第81話 遊佐紀リンは地図の存在を忘れてる

 戦いは三十分ほど続いている。

 ゾンビは一度に押し寄せてきたりしない。

 門が見えたらそこから出ようとするが、その門を見つけるのに時間がかかっているようだ。

 一度に押し寄せてこられたら拳銃で対処できないから助かるけれど、しかし長時間の戦いになると集中力が途切れそうになる。

 

「……あと何人だろ」

「冒険者ギルドからの話だと百匹確認している。リンが倒したのが七匹だから、最大で九十三匹だな。他の連中の頑張りに期待しよう――ううん、あっちの方でナタリアが頑張っているみたいだな」


 東門からナタリアちゃんの魔法の光が見えた。

 あっちも頑張っているのなら、私も頑張らないと。

 ゾンビが来る。

 狙いを定める。

 撃つ。

 最初は結構外していたけれど、命中率が高くなってきている。

 慣れてきたのだろうか?

 銃弾を補充するのもスムーズになってきたし。

 あんまり慣れたくないなぁ。

 またゾンビが来た。

 撃つ。

 

 さらに二時間経過した。

 おかしい。

 もう40匹くらい倒している。

 全部で100匹のはずだから、私が4割?

 そして――


「エミリさん、ゾンビが戻っていきます」

「ああ……魔物除けのポプリの効果がなくなったのだろう。これは失敗だな」


 エミリさんの言う通り、東門から青い煙が上がった。

 失敗の合図だ。

 エミリさんは壁から降りて門を閉じて、東門に向かった。


「どういうことだ? 俺たちは四十匹は倒したぞ。他の連中は何をしていたんだ?」

「儂だってそれ以上の数は倒しておる。全然数が減らぬのじゃ。リン、そっちはどうじゃった?」

「私も同じくらい倒していますよ」


 鉄のインゴットをいっぱい買っておいてよかった。

 一つしか買っていなかったら銃弾が足りなくなるところだった。


「おい、どういうことだ! こっちは三十匹以上倒したぞ!」

「一番下だな」

「一番下じゃな」

「えっと、うん。一番下ですね」


 

 って、全員言っていることが本当なら百五十匹倒していることにならない?


「プディングさん。ゾンビって――」

「ギルマスと呼べ」

「ギルマス、ゾンビは百匹って言ってませんでした?」


 私が尋ねると、他の皆も頷いた。

 プディングさんはうーんと考えて、


「調査をしたときは百匹だったはずだ。どこかに隠れていたのかもしれないな」

「魔物除けのポプリはまだあるんですか?」

「ああ。だが、もう一回分だけだ。通常のポプリを濃縮させた特別品だから手に入りにくくてな」


 ということは、できるのはもう一回か。

 それで全員倒せるのかな?


「そもそも、ゾンビはなんで全部外に出てこないんだ? 門から一番遠い中心部から門まで、ゾンビの足でも一時間もかからねぇだろ?」


 あ、それは私も思った。

 最初は門の場所を探しているのかなって思ったけれど、終了十分前にも大通りを歩いて門に向かって来るゾンビもいた。

 随分とのんびりしたゾンビもいたものだって思ったけれど。


「というかリンよ。おぬしの能力なら中に魔物がどれだけいるかわかるのではないか?」

「え? 私の能力? ……あ、そっか!」


 今更思い出した。

 プディングさんが「どういうことだ?」と尋ねるので、


「私って、近い場所だとどのあたりに魔物がいるかわかる能力があるんです」

「「「「それを先に言え!」」」」


 怒られた。

 エミリさんだって知っているのに忘れていたのだから、私だけが悪いわけじゃないのに。

 とりあえず、地図を開いてみる。

 うわぁ、町の中、まだゾンビがうじゃうじゃしてる。


「えっと、かなりいますよ。一、二、三……十……二十……ええと、ざっと中心部から東半分だけで四十くらい。建物の中にはいないですね。全員外にいます」

「どういうことだ、ギルマスよぉ。建物の中に隠れていたから数を見誤ったんじゃないのか?」


 ランドールさんが尋ねる――というより脅しをかける。

 顔が怖い。

 でも、怒るのも無理はない。

 百匹って聞いていて、実際は倍以上いたんだから。


「あれ?」

「どうした?」

「敵の反応が増えたんです。あ、また増えた」


 さっきまで何の反応もなかった場所に敵の反応が現れたのだ。

 どういうこと?


「リン! どこに敵が現れたかわかるか!?」

「地図とかありますか?」


 プディングさんが地図を持ってきた。

 その地図と私の地図を見比べる。

 私の地図の方が正確だなぁと思いながら、ゾンビが増えた場所を指差す。


「ここです」

「何もない場所だな……墓場だったらわかりやすいんだが。おい、ロート。お前、この町出身だったな。ここに何があるかわかるか?」

「えっと……あぁ、ここはゴミ捨て場ですよ」

「ゴミ捨て場? こんな場所にか?」

「裏の爺さんが廃品拾いで有名で、自分の土地にゴミを捨てさせてはそれを回収してるんです。その爺さんも随分と前に亡くなったんですが、まだゴミ捨て場として使われているはずです」


 この町出身のギルド職員さんがそう説明する。

 ゴミ捨て場でゾンビが増えてる?

 ゴミを餌にして繁殖……なんてことはないよね?


 やっぱり怪しい薬品で?


「……ギルマス、地図を見せてもらえるか?」

「地図ならここに――」

「いや、この町周辺の地図だ。持ってきているのだろう? できるだけ詳しいものを頼む」

「エミーリア。お前も知っているはずだが、周辺地図ってのは機密事項でな――」

「見せてくれ」


 エミリさんはそう言って、冒険者カードを見せる。


「いくらBランク冒険者って言っても……なっ!?」


 プディングさんの顔色が変わった。

 どうしたのだろう?


「見せてもらえるな?」

「わかった……他の奴らには見せるなよ」


 そう言って、プディングさんは地図を用意する。

 エミリさんが興味本位で地図を見たがるわけじゃないよね?

 一体何に気付いたのだろう?

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