第83話 遊佐紀リンは自分の胸に手を当てる
エミリさんからリッチについて教わった。
リッチっていうのはお金持ちじゃなくて、
今回私たちが戦っていたゾンビは生まれたときからゾンビ。
だけど、リッチは違う。
リッチは元々人間だ。
そして、永遠の命と強大な力を得ようと不死生物になった。
リッチになれば、本能的に他の不死生物を召喚する。
死霊の王と言われるのはそれが理由だ。
民がいない王は王とは呼ばれない。
魔物となり、数年は理性で抑えることができても、何十年も、何百年もリッチを続けていたらその本能に従い魔物を呼び寄せる。
それがリッチだ。
「えっと、元々人間なんですよね? リッチになろうって人は悪い人なんですか?」
「一概にそうとは言えないな。力が欲しい。死にたくないっていうのは人間ならば誰しも持つ願望だ」
確かに、戦うのはあまり好きではない私もレベルが上がって走る速度が上がるのは嬉しいし、重い荷物を苦も無く持ち上げられるようになるのは嬉しい。
それに、死ぬのは怖い。
両親を亡くして、兄を失って、親友が殺されそうになって、それを思い出すたびに私は死ぬのが怖い。
死んでいるのに
「ここか……」
川が洞窟の中に続いている。
エミリさんがランタンを取り出して火を点す。
それでも、ナタリアちゃんの魔法の光に比べると薄暗い。
「リン、長靴を履いていけ」
「わかりました」
釣りのときの長靴を履く。
まさか釣りあげた長靴がこんな役に立つとは思ってもいなかった。
ランタンの光と地図を頼りに川をゆっくりと下っていく。
すると、袋小路に突き当たる。
川の水は岩の隙間に入ってまだ続いているようだが、人間の身体は入らない。
「行き止まりか。私の見当違いだったか?」
ううん、そうじゃない。
地図を見ると、この壁の向こうに空間がある。
まだこの先の空間はある。
でも、砕けるような厚さじゃない。
地図を見ると、細い道があちこちある。
ううん、道じゃない。
それは横穴と言ったほうがいいだろう。
それは網の目のように広がっているが、ほぼすべて行き止まりだ。
私はその一本一本を確かめていき、そして繋がっている穴を見つけた。
「エミリさん、この横穴が向こう側に通じているみたいです」
「本当か?」
「はい!」
四つん這いになって穴の中を通る。
少し狭いけれど、進める。
あぁ、暗くて何も見えないや。
「リン、これを――」
エミリさんからランタンを受け取る。
そして――
「リン、済まないがランタンをそこに置いて、引っ張ってくれ……」
「え?」
「胸が引っかかってな……」
……私、全然引っかからなかった。
自分の胸に手を当てる。
「リン、聞こえてるか?」
あんまり聞こえたくない。
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