第80話 遊佐紀リンは額を撃ち抜く

 最初に到着したのは町の北門だったが、凄いことになっている。

 門が閉じているだけでなく、何枚もの木が打ち付けてあった。

 普通、こういう城郭都市の門って外からの襲撃に備えるために内開きになっているので外から中に入れないようにするなら、かんぬきをしてればある程度の脅威は防げるが、内側からの攻撃に弱いって聞いたことがある。

 上から落ちる鉄格子みたいなものがあれば――って思ったけれど、そういうのは小さな町にはないそうだ。

 まぁ、城壁も二メートルくらいしかないし、本当に小さな町なのだろう。


 梯子を掛けて、流星の若人たちがその城壁を登っていく。

 ランドールさんたちは梯子を受け取り、自分の持ち場の西門へと向かっていく。

 私たちと冒険者ギルドの人たちは東門に向かった。

 ナタリアちゃんが空を飛んで城壁に上がる。


「おぉ、これは絶景じゃのぉ」


 どう絶景なのかわからないけれど、たぶん普通の街並みではないのだろう。


「エミーリア、リン、頼んだ。これはミスラ薬だ。一本持っていけ」

「ああ、任せてくれ。薬はもしものときは使わせてもらう」

「が、頑張りましゅ」


 噛んでしまった。

 エミリさんが梯子を預かり、私たちは二人で南門に向かった。

 さっきまでは大勢いたから平気だったけれど、二人きりになって急に緊張してきた。

 今回の戦いはエミリさんではなく私が主に戦うのだ。


「リン、安心しろ。お前が失敗しても私が剣で門を死守する」

「本当ですか?」

「ああ」


 エミリさんが力強く頷いた。

 失敗しても大丈夫だって言われたら、少し安心して――


「だが、さっきも言ったようにゾンビは臭いからな。できるだけ近くで戦いたくない。頑張れ」

「プレッシャーをかけないでください」


 やっぱり頑張らないと。

 私は梯子を上る。


「うわ……」


 町の中を見ると、ゾンビが何匹も徘徊していた。

 ゾンビって言っても人間としての原型はほとんどない。

 肌の色は土色だし、肉が剥がれて骨がむき出しになっている者もいる。

 ゾンビ治療薬なんてものがあったところで、彼らに投与してもその瞬間死ぬだろう。

 ここにいるゾンビは元々ゾンビとして生まれた魔物だそうなので、治療もなにもあったものではないが。

 私に気付いていないのか、それとも興味がないのか襲い掛かってくる様子はない。

 あれは一体何をしているのだろう?

 目的もなく徘徊しているようだ。


 あまりゾンビを見ていても面白くないので、振り返ると、エミリさんが専用の道具で門に張られた板を剥がしていた。

 そして、それが終わると、狼煙を上げる準備をする。

 既に東、北、西からは狼煙が上がっていた。

 準備が整ったという合図だ。

 そして、エミリさんも狼煙に火をつける。

 私は町の中心をじっと見た。

 暫く待つ。

 すると、町の中心からも狼煙が上がる。と同時にゾンビたちが動き出した。


「エミリさん、合図です!」

「わかった」


 エミリさんが扉を開けた。

 それに気づいたのか、ゾンビが門の方目掛けて走ってくる。

 走るといっても、人間が歩く程度の速さだ。

 町の中心に魔物除けのポプリの中身をばら撒き、門を開ける。

 ゾンビは知能が低いが、しかし障害物を認識できるくらいの力はある。

 逃げる場所を集中させるために、敢えて門を開けたのだ。

 私は銃を構え、ゾンビに狙いを定める。


「ここからはリンの仕事だな」

「エミリさん、いつの間に」

「いいから集中しろ」


 いつの間にか背後に立っていたエミリさんが檄を飛ばす。

 私が13の人だったらエミリさんを撃っていただろうなって考えながら、引き金を引いた。

 ゾンビの腹に当たる――がゾンビは倒れない。


「ゾンビの弱点は頭だ。そこ意外は当たっても効果が薄い」

「は、はいっ!」


 さらに照準を合わせる。

 今度は額に命中した。

 ゾンビが倒れて動かなくなる。


「やった」

「まだ来るぞ。油断するな」

「はい!」


 まだまだ戦いは続く。

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