第86話 遊佐紀リンは銀の銃弾を込める
「ルドムーアは既に滅んでいる。もう三百年も昔の話だ」
エミリさんが淡々と語る。
まるで歴史の授業みたいに。
国が滅ぶというと、戦争とか革命とかそういうものを思い浮かべるが、魔物との戦いがきっかけだった。
皇竜と呼ばれる伝説級のドラゴンとの戦いで当時の王族たちが戦いを挑み――
「全員討ち死にした。そして、ルドムーア王家は終焉を迎える」
「そんな……バカな……」
ドドールさんから黒い霧のようなものが出てくる。
「そんなバカな、そんなことはあってはならない! あっては、あっては、あってはならないのだっ!」
「待て、話を最後まで聞け!」
エミリさんが声を上げるが、ドドールさんは止まらない。
その肉体がいっきに鎖落ちていき、服はそのままでも理科室の骨格標本みたいな姿に変わっていく。
そして、黒い霧がエミリさんを包み込む。
「くっ……なんて力だ」
エミリさんが苦しみ出した。
ドドールさんの攻撃じゃない。
彼の強い想いがエミリさんの勇者体質に反応して彼女の身体を蝕んでいるんだ。
「一生分以上の恨みを受けているかのようだ。リン、武器の準備を」
「でも」
「ドドールじゃない。周りの奴を撃て」
周りの?
見ると、ドドールさんから噴き出した闇はゾンビたちを生み出していた。
しかも、そのゾンビは魔物除けのポプリの効果をもろともせずに私たちに向かって来る。
「あそこまで強い力によって生み出されたゾンビはリッチの完全な支配下にある。魔物除けのポプリも効かない」
「わ、わかりました!」
私は銃を構え、ゾンビの頭を撃ち抜いていく。
それでも数は減るどころか増える一方――パンデミック状態だ。
それに、魔物除けのポプリの消臭効果があっても、臭いが洞窟内に立ち込める。
このままじゃ危ない。
「エミリさん、ドドールさんが落ち着くまで一度退散しましょう!」
「すまん、私は彼を止めなければならない。その責任がある」
確かに、ゾンビの数はさっきまでの比ではない。
この数のゾンビが外に出れば大変なことになる。
「止めるって、どうやって!?」
「殺す。リッチは寿命はないがその命は永遠ではない。頭蓋骨を叩き割ればその活動は終焉を迎える」
エミリさんが剣を抜いて構えるが、既にドドールさんの周りはゾンビだらけになっている。
エミリさんが斬って前に進もうとするが、ゾンビたちの壁は薄くなるどころか段々と厚みを増していく。
私は覚悟を決めた。
銃口をゾンビではなく、ドドールさんに向ける。
さっきまで話していた人を殺したくはないけれど、ここで私が止めないと。
放たれた銃弾はドドールさんの前にいるゾンビに当たった。
もう一発――今度は外れて後方のゾンビにあたる。
焦ったらダメだ。
ちゃんと狙いを定めないと。
ゾンビたちの隙間を縫うように――
――やった?
私の銃弾はしっかりとドドールさんの顔の中心を捉えていた。
でも――
「え!?」
弾かれた!?
ドドールさんの頭蓋骨には罅ひとつ入っていない。
そんな――
「リン、銀の銃弾を使え!」
「はい!」
そうだ、こういうときのために銀の銃弾があるんだ。
私は銀の弾を拳銃に込める。
ゾンビの数はさらに増えている。
逃げないでよかった。
あそこで私たちが逃げていたら、今以上の数のゾンビが生まれて町に溢れかえっていたかもしれない。
でもこんなに増えていたら――
「ゾンビに隠れてドドールさんが狙えません!」
「隙間から狙えないのか!?」
隙間といっても一瞬だけ。
そんなゴルゴ13みたいなことができるはずがない。
ダメ元で銃を撃ってみる。
ゾンビの頭に当たったが、それだけだ。
どうにか、どうにかしないと。
ゾンビの向こうにいるドトールさんを狙う。
【能力:貫通弾を使用します】
え? 能力?
そういえば、アイリス様からゲームの説明で聞いた。
技術書を使う以外にも、能力を覚える方法があるって。
職業レベルを上げる方法と、そして技能を上げる方法だ。
もしかしたら、銃術の技能レベルが上がって、新しい銃の能力を覚えたのかもしれない。
だったら――
「お願いっ!」
私は祈りを込めて、銀の銃弾を撃った。
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