ウォーキング異世界ハザード
第76話 遊佐紀リンは銀の銃弾を開発する
「右斜め前方から敵!」
エミリさんに言われて私は目標を見定めて聖銃の引き金を絞る。
放たれた銃弾は放物線を描くこともなく、一直線に対象の眉間に命中して沈黙させた。
対象は人の姿をしているが、人間ではない。
ゾンビだ。
その町は現在、ゾンビに支配されていた。
私はファンタジー世界に転生したと思ったら、ウォーキングでデッドかバイオなハザードの世界に転生していたようだ。
というのは冗談にしても、幽霊騒ぎのあとにゾンビ退治とか私は何かに憑りつかれているのではないかと不安になる。
「……あと何人だろ」
「冒険者ギルドからの話だと百匹確認している。リンが倒したのが七匹だから、最大で九十三匹だな。他の連中の頑張りに期待しよう――ううん、あっちの方でナタリアが頑張っているみたいだな」
町の東で魔法の光が見えた。
東西南北四方の町の入り口に遠距離攻撃ができる人間が配置され、町の外に出ようとするゾンビを退治することになっている。
どうしてこうなったのか説明すると、時は昨日に遡る。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
私たちを乗せた馬車がビオンの町に到着した。
冒険者カードのお陰で町に入るのもスムーズに終わった。ナタリアちゃんは相変わらず無料で町の中に入ることが許された。
町の中に入ると同時に、ナタリアちゃんが私の頭の上に座る。
「ナタリアちゃん、何してるの?」
「ううむ、儂が飛んでいたら目立つからのぉ。こうしておれば人形を頭に載せている妙な少女にしか見えんじゃろ?」
「エミリさんの方が乗りやすいんじゃない?」
「エミリの風貌で儂のようなカワイイ妖精を乗せていたら逆に目立つじゃろ」
確かに、似合う似合わないというよりも、目立つ目立たないでいえば目立つ。
誰が人形を持っていても不自然じゃないほど見た目が幼女よっ! というセルフツッコミを入れてしまうのも忘れるくらい納得の理由だった。
「あ、エミリさん! 金物屋があります。あそこで鉄塊を買えないか聞いてみていいですか?」
「ん? ああ、銃弾の材料になるんだったな。ああ、見てくるといい」
普通の銃段は薬莢と銃弾に分かれていると思うけれど、聖銃の場合、魔力で弾を飛ばすので火薬は必要ない。
鉄の塊さえあれば開発で銃弾を作る事ができる。
蝙蝠の牙だったり、カエルの骨だったりでも銃弾は作れるけれど、大量に作るとしたら金属が欲しい。
そこは鍋や包丁といった日用品の他、剣や鎧も売っている。
「すみませぇん」
店員さんが見当たらなかったので声をあげると、奥から頭に頭巾を被ったおばちゃんが出てきた。
「いらっしゃい。あら、初めて見るお嬢ちゃんね。おつかいかしら?」
「あの、鉄の塊って売ってますか?」
「鉄の塊? あるにはあるけれど、何に使うの?」
「えっと……いろいろと――」
おばちゃんは怪訝そうな顔をしたけれど、店の奥から鉄の延べ棒を持ってくる。
「これでいいかしら?」
「これです! 一本いくらですか?」
「売り物じゃないんだけど……そうね。一本150イリスでどうかしら?」
それが安いのか高いのかはわからない。
でも、私にとって銃弾は戦いにおける生命線だし、鍋や包丁などを見ても日本に比べてはるかに高い。
たぶん、製鉄技術がまだまだ発達していないのだろう。
ケチってはいられない。
「三十本くらだい!」
「ごめんね、売ることができるのは五本くらいなの。こっちでも加工に使うから」
「そうですか。じゃあ、五本ください。それと、同じような銀の塊はありますか?」
「大きさは十分の一くらいだけどあるわよ。それでも2000イリスは出してもらわないと売れないわね」
「買います」
私は2750イリスを出してカウンターに置く。
私のポケットからそんな大金が出てくることに驚いたようだけれど、おばちゃんはさっきの鉄の塊より遥かに小さい銀のインゴットを持ってきた。
「重いわよ。持てる?」
「大丈夫です」
私は鞄に入れるフリをして道具欄に収納し、鞄を背負った。
おばちゃんはこれまでで一番驚いた表情を浮かべる。
「力持ちなのね――そうだ、これ持っていって。うちの弟子が作った髪留めよ」
おばちゃんはそう言って鉄でできている髪留めをくれた。
シンプルだけど嫌いじゃないデザインだ。
「ありがとうございます」
早速銃弾の開発を開始。
鉄のインゴット一つで鉄の銃弾100発、銀のインゴット一つで銀の銃弾10発ができるみたいだ。
銀の銃弾っていったら、私の知っている話だとヴァンパイアや狼男の弱点だったはず。でも、それは地球の創作物の話で、こっちの世界ではどうかはわからない。ただ、ツバスチャンから聞いた話だと銀の銃弾には
そういうオカルト系の存在って、この世界には実在すると聞いていても、どこか遠い存在のように思えた。
しかし、つい先日、幽霊の少女と出会い、この世界にはそういう存在もいるんだって思った。
だから、銀の銃弾は欲しかった。
銀貨を潰して銀の銃弾を作ろうかって思ったけれど、銀貨って道具欄に入れてもお金としてカウントされて開発できない。エミリさんに銀貨を真っ二つに斬ってもらったらお金としてカウントされないんじゃないかって思ったけれど、真っ二つの銀貨もちゃんとお金としてカウントされた。半分だけ収納したら50イリスとしてカウントされたのには驚いた。完全に溶かしてしまったら――って思ったけれど、そんな手段は私にはなかった。
ということで、銀の塊を買ったわけだ。
高い出費だけれども、必要なものだった。
まぁ、必要にならないのが一番だけどね。
準備が終わり、冒険者ギルドに向かった。
手紙を届けたら仕事は終わり。
あとは町に出て豚肉料理を満喫する。
その予定だった。
「手紙、確かに預かりました。ところで、皆さんはゾンビ退治の経験はおありでしょうか?」
突然の受付嬢さんの質問に、必要な時が来るのが早すぎると神を呪った。
――――――――――――
アイリス「呪わないでください(泣き)」
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