。
わかっていたことだけれど、改めてそう言われて胸をなでおろす。
「皆、ご苦労だった」
「今日の任務は完了です。皆さん、お疲れ様でした。私はこれから養豚場にいる町の方にゾンビ掃討完了の報告に行きますので、これで失礼します」
プディングさんの言葉を継いで、ギルド職員の一人が会釈して、用意していた馬に乗って養豚場があるという方に向かった。
どうやらゾンビ騒動は解決したらしい。
ということで、全員で町に凱旋することになった。
「助かったよ。今回でゾンビ騒動が片付かなければな。町の奴ら避難民とも一触即発状態だし」
プディングさんが言う。
「避難民って、町の人は養豚場に避難したんじゃないんですか?」
「大半はな。とはいえ、本来は人の住む場所じゃない豚小屋だからな。当然、嫌がる奴はいた。豚小屋で寝たくないって言う奴は金を払って宿を取ったり、知り合いや親切な人の家に泊まったりしてな。ただ、そういうわがま――要望を言う奴は大抵何らかの問題を起こすんだよ。窃盗や強盗なんてのも報告があるし、部屋を一つ貸したつもりがそのまま家全体を乗っ取られていたりな」
庇を貸して母屋を取られるってのを本当にやられてる人がいるんだ。
まぁ、自分の町がこんな目にあったりしたら、卑屈になる人とかわがままになる人もいるだろうし。
でも、これで解決……かな?
直ぐに日常生活が元通りってわけにはいかないと思うけれど、建物は無事なところが多かったし、解決だよね。
「気を付けろよ。達成報告をするまでが依頼だからな。つかれているときは注意力が散漫になる。生き残りのゾンビに襲われるかもしれないし、野生の魔物だってこの辺りには出るからな」
ランドールさんが言う。
家に帰るまでが遠足ってことだよね。
うん、町の中じゃないんだし気を付けない……と。
って思ったら身体がよろけた。
「おいおい、大丈夫か?」
「いえ、本当に終わったんだって思ったら気が抜けちゃって」
「ったく、まだ終わってないって注意したばっかりだろう。背中貸してやろうか?
「だ、大丈夫です!」
むさ苦しいおじさんの背中が嫌っていうんじゃなくて、この年でおんぶは恥ずかしいです。
カッコいい王子様みたいな人に背負われるのなら、少しは良いかなって思っちゃうけれど。
「そうか? 娘には評判がいいんだがな」
「え? ランドールさんって娘さんがいるんですか?」
「ああ、先週五歳になった。これが目に入れても痛くない可愛さでな」
とランドールさんがデレデレの様子で娘さんについて語る。
顔は怖いけれど子煩悩のいい人だったんだな。
町が見えてきた。
もうすっかり太陽も傾いてきた。
今夜は昨日泊った宿でもう一泊無料で泊めて貰えるらしいのだが――エミリさんがさっきからうずうずしている。
うん、わかるよ、アレだよね?
そりゃ、私だっていまはアレが必要だ。
街に入り、直ぐに冒険者ギルドに向かった。
私たちが町に入って直ぐに、ゾンビ一掃の報せは街中に広がっていて、冒険者ギルドでは残った職員たちに拍手で出迎えられた。
「ああ、では報酬を渡していく。呼ばれた奴は来てくれ。ランドール!」
と言って次々に報酬が渡されていく。
ナタリアちゃんが銀貨の入った袋を抱きかかえて戻ってきた。冒険者じゃないけれど、協力者としてお金が支払われるって言っていたもんね。
エミリさんは他の人よりも大きな袋を貰っている。
そして、最後に呼ばれたのは私だった。
「最後にリン。リッチの討伐、お疲れさん」
「あの、プディングさん。他の人より袋が小さいんですが」
お金を受け取りながら、小さく文句を言う。
子供料金とかじゃないよね? だったら怒るよ?
「プディングって言うな! (他の奴らは中身が銀貨だが、これは中身が金貨だ。小さくて当然だ)」
「あ、そういうことですか」
「あと、
二つ名?
なんでも高位の魔物を倒したことが冒険者ギルドに認められたとき、〇〇スレイヤーって名乗ることが許されるという。
へぇ、そんなのがあるんだ。
「これで依頼は終了だ。この後、宿で慰労会をする。食事が振舞われる予定だから参加希望者は自由に集まってくれ。遅れて来ても構わん」
私たちの泊っている宿で慰労会か。
それは気になるけれど――
「プディングさん!」
「リン、お前は参加しろよ。なんといっても今回の立役者だからな」
「はい。でも少し用事があるので、遅れて参加します。エミリさん」
私はエミリさんとナタリアちゃんと急いで宿に向かった。
みんなが宿に来てからなら怪しまれるからね。
借りている部屋に戻って、急いで帰還チケットを使った。
いくらゾンビがいなくなったっていってもあのゾンビ塗れの空間にいたんだから、急いでお風呂に入ってスッキリしたい。
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